戦没学生のメッセージ~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校
戦没学生のメッセージ~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校
演奏曲目:
葛原 守:歌曲「犬と雲」
葛原 守:歌曲「かなしひものよ」
葛原 守:オーボエ独奏曲
鬼頭 恭一:「鎮魂歌」
鬼頭 恭一:無題(アレグレットハ長調)
鬼頭 恭一:歌曲「雨」
草川 宏:「級歌」
大中 恩:歌曲「幌馬車」
鬼頭 恭一:歌曲「黄昏」
草川 宏:歌曲「浦島」
草川 宏:ピアノソナタ第一番
村野 弘二:歌曲「君のため」
村野 弘二:歌曲「この朝のなげかひは」
村野 弘二:歌曲「重たげの夢」
村野 弘二:オペラ「白狐」より第二幕「こるはの独唱」
演奏:
澤 和樹(ヴァイオリン) 迫 昭嘉(ピアノ) 秋葉 敬浩(ピアノ) 中田 恵子(オルガン) 河村 玲於(オーボエ) 成田 七海(チェロ) 永井 和子(メゾソプラノ) 金持 亜実(ソプラノ) 澤原 行正(テノール) 田中 俊太郎(バリトン) 高崎 翔平(バス) 森 裕子(ピアノ) 松岡 あさひ(ピアノ) 千葉 芳裕(合唱指揮) 合唱有志
(7月30日 東京藝術大学奏楽堂)
藝大がクラウドファンディングにて寄付を募り、実現させたコンサート。私は寄付はしなかったものの、券を買って聴きに行くということはしなきゃなあと思って参加した次第。だって、私たちが今平和で過ごせるのは、戦争で犠牲になったこのような方々のおかげだもの。
藝大に入学し作曲の勉強をしていたものの、召集令状を受け取り志半ばにして若い命を散らせた方々の音楽を演奏する・・・というコンサート。
まあ、曲自体は学生時代の作品だし、残された楽譜も非常に少ないので音楽だけだったらこのコンサートは1時間半くらいで終わってしまうだろう。ということで半分くらいは主催者のお話と同期のおじいちゃん芸術家のインタビューとかである。
今回紹介された作曲家の方々(英霊というか)の作品はほとんど・・・まあ学生が授業で作ったというレベルのものである。どの曲も易しく、わかりやすい作品。もしも戦後も生きながらえたとしても、才能を開花させていたかどうかは全くわからない。「いい曲だなあ」と思いつつも、衝撃的な曲は少ない。
それにしても、このコンサートではこの作曲家さんたち(の霊)は会場に来ていたのだろうか。藝大の先生の橋本久美子さんのお話しによると、今回のコンサートの企画中に藝大の一室にある日いたところ、元気よくドアをコンコンコンコン!と叩く音がしたという。「どうぞ!」と言っても誰も入ってこない。おかしいと思ってドアを開けてみても誰もいない。そのあと先生を訪ねてきた今回の出演者の一人に「ドアのところに誰かいなかった?」ときいてみたが「いませんでした」との返事。おそらく今回演奏される作品の作曲者の方の仕業かと・・・って、何この「ほんとうにあった怖い話」は。ちょっと怖いね。
その後、今回演奏された作曲家の方々と同期の大中恩先生と野見山暁治先生が舞台に登場しトークショー。もう90歳を超えていてもお元気である。ただ、司会者の方とあまりお話しがかみ合ってないところもありかなりスリリングであった。まあ、見た目は普通のご老人なんだけど、ホントは偉い先生方である。大中先生は「いぬのおまわりさん」や「サッちゃん」などの多くの童謡を作曲された方である。野見山先生は戦争によって命を奪われた藝大生の絵を集めた美術館「無言館」の設立者である。まあ、おじいちゃんたちのお話しはたまにどっか別のところのいっちゃう事もあったけど、いろいろと含蓄のあるよいお話を頂けた。その他気になったのは野見山先生の若いころの写真や自画像はものすごくイケメンだったということである。(昔の画家は何故あんなにハンサムなのかしらん)
まあ、音楽より絵のほうが作品として残りやすいので後世に伝えやすいというのはわかるなあ。音楽はどうしても演奏する人が必要だし、楽譜は本人が持ってたりするのでなかなか人に伝えづらいというのはある。なので今回のこのコンサートは大変意義のあるものなんだと思う。
さて。
今回の(わたし的に)メインの作曲家、村野弘二さんの作品が最後に演奏された。「君のため」という作品はすぐに終わってしまうが天皇に捧げられた?歌のようである。題名の発音も「↑き↓みのため」となるそうである。「この朝のなげかひは」はYouTubeであの畑中良輔先生が歌唱した音源が残っている。これも短い曲だが美しい。「重たげの夢」は伴奏にピアノとチェロを加えた、これも美しい音楽。編成からまるで初期のアルバン・ベルクを思わせる。
最後の「こるはの独唱」は前に私のブログでも取り上げたけれど、このオペラのアリアだけが楽譜で残っており、他は空襲で失われたそうである。YouTubeでこの曲のSP録音が上がっていて本当に何度も聴いたけど、今回の演奏では録音に残ってない最初のピアノ伴奏から演奏された。まるでドビュッシーのような美しい響き。
今回出演された永野和子先生(日本のシミオナート、と勝手に私は思ってる)の独唱は本当に素晴らしく、他に鬼頭恭一さん作曲の「雨」も歌われて、これもドラマティックで素晴らしかった。
この演奏会の関係者の方の尽力によって、もっと隠れた作曲家の楽譜が見つかって演奏されることを期待している。
なお、当日はテレビカメラが何台か入っており。8月1日のTBS「NEWS23」と8月15日NHK「おはよう日本」で放送されるとのこと。もしご興味があればご覧になってください。
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「なんでこのようなコンサートに?」などと思われる方へ。私の好きなタイプの男性は昔っから「田舎のおじいちゃん家の居間に額縁入りで飾ってある太平洋戦争で若くして亡くなった男の人っぽい感じの人(眼鏡必須)」なので、ほっといてください。
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