東海道四谷怪談
四谷町伊右衛門浪宅の場
伊藤喜兵衛内の場
元の浪宅の場
本所砂村隠亡堀の場
玉三郎:お岩/お花
松緑:直助権兵衛
橋之助:小仏小平/佐藤与茂七
千之助:お梅
松之助:按摩宅悦
歌女之丞:乳母おまき
片岡亀蔵:伊藤喜兵衛
萬次郎:後家お弓
仁左衛門:民谷伊右衛門
(9月23日 歌舞伎座)
久しぶりの歌舞伎。歌舞伎座は建て直してからは初めての利用。仁左衛門・玉三郎共演による38年ぶりの四谷怪談ということで、発売早々この演目のみ売り切れだったというが、私は時がたってから(東京から遠い)仁左衛門ファンの友人にこの演目の事を聞き、たまたまE+を覗いてみたら23日の二等席が一席だけ戻ってた。これ幸いと購入。フットワーク軽い東京都民の特権、すまんのう。
この二人の初演の映像がYouTubeに上がっており、予習のため鑑賞。さすがに若く美しい。今やお二人とも70歳超。仁左衛門さんに至っては孫がもう歌舞伎役者として活躍している。今回も仁左衛門さん演じる伊右衛門に横恋慕するお梅を演じる。なんか凄いな歌舞伎界。
しかしまあ、歌舞伎役者とてオペラ歌手と一緒で年取れば芸の円熟味は増すけれど体は衰えるはずだし、容色も衰える・・・はず。だが、玉三郎さんも仁左衛門さんも相変わらず美しい。仁左衛門さんなんて相変わらずのかっこよさだし。玉三郎さんは大女優の風格(男なんだけど)。
四谷怪談自体は遠い昔に勘三郎さんのお岩さんで見た。同じ演目でも演じる役者さんの違いでこんなにも違うのか~とびっくり。勘三郎さんの出た四谷怪談はもう、なんというかエンターテイメント。観客を驚かせよう、楽しませよう、怖がらせようという演出が満載で、特に恐ろしかったのが、お岩さんが化けて出てくるような怖いシーンで、客席の後方から役者さんが沢山「うわ~」と叫びながら出てきた事。ちょっとチビりそうになるほどびっくりした。
ニザタマの四谷怪談は全くそういうのはない。「怪談」ということをすっかり忘れて見ていたくらい。どっちかっつーと「椿姫」の死ぬシーンとか「ランメルムーアのルチア」の狂乱の場を思わせるような気品と芸術性を備えたお岩さん。だからといって全然怖くないわけではなく、だんだんと薬が効いて顔が変わっていき、最後には身づくろいをしてお歯黒で髪の毛をとかすと髪の毛がごっそり抜けたりするお岩さんの表現は流石に恐ろしかった。
孫娘の恋を成就させるため、産後の肥立ちの悪いお岩さんに「血の道の薬」と騙して毒薬を届けたりする近所の伊藤さんちも相当悪いなとは思うけど、とにかく伊右衛門の悪さは相当。お岩さんを裏切り人も殺しまくる(そもそもお岩さんの父の仇を取ってくれる約束で結婚したのに、殺したのダンナなの)。あまりの酷さに私なんか筋書知ってるのに「ええええ」って言ってしまいそうなほど。お岩さんも相当気の毒だけど、お世話係の宅悦さんも相当気の毒だし(浪人で傘貼りなんかしてるくらい貧乏なのになんで雇えるのか謎)、なんか知らんけど冒頭で押し入れに閉じ込められてしまいにゃ殺される小平さんも本当に可哀相。
でもまあ、伊藤家にお礼に行った伊右衛門に恋焦がれる孫娘に会わせるシーンで、「いやオレには奥さんも子供もいるし」と一応躊躇する気持ちは残ってたんだなあとは思った。でもあんな可愛いあでやかなお嬢さんが相手じゃ、そっちになびくのも仕方ないかなあ(でもダメだけど)。
いろいろとまとまらない感想だけど、なんか複雑な感情が入り混じった。久しぶりの歌舞伎は楽しかったけど、なんか「うーん」とか思った。お腹空いてたってのもあるけど。
コロナ禍なので、オペラでのブラヴォーと同じように「大和屋!」などの掛け声がないのがなんかさみしい。あと、私にとって歌舞伎の楽しみの半分は幕の内弁当だもんで。座席でもロビーでも飲食禁止だった。売ってないの、弁当。地下では売ってたのかな。終演後にはもうほぼお店閉まってたけど。
「しゃべるな」とか「マスクしろ」などのプラカードを掲げた係員のおねいさんが休み時間じゅう歩き回っていたため、場内は非常に静か。お話し好きの女性が8割なのにみんなこそこそ話している(まあ、いいことだが)。席は(今やクラシック界では幻となった)1人おきになっていて、隣と前の席は紐みたいなので縛ってあって座れないようになっている。入場時の手の消毒と検温は今やどこへ行っても尾当たり前になった。
お腹すいてたまま帰り、家の近所の持ち帰り寿司屋で半額セールの寿司を買って家で食べた。でも・・・幕の内弁当食べたかったなあ。歌舞伎座は会社の近くなので別に普通に買いに行ってもいいんだけど(残業続きで無理かな)。
仁左衛門さんのお孫さんの千之助さん。筋書の写真見て「ち、千葉雄大君?」と思ったのは私だけではないはず。
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全くの別件だが、「ヴァイオレット・エヴァー・ガーデン」外伝が金曜ロードショーで放映されるということでとても楽しみにしている。外伝は映画館で2回観たけど。(TVシリーズ特別編集版が10月29日、外伝が11月5日)
「ヴァイオレット・・・」はここで何回も書いたくらい大好きなアニメで誰にでも薦めたいけど、仲良しの友人にある日伝説の第10話(お母さんの死後も毎年お誕生日に娘に手紙が届くやつ)をDVDにコピーして見せたんだけど「あざといし、最初から結末がわかっちゃうし全然面白くない」って却下されたので(一瞬「お前には人の心がないのか」と思ったが)、全くハマらない人も存在することを一応書いておく。