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2016年10月16日 (日曜日)

マスカーニ/イリス バッティストーニ

マスカーニ/歌劇『イリス(あやめ)』 (演奏会形式・字幕付)
指揮・演出:アンドレア・バッティストーニ
チェーコ(バス):妻屋秀和
イリス(ソプラノ):ラケーレ・スターニシ
大阪(テノール):フランチェスコ・アニーレ
京都(バリトン):町 英和
ディーア/芸者(ソプラノ):鷲尾 麻衣
くず拾い/行商人(テノール):伊達 英二
新国立劇場合唱団 他
東京フィルハーモニー交響楽団

(オーチャードホール)
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ああ、私は大好きなイリスをまたナマで聴いてきたんだなあ。ホントに聴いてきたんだなあ(←信じられない面持ちで)。
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実は。
東フィルさんがこの曲をやるって知ったのがつい最近で、気が付いたら2回公演のうちのサントリーのほうの券はとっくに売り切れていた。だもんで、苦手なオーチャードへ。オーチャードだってなんだか後ろのほうしかなくて、どこで聴いてもイマイチなこのホールのため、いっそ今回は見送ろうかと思ったくらい。
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迷った挙句、3階席の端っこの方で。まあまあ舞台は見えるけど、歌手の声は聞こえないかもしれない。ダイナミックなオーケストレーションに負けてしまうのではないかと思った。
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しかし、わりと杞憂だったみたい。声はさすがに遠かったので銭湯の中の遠くで歌っているような感じだったんだけど、皆さん声量がある方ばかりだったのでオケに埋もれてしまうことはほぼなかった。バッティストーニがこういった場に慣れているからうまく調整してるんだろうな、と思う。若いのにえらいね、なんて。
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それにしてもまあ、まるで新国立劇場が引っ越してきたのか、というたっかいレベルの上演である。まず前奏曲から壮大に歌いまくる新国の合唱の凄さよ。世界一じゃねえのここ。先日のワルキューレは合唱ないから、合唱聴けて嬉しかったす。
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あと、イリス役の人はピンチヒッターということだが、私は彼女は初めてではないの。実は2014年の新国立劇場のカババリの道化師のネッダとして出てる。わりと印象はよくて、色っぽい人妻感と力強い声がネッダにぴったりだった。いかにもヴェリズモオペラの声であった。まあ、今回のイリスは世間知らずの少女なので、キャラとしては少し違うのだけどドラマティックな声も必要な役だし、これはこれでいいのかなと。私の持ってるCDも、イリスはイローナ・トコディなので声の系統は似た感じ。
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バッティストーニの指揮する演奏会は初めて。東京フィルの首席指揮者になったとのことなので、これから日本で見聞きすることが増えるのでしょうね。今朝も「題名のない音楽会」で(先週もか)見たところである。テレビの印象ではちょっとドゥダメルと似てるかなあと思ったけど、現物はもっと太ってた。・・・というのは、うちのテレビはアナログ時代のをそのまま使用していて、縦横の対比がちょっとおかしくなっているので、たいていの人はスリムに見えるのである。
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テレビで見たときは「ずいぶん激しい指揮ぶりだな(ちょっと笑えるくらい)」と思ったけど、本物もすごく激しかった。たまに指揮棒を両手で持って振るときがあって、バーンスタインみたいだなと思った。すごくメリハリが効いていて、熱情がこちらにも伝わってきそうである。
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今回は演奏会形式だったのだけど、多少小道具もありいの、ちょっとした演技もありいのという感じだった。背景にはバッティさん自身が選んだというその場面にあった浮世絵が映し出されていた。例のイリスの「大蛸アリア」の時は無論、北斎の「蛸と海女」の絵だった。あれはこの曲の演奏の時しか見たことないんだけど、要は春画でねえ・・・おこちゃまが観客席にいたけど。
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まあ、そういった指揮者の思い入れの強いこのイリスなんだけど、日本を舞台にしたオペラなのに、もう演奏はイタリアしか感じないのね。すっげえイタリアなの。普段は「まあ、イタオペだからイタリアなんだろうな」くらいな感じなんだけどね、日本のオケ。すっごい今日はさらにイタリアだった。こないだ近所のイタリアンの店で食べた、本場で修業したシェフがこさえたピザを思い出した。「もうね~~土台から違うの~~~!粉から違うの~~~!」って言っちゃうくらい。
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それと今まで結構この曲聴いてるんだけど(実演・CD)、「へええこんな表情が」とか気づくことが多かった。ちょっとした強弱の付け方が工夫されてて、ピアニッシモとか効いてて感銘を受けた。
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だもんで。
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実のところ、この曲を結構知っているからこそ、聴き進めていくうちに「このオペラの舞台は日本です。」という事実がどんどん受け入れられなくなってた。目で見える字幕・背景と、耳から聞こえる本場イタリアの音楽が、どんどん私の頭の中でばらばらになってしまってた。
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てなもんでつくづく不幸なオペラである。こんなアホな内容でなければ、音楽は素晴らしいのに。日本人が聴くから余計ヘンな違和感がある。せめてインドとかアフリカとか関係ない国が舞台ならよかったのに。イタリアではきっと蝶々夫人を見聞きするのと感覚は一緒なのだろうな。
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歌手の方はみんなよい声をしていた。日本の方もイタリアの方も。聴こえてくる音楽がとても美味しかった。すべてが・・・すべてが素晴らしかった。あのヘンテコな筋書以外は。
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もういっそ、オペラじゃなくてカンタータとして聴くのはどうかしらん。最後の幕なんて、まるでシェーンベルクの「グレの歌」みたいだ。あの滑稽なくず拾いのテノールの歌、太陽をたたえる壮大な合唱。
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ああ、サントリーで聴ける人がうらやましい。楽しまれ。
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(ところで、家に帰って解説書を読んでたんだけど、この曲の筋書の根底にあるのはギリシャ神話のダフネだと。そう言われてみればシュトラウスのオペラのダフネも、強烈な自我がないまま男の人にホレられて結局受け入れられず月桂樹になってしまうだね。なるほど的ね。)
 

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