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2022年7月31日 (日曜日)

パシフィックフィルハーモニア東京 ツェムリンスキー/抒情交響曲

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ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」
ベルク/抒情組曲より3曲(T.ファーベイによる弦楽オーケストラ編)
ツェムリンスキー/抒情交響曲 作品18
指揮:飯森範親
ソプラノ:森谷真理
バリトン:大西宇宙
パシフィックフィルハーモニア東京
(7月30日 東京芸術劇場)

攻めたプログラミングが特徴?の東京ニューシティ管弦楽団がいつのまにか名称を変更してた。大西宇宙さんのコンサート予定を見てたらこのコンサートがヒットしたけど「このオケはなんぞや。新しくできたのか?」と思った。いやもうどこの団体がやろうが抒情やるんなら聴きに行かなきゃ。昨年大西さんが関西でも歌われてたけど私は自粛して行けず。東京でも歌ってもらえて感謝感謝。

観客は前日のブルックナーとは違い、土曜日でも満員とは行かず。何故か昔行った飯守さん&新響のトリスタンを思い出すような・・・巣鴨のとげぬき地蔵界隈から連れてこられたようなおばあちゃんたちが多く・・・私の隣のおばあちゃんたちも開演前に持ってきた何か料理のおすそ分けをしていたり(あらあ、ありがとーとか言いつつ)、神聖なるベルクの演奏中に飴を音を立ててムキムキしてカラカラを音を立てながら舐めてたり。

まあしかたないや。そういうこともあっての実演。

この日はよく考えられたプログラム。核になるのはベルクの「抒情組曲」か。アルバン・ベルクは「ヴォツェック」からの断章がプラハで演奏された際に(指揮はツェムリンスキー)プラハ在住のハンナ・フックス・ロベッティン夫人(アルマ・マーラーの最後の夫のフランツ・ヴェルフェルの姉にあたる)と知り合い、不倫関係になる。この「抒情組曲」にはこのハンナへの秘密の暗号というかラブレターみたいなことが組み込まれている。ツェムリンスキーの「抒情交響曲」の中の「私はお前のもの」「あなたは私のもの」と歌う音楽が組み込まれていたり、ワーグナーのトリスタンの前奏曲の旋律が登場したりする。

(まあ、音楽的に耳で聴けるのはこれくらいなんだけど、ベルクの自筆の原稿にはまず題名の下に「私のハンナのために」と書かれており、さらにハンナ・フックス(HとF)とアルバン・ベルク(AとB)の音が出てくるところには意味深く注釈がついていたり・・・ともうとにかく楽譜自体が熱烈なラブレターになっているとのことである。これは当然ハンナ・フックスに贈られ、あろうことかフランツ・ヴェルフェル経由?でアルマの手に渡り、ベルクの死後ヘレーネ・ベルク夫人に返された。ひどいねーアルマ。未完の「ルル」第3幕の補筆がなかなか進まなかったのもヘレーネが許さなかったからである。「ルル」にも隠された何かが見つかったらヤダもんねー。)

とはいうものの、演奏会では「抒情組曲」は全曲演奏されず。貰った演奏会プログラムにはシールが貼ってあって訂正されていたのでそもそもは全曲やる予定だったのかな。第1・5・6楽章だけ演奏。だもんで「抒情交響曲」が出てくる部分は演奏されなくて「アレ?」と思った。

トリスタンの前奏曲と愛の死はてっきり管弦楽だけの演奏なのかと思ったら、前奏曲が終わったら白いドレスに身を包んだ森谷女史が登場し、イゾルデの最後の歌を歌った。見事であったが、歌が入る場合はもうちょっとオケは抑えるべきじゃないかな、とは思った。前から10番目くらいの席だったけどちょっと声は埋もれてたんで。彼女はR・シュトラウスを歌う歌手だが決してワーグナー歌手ではないので(いやワーグナー歌手が歌う歌手であっても実演ではちょっと音は抑えると思う)。でも隣のおばあちゃんたちは演奏が終わってすぐ「(森谷さん)すごいわねー、すてきねー」と激賞していたのでよかったんじゃないかな。

さて(順番は違うが)メインのツェムリンスキー。森谷女史は衣装を変えて赤いドレスで登場。髪型も変えていたかな。この曲をナマで聴くのは3回目だ。1回目はかなり前にN響で(ソプラノが釜洞祐子さんだったのは覚えている)、次はアルミンク指揮の新日本フィル。N響の時は「この曲がナマで聴けるとは!」と興奮したし、アルミンク指揮の時はこの曲と指揮者の資質が合っていたのか本当に素晴らしい演奏で、たぶんこのコンビでは私にとってはベストコンサートかと思う。

日本で今一番乗りに乗っている2人のソリストは本当に素晴らしかった。素晴らしいとしか言いようがない。しかしこれは誰のせいでもなく作曲家のせいなんだけど、オケの音が厚すぎて強奏の時はすぐに声が埋もれてしまう。なので実演で聴くときは比較的オケが薄いところの方が私は好きだ。2曲目の「お母さま、若い王子様が!」と歌うのなんか大好きだ。あれってもう今で言う「推し活の歌」じゃない?

・お母さん、推しのコンサートを観に行くのにどんな髪型でどんな服を着てったらいい?
・なんでそんなにびっくりするの?いや私だってこっちが何を着ようが向こうは知ったこっちゃないし見てないことくらいわかってるわよ。
・でも推しの前では奇麗でいたいのよ。もしかして一瞬でも見られるかもしれないじゃない。
・できれば私の付けているアクセサリーを舞台に投げて、彼に受け取ってもらいたいわ。
・そんなにびっくりしないでよお母さん。そりゃ推しが受け取ってくれないことだってわかってるわよ。それどころかだれかに踏みつぶされてしまうでしょうよ。誰のプレゼントかもわからないだろうし。でもいいの。

このあとは男女の愛を交互に歌い(「大地の歌」のごとく二人の声は重なり合うことはない)、いつしか男性のほうが「もうキスなんかたくさんだ!」って怒りだしちゃうし、そんでまあうらみっこなしで別れましょうねとなる。これが不倫を歌った音楽かどうかは知らんけど。そういやツェムリンスキーはアルマの作曲の先生だったけど、当然のようにアルマに恋をしアルマに振られた。

演奏してくれるだけでありがたい、いい曲なのにあんまり演奏されない曲だもんでとげぬき地蔵のおばあちゃんたちはどういう反応だろう、ちょっと心配になったけど、終わったらまた隣のおばあちゃんたちは「素敵だったわね~!!いい曲ね~!!」と激賞していたのでよかったなと思った。私は休み時間にトイレに行って戻ってくる間に席を間違ってしまったりしたので、それを見てて隣のおばあちゃんが「こっちよこっち!」と(知り合いでもないのに)教えてくれたので親切だな、と思った。

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帰りに池袋で夕飯を買ったけど、どんだけトンカツ好きなんだよ私。笠原さんの笑顔に負けて買ってしまった。見た目よりずっとさっぱりしてて美味しかったです。

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