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2021年8月29日 (日曜日)

二期会 ベルク「ルル」(森谷組初日)

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ベルク:歌劇「ルル」(2幕版)
指揮: マキシム・パスカル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出: カロリーネ・グルーバー
装置: ロイ・スパーン
衣裳: メヒトヒルト・ザイペル

ルル:森谷真理
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢:増田弥生
劇場の衣裳係、ギムナジウムの学生:郷家暁子
医事顧問:加賀清孝
画家:高野二郎
シェーン博士:加耒 徹
アルヴァ:前川健生
シゴルヒ:山下浩司
猛獣使い、力業師:北川辰彦
公爵、従僕:高田正人
劇場支配人:畠山 茂
ソロダンサー:中村 蓉
(8月28日 新宿文化センター大ホール)

初日を鑑賞。そもそもパラリンピックの車いすバスケの券を29日早朝を取っており、ルル鑑賞を諦めていたが(まあ頑張れば行けないでもないけど)、ご存知の通りパラリンピックは基本無観客になったのでぎりぎりで慌てて券を購入。

(ちなみに車いすバスケは英国対イランで英国が勝った模様。英国好きなのでユニオンジャック持って是非応援に行きたかったが・・・仕方ないね。)

ルルは好きなオペラだが、実は東京二期会による3幕版日本初演を観て以来、生では全く観てない。新国のは観てない。なんかもう・・・二期会初演を超えるものは日本ではもうないかなって思ったので観なかった。しかも今回は2幕版とのことで観なくてもちょっといいかなって思ってた。

いつもの上野じゃなくて新宿文化センターだったため、オケピットがなく客席の前のほうを利用してオケが入ってた。結構たくさんいる打楽器群は向かって左側に一段上がって配置された。実は券をぎりぎりに入手したので打楽器の真ん前となってしまい、残念ながら舞台が楽員さんの譜面に隠れて見えなかった。

ただ、打楽器に近かったお蔭で「打楽器の譜面ってこんななんだあ」とか、「ここはこの楽器が使われているのか!」とか色々発見があった。とくにでっかいドラが大活躍するのは(今更)びっくり。ルルの魅力的かつ蠱惑的な様を表すのに、手で響きを抑えながらのドラはまさにぴったりで、やっぱりベルクは凄いな、天才だなって思った。ドラ、人をびっくりさせるようなでっかい音だけじゃないんだ。

オケを身近に見聞きしたことで86年も前に死んだ作曲家の、今そこで作られているような作品の息吹を感じられて嬉しかったなあ。また、普段なら指揮者は通路の奥から出てくるのに、通路がないから目の前をパスカル君が通って行くのをが見れたのも嬉しかったし。

さて前置き長くなったが、まず今回の演出について。カロリーナ・グルーバーは二期会では「ナクソス島のアリアドネ」も演出を担当している。その時の印象はあまりにも雑多で情報量が多すぎ、「(演出で)やってることこの半分くらいでよくね?」と思うくらい、色々な事が(とくにツェルビネッタが大変そう)舞台上で行われていた。

今回のルルは、まあアリアドネほどでもないけど若干そんな印象はあった。でも、難解さとは無縁で初めて見る人でもわかりやすいのかなあと思った。ただルル好きとしては残念な部分は・・・このオペラで私の好きなところ・・・第1幕でルルの「私の主人・・・私がもしこの世の中で誰かのものであるとしたら、あなたのものですわ。」とシェーン博士に訴えるところで、録音されたたくさんのルルの声が重なって聴こえるようになっていて、美しいオケが聴こえなくなってしまった。あと、(これは演出なのかどうか知らないけど)ルルが第2幕で「私、あなたのお母さんを毒殺したのよ・・・」とアルヴァに言うところも、なんか大声で宣言してたので、そこはアルヴァを誘惑しながら囁くように不気味に言って欲しかったなあと思った。まあ、私だけかもしれないけど。

あと不満というかソーシャル・ディスタンス上仕方ないのだが、オペラ史上最もエロいオペラなのに、濡れ場がほぼなかったということで・・・いやそういうのを期待してオペラに行っているわけではないのだけど・・・若干ルルっぽくないなって思った。その代わりにルルを模した凄いエロティックなマネキン人形が舞台上にあったが。新国立の「アルマゲドン」の時も思ったけど、ほんとこういうエロティックさを必要とするものの上演はこのご時世は困るな(何でもそうだけど)。演出家も大変だろうな。

「ルル」の演出で一番注目すべきなのは、第2幕のルルが警察に捕まって裁判にかけられ、ゲシュヴィッツに助けられて出てくる場面の映画なのだが、すべてマネキン人形によって演じられる。上演のために作られた映像は大体ベルクの設定どおりみたいだった。それにしてもオペラの途中に映画を上映するって考えたベルクってすげえなって思う。

歌手について。二期会「サロメ」に続いて、森谷さんのルル。サロメとルルはキャラも似ているし、声に力強さもあるのに夜の女王でデビューしたくらいなので、高音も得意な(と思っている)森谷さんにはどちらもぴったりのお役かと。外見も若さがあり、スタイルもよくて安心して観てられる・・・海外公演のヴィデオに若干「これはルルじゃないわ・・・おばさんか?」という人がいるのに比べて。

シェーン博士は代役とのことで、若手イケメンの加耒徹さんが挑んだ。外見はどうメイクしてもスタイルがお若いので最初は見慣れなかったけど、歌唱は全然違和感なく聴けた。外見もだんだん慣れた。もう片方のキャストの小森さんはきっと外見ぴったりなのかなあ。

ベルクの分身と言うべきアルヴァ役の前川さんは、この役の他の録音(ブーレーズ盤のケネス・リーゲルとか)と遜色ないくらい素晴らしかった。高音が頻出する難役だが危なげなく声が出ていた。

シゴルヒ役は普通は本当にお爺さんが演ずる(引退に近いハンス・ホッターとか)ものかと思ってたので、お若い方で若干違和感が。あ、イル・デーヴの方なのね。逆にデブであるべき力業師の役の北川さんがスタイル良くて全然「太鼓腹」でなかったのでちょっと笑った。お二人とも歌唱はとても良かったですが。

歌手の方は皆さん良かった。ゲシュヴィッツ伯爵令嬢もギムナジウムの学生さんも。ただ、ゲシュヴィッツは第3幕も見せ場はまだまだあるので歌うとこ少なくて残念。

さて今回の2幕版。3幕版しか見たことないので、2幕が終わったあとどうするのかなと思ってた。ベルクの伝記を見ると、『今日、一般に行われているのは、(中略)次のようなやり方である。<変奏曲>は幕が降ろされたまま演奏される。<アダージョ>のところでゲシュヴィッツのモノローグが始まる。そしてルルの登場。「ジャックを伴って。ルルはジャックに金をねだる。ジャックはルルに硬貨を与える。二人は屋根裏部屋に消える。<アダージョ>の七十七小節の途中で、部屋からルルの声が聞こえる。<やめて・・・やめてよ・・・やめて、やめて、やめて・・・・・・>。そしてすぐ(七十八小節)ルルの死の叫び声が響く。八十五小節の終わりにジャックが部屋から飛び出して来てゲシュヴィッツの身体にナイフを突き刺す。ゲシュヴィッツは崩れ落ち、ジャックは姿を消す。九十九小節からゲシュヴィッツの最後の歌と死」』とある。(フォルカー・シェルリース著「アルバン・ベルク生涯と作品」より引用。岩下眞好・宮川尚理訳 泰流社)

今回は同様にルル組曲から「変奏曲」と「アダージョ」が2幕終了から休憩なしで演奏されたが、とくに第3幕のあらすじに触れることもなく、ルルと踊り担当ルルが象徴的な振付をして(踊り担当の方、全体的に歌だけでは表しきれないルの孤独や悲しみを表現)、遠くからゲシュヴィッツのルルに向けた愛の告白が聞こえて終わる感じ。本来シェーン博士が2役を演じる切り裂きジャックは出てこないし、ルルも殺されない。ルルの悲惨な最後を見なくてよい、とも言えるか。

(本来の第3幕の筋書は、警察の手を逃れたアルヴァとルルは、パリでインチキ株券を売ってやはり追われる身となり、ロンドンに逃亡、もはやルルが売春をするしか収入の道はなく、ルルもゲシュヴィッツも客として来た切り裂きジャックに殺されて、幕となる。)

さて、最後に指揮とオケ。18年前の3幕上演と同じ東京フィルだが、まあオケのメンバーはずいぶん変わっているのかな。今回私が観たのは初日なので、最初のほうはさすがにオケと歌手が「こうかな?・・・こうかな?」みたいな手探り感が若干あった気がするけど(私だけ?)、全体的には全く引き締まった演奏で素晴らしかった。パスカルって指揮者は初めてなのだけど、若いのにこの難曲でこの指揮は凄いと思った・・・というか指揮者とかほぼ目に入ってこないほど曲にのめりこんでしまった。

曲が終わって最後は「ここで拍手するの?」的な沈黙が若干あったけど、拍手が始まれば大喝采で(ブラヴォーはこのご時世でないよ)、スタンディングオベーションも起こった。東京二期会による(私には)2回目のルル、どちらも遜色なく忘れられない公演となった。

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