新国立劇場 ばらの騎士 2022
R・シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」
【元帥夫人】アンネッテ・ダッシュ
【オックス男爵】妻屋秀和
【オクタヴィアン】小林由佳
【ファーニナル】与那城 敬
【ゾフィー】安井陽子
【マリアンネ】森谷真理
【ヴァルツァッキ】内山信吾
【アンニーナ】加納悦子
【警部】大塚博章
【元帥夫人の執事】升島唯博
【ファーニナル家の執事】濱松孝行
【公証人】晴 雅彦
【料理屋の主人】青地英幸
【テノール歌手】宮里直樹
【帽子屋】佐藤路子
【動物商】土崎 譲
【合唱指揮】三澤洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】多摩ファミリーシンガーズ
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】サッシャ・ゲッツェル
(2022年4月9日 新国立劇場)
このオペラを新国立劇場で見るのは初めて。それどころか二期会でも見たことないから日本人がこのオペラ諸役を演じるのを見るのは全く初めてなのである。
私のばらの騎士観劇歴(そこそこ輝かしい)
・1994年 カルロス・クライバー指揮ウィーン国立歌劇場(日本公演、千秋楽)
・1995年 ペーター・シュナイダー指揮ウィーン国立歌劇場(ウィーン、クライバー公演の主要4キャスト以外は全部同じ配役)
・2007年 フランツ・ウェルザー=メスト指揮チューリッヒ歌劇場(日本公演、ニナ・シュテンメのマルシャリン、カサロヴァのオクタヴィアン)
他の演目では二期会や藤原歌劇団はそこそこ見に行ってるので、決して「日本人の演じるオペラなんて・・・(ぷっ)」などと思ったことは全くなかったが、流石に本場の公演しか見たことないから最初はちょっと(日本の人が演じるオクタヴィアン、ほぼ宝塚)違和感があった。しかしすぐ慣れた。
前評判で、指揮者の振りがほとんどクライバーのコピー、というTwitterで溢れてたので、本物を2回見たことある者として(えっへん)、2階席の前から4番目で観客の頭をかき分けながら高性能オペラグラスで幕があくまで凝視していたが正直「・・・そうかな、そうかもしれない」くらいな感じだった。てか、あんましよく見えなかった。
しかしまあ、最初のホルンの咆哮から、そうそうオックスのワルツもだけど、「アレ?ここウィーン?」って思うくらい違和感なかった。全然ウィーンだった。ぶっちゃけ学生時代によく実家のビデオで見ていた後の方のカラヤンよりウィーンだったかも。この指揮者全然知らなくてどこの出身かも経歴も知らんかったんだけど、公演見たあと(遅いわ)、Wikipedia見て納得。ウィーン生まれで、指揮者になる前はウィーン・フィルでヴァイオリン弾いてたらしい。これはねえ、身についているんだね。何がどうって言う説明はできないけど、ワルツを刻む「ずんちゃっちゃ」じゃなくて「ずちゃ・っちゃ」なのは当たり前として、かなり雰囲気は掴んでいたと思う。まあ、日本のオケがウィーン・フィルばりにうまい、とか言ってる訳ではないんだけど。
指揮が良ければオケも頑張るし、歌手だってのるし。なんて良い化学反応だろう。指揮だけで私の今まで見た新国立劇場の公演でもかなり良い方に入る。
とはいえ、歌手も素晴らしかった。日本で初役というダッシュ、ローエングリンのエルザでしか(テレビで)見たことなかったけど、マルシャリンでの立ち振る舞いはなんという違和感のなさ。「え、初役をこんな東洋の島国で見せちゃっていいの?」と最初は思ったのだけど、おそらく欧米の歌手はヨーロッパの大舞台を踏む前に日本で試運転をするんじゃないかな(ってのをどこかで読んだ気がする)。新国はアジアでは多分最高峰の歌劇場だし、聴衆の耳も肥えてるし熱心だしマナーも良い。おまけに反応が早く観客はすぐに感想を(幕間でも)Twitterで呟く。こんなに良い試運転はないだろう。日本で肩慣らしをしておいて、次はザルツブルクとかウィーン国立とかドイツのおっきな劇場で歌ったりするんだろうな。
オペラ好きとしての習性として、歌手の外見は二の次で頭で修正して見るのだが、今回はあんまりそれが必要なかった。大抵のマルシャリンは設定よりかなり老けていて、17歳と2ヶ月の少年がお付き合いするにはちょっときついかも・・・と思うことが多い(というか考えないようにしている)けど、ダッシュだったらまあ、まだいけるかなという気がする。そんで、日本人が演じるオクタヴィアンは若干小柄ながら遠目なら(いやオペラグラスで見ても)大体17歳でも許される範囲の可愛さだった。まあ、オッターのような凛々しさは西洋人でもちょっと難しいことが多いかもだが。(ケイト・リンジーのオクタヴィアンが見てみたい❤️です。)
外見のことばっかりで申し訳ないけど、ダッシュは演技も女優かなってくらい良かった。女の私でも見惚れちゃうくらい(隣に座ってた老夫婦のおじさまがオペラグラスで胸の谷間をガン見)。声もワーグナーで鍛えてるからよく通り、良い良い。他の日本人の歌手さんもそれに引き上げられているのか、二期会公演では見られないかも?くらいな名唱が繰り広げられた。二期会の夜の女王、安井陽子さんも最初は(ちょっと苦しいのかな)という感じの高音で珍しいな、とは思ったけどだんだんとルチア・ポップばりの歌唱だった(褒めすぎ?)。ただ、歌手のせいではないけど、登場の時の衣装がグレーでなんかあんまり可愛くなくて、ビジュアルありきのこのオペラではちょっと違和感を感じた。ゾフィーにはシルバーとか薄いピンクを着せてあげたい。
新国のバスといえばこの人、妻屋さんのオックスはとても楽しく拝見。第3幕のハゲ頭はわざわざ剃ったのかな。ただ、あまりにクルト・モルの映像を見慣れてしまって(カラヤンでもクライバーでも)、妻屋さんでさえ「若くて清潔感がありかっこいい」とか思ってしまうので(ほんとですってば)、クルト・モルの怪演はやっぱり世界一かと。あのスケベハゲ親父っぷりはなかなか他の歌手では出まい。
あとは、(別にかっこいい必要はないのに)与那城さんのファーニナルがかっこよくて見惚れてたわ。なんか遠目に見てちょっとステファン・ランビエールっぽいなと思った(あくまで遠目にだよ)。マリアンネが森谷さんって贅沢だけど、これはダッシュがこれなかった時のためかな。森谷さんはマルシャリン、二期会で歌ってるけど。いやでも、ダッシュ来なかったらほとんど二期会(笑)。テノール歌手役にイタリアオペラでは主役級の宮里さんって贅沢。あと、別に歌わないけどモハメッド役のお子ちゃまが可愛いかった。
この日は土曜日で、ネットでの評判を聞きつけてこのコロナ禍でも珍しくほぼ満員。大喝采だったけどあいかわらずブラヴォー禁止で苦しい。紙に「bravo」とか書いて持ってようかな(2階席じゃ見えないか)。欧米のネット放送で見るともうブラヴォーは解禁されてる気がするんだけどな。
この公演とは関係ないけど、山響で「薔薇の騎士」ハイライト的なものをするらしく、石橋栄実さんのゾフィーかあ(ちょっといいなあ)って思った。別件あるので行かないけど。
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