二期会/ワーグナー「タンホイザー」(千秋楽)
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」(パリ版準拠・一部ドレスデン版にて上演)
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
原演出:キース・ウォーナー
演出補:ドロテア・キルシュバウム
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
演出助手:島田彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
ヘルマン:長谷川 顯
タンホイザー:芹澤佳通
ヴォルフラム:清水勇磨
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤 圭
ハインリヒ:高柳 圭
ラインマル:金子慧一
エリーザベト:竹多倫子
ヴェーヌス:池田香織
牧童:牧野元美
4人の小姓:横森由衣、金治久美子、実川裕紀、長田惟子
(2月21日 東京文化会館大ホール)
千秋楽にやっと参戦。コロナ禍で最初の予定の指揮者のアクセル・コーバーが来日できなかったので、ちょうど読響のコンサートのために滞在中のヴァイグレが代役を買って出て下さった。コーバーはバイロイトでも振ってる指揮者だけど、正直あんまり知らなかった(ウィーン国立歌劇場のネット配信でリングを聴いた程度)んで、あたし的にはどっちでもよかった。
ヴァイグレのワーグナーは以前、春祭でのマイスタージンガーで聴いたけれど、やけにあっさりした指揮だったので「この人のワーグナーとは相性悪いかも」って思ってた。(音楽監督やってるフランクフルトのリングのDVDは良かったけど)
しかし。
ふたを開けてみると、Twitterでは大評判。そもそも読響はワーグナーに定評があったから、よい演奏になることは想像がついたけれど、とんでもない大名演・・・みたいな感想で溢れてた。なので、かなり期待してた。
演出は、キース・ウォーナー。あの「トーキョー・リング」の演出家だが、あのようなキッチュで面白い演出ではない。以前、コヴェントガーデンのウォーナー演出の「ワルキューレ」を映画館で見て、やっぱり新国のとは全然違ったので「あの新国のやつは特別だったのかな」って思った。
ただ、舞台美術は違ってもその演出家にはいつも共通した何かがあるような・・・気がするんだよね。ウォーナーは何故か・・・いつもハシゴがあるイメージ。(「トーキョー・リング」の「神々の黄昏」の最初のノルンの場面とか、コヴェントガーデンの「ワルキューレ」にもあった)
今回も絶対ハシゴあるよ!って思ったけど、アレ、舞台中央にある籠みたいなやつ、最後にタンホイザーが昇って行ったからやっぱりハシゴだよね、って誰も共感しなそうだけど自分で納得してた。
で、今回の舞台美術の特徴は、名画みたいなのが何回か出てくるってことかな。舞台の後方に「額縁」的なものがあって、幕開けに「ボッティチェルリかなんかの絵画かな?」って思ってたのが実はヴェーヌスベルクのダンサーが静止してて、音楽とともに踊りだすんだよね。あれはすげーかっこいいなって思った。
あと、タンホイザーが人間界に帰ってきて、領主ヘルマンとかが登場するシーンは、レンブラントの「夜警」の絵を思い出す感じだったし、第3幕の最後にヴェーヌスがはだかのダンサーたちと登場する場面は、ワグネリアンで有名な画家ジャン・デルヴィルの絵画(たくさんの裸の肉体が踊ったりからまったりしてるやつ)ちょっと思わせたな。
まあ、演出はよくわからないところも若干あったけど(あの男の子は結局何?とか)、全体的に美しくてとても良かった。ダンサーとか合唱団が椅子を舞台上で運んだりなかなか大変そうだなと思った。
歌手は。ダブルキャストだもんでもう一つのほうの歌手の出来栄えは知らんのだけど。今日出演の歌手の皆さんは平均すればかなり良かったと思った。まあ、池田香織さんを目当てに券取ったものの、大沼さんのヴォルフラムも捨てがたく「どうしようかな~」とは思ったものの、私が観た組のヴォルフラムの清水さんも美声でとてもよかった。っていうか全然初めて聴く歌手さんだけど、知れて良かった。
あと、エリザベート役の竹多さんも初めて聴く歌手だったけど、美声だし声量があってすごくよかった。第3幕のエリザベートとヴォルフラムのシーンはとても切ないものなのだけど、二人とも美声で素敵なアリアを聴かせてくれて、ホロリときた。いいなあって思った。そして俺たちのカオリンは言うまでもなく素晴らしい。いつも素晴らしい。何を歌っても素晴らしい。
ところで、私自身はあんまり「タンホイザー」てオペラはワーグナーの中ではあんまり好きじゃなくて、今回観たのはたったの4回目なんだけど、オケと指揮と合唱が素晴らしすぎて、急に遠い昔に観た初めての「タンホイザー」を思い出した。シノーポリのバイロイト音楽祭の引越し公演のね。シェリル・スチューダーの名唱とか、男声合唱団の身振りとか、第2幕の突然遠くから聞こえる合唱とかが急に私の脳裏に蘇った。そして見事にピッチの揃った二期会の合唱団は、あのノルベルト・バラッチュ指揮の祝祭合唱団を思い出した。そのくらい、凄かった。さすがバイロイトで研鑽を積んだ三澤さんのご指導だけある。
しかし、一番凄かったのは言うまでもなくヴァイグレ指揮の読響。流石に常任指揮者だけあって、ヴァイグレがちょっと振って、ちょっと表情を付けるだけで、読響の「こんなですか?」みたいな感じで凄い表現豊かな音楽が繰り広げられる(今回は指揮者とオケが比較的よく見える席だったので良かった)。いやもう見事というしかない。正直ちょっといつも退屈だなって(私は)思ってる「ローマ語り」も、金管楽器の表情がすごく豊かで、全然退屈じゃなかった。
上演が終わったとたんにオケの人々が大拍手してて、それは珍しいなって思ったけど、この上演を救ってくれたヴァイグレへの感謝の気持ちもあったと思う。いや、二期会も私たち聴衆もどんなに感謝していることか。しかもこんな高い水準の演奏で。もちろん私もスタンディング・オベーション。
比べるのも申し訳ないけれど、おととし聴いた新国立劇場の「タンホイザー」よりも数段感銘深いものだった。新国は世界レベルの歌手だったにもかかわらず、全然今日のほうが演奏は素晴らしかったし、感動した。指揮者が違うとこんなに違うのか・・・というか作品に対する向き合い方(もしかして東洋の島国の団体に対する向き合い方かな?)が違ったのかも、と思った。ヴァイグレは日本の団体をリスペクトしてくれているからなのかも。
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