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2016年4月11日 (月曜日)

東京・春・音楽祭 ジークフリート

ワーグナー:『ニーベルングの指環』第2日《ジークフリート》
(演奏会形式/字幕・映像付)
映像:田尾下 哲 指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークフリート:アンドレアス・シャーガー
ブリュンヒルデ:エリカ・ズンネガルド
さすらい人:エギルス・シリンス
ミーメ:ゲルハルト・シーゲル
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ファーフナー:シム・インスン
エルダ:ヴィーブケ・レームクール
森の鳥:清水理恵
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル )
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
(4月10日 東京文化会館)
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<あらすじ>
あなたの結婚しようと思っているその女の人は、あなたの実のオバさんだよ!
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今年もやってきた、上野のリング。今年は休日の券が買えたので、半休をとらずに済んだ。まあ、ウィークデイだろうが休みの日だろうが、春の上野は同じように混んでいる。もう桜も散ってしまって葉桜なんだけど、みんな普通にブルーシートを敷いて昼間っから飲んでいる。
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何でもいいのであろう。飲めれば。
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「玄関出たら、40分でバイロイト」とか言いながらバイロイト音楽祭ばりのファンファーレを聴くために、1時間早く到着。ファンファーレは第3幕の、ジークフリートと祖父に当たるヴォータンの一騎打ちの場面の音楽である。カッコイイのう。で、あそこのシーンはまるでスター・ウォーズのようだよね。親子じゃないけど。
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で、まあ。初日ではないので、もう色々とTwitterなんかで初日の感想は見ているのでどんなんだかわかっている。とにかく、おそらく日本ワーグナー上演史に残る(すくなくともワタシのみじけー鑑賞史には残る)上演である、ということはわかっている上での鑑賞。
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・・・って思いながら聴きはじめるので、最初からすごく緊張して鑑賞。いかにもミーメらしい風貌のシーゲル。性格テノールというよりは、普通にヘルデンテナーなのだそうで、歌うまい。で、表情は豊か。かわいい。
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そんでもって、ジークフリート役のシャーガーが「はいやは~~~」とぶっ飛んでくる。普通にコンサートのスーツを着ているけど、表情とか演技はもう、ジークフリートそのものである。はりきりすぎて蝶ネクタイが外れちゃったみたい。声は・・・何系なのか目をつぶって考えてみたら、なんかその昔のルネ・コロのような感じであった。そもそもシャーガーはオペレッタ歌手だったというから、その経歴はコロととても似ている。懐かしい、この輝かしい明るい声。
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そんなこんなで、我々聴衆はシャーガーのとりこになってしまった。鍛冶屋さんのシーンは「金床叩きスト」の打楽器奏者が配置されていたけど、シャーガーは一緒に叩く身ぶりをしながら、この凄いパートを歌いきった。終ったとたんに大ブラヴォー。もう、観客は第1幕で終わってもいいくらいの大盛り上がり。でも、あと2幕もあるんだよん。
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「我々は、もしかしたら凄い公演を体験しているのでは・・・何十年に一度しかないような」という雰囲気をふつふつと感じながら、第2幕へ。最初はジークフリートは出てこない。アルベリヒとさすらい人(ヴォータン)の場面である。でも、このシーンだってもう、目を離せないくらい凄くて。何か不思議な発声の歌手、コニエチュニーのアルベリヒだってもしかしたらグスタフ・ナイトリンガーばりの凄さじゃない?って思うくらいのド迫力だった。大蛇役のシム・インスンは大きな拡声器みたいなのを口に当てて歌唱。
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森の中のシーン。今年もウィーン・フィルのキュッヒルさんがコンマスだったので、有名な、あの大好きな美しい「森のささやき」はまるでウィーン・フィルの弦のような響き。ショルティ盤で育ったワタシは狂喜。なんて美しいの。そしてジークフリートは演技力抜群で何て素敵。聴衆のみんなが大好きになってしまうよ、ジークフリート。森の小鳥さんは5階席から歌うので凄い声量。小鳥じゃなくてペリカンくらいに感じ。でもうまかったです。
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2幕終って。何だかもう、ロビーは凄く混んでいるし、どこかに座るどころか立っておやつを食べる場所さえなくて、階段の手すりに佇み立ったままメルヘンの三元豚サンドイッチを食べていると、同じように居場所に困った女性が横にいたので、少し階段を下りて居場所を作ってあげた。そのくらい混んでいるのですけど、もしかしてバイロイトもこんなですか?(←行ったことないので)
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第3幕はエルダの登場。エルダ、なんか凄く若い人のように感じたのですけど気のせい?お声は深くてよかったですが。そしてファンファーレでも聴いたヴォータンとジークフリートの一騎打ち。第3幕のオケは心に来るねえ。ワーグナーは「森のささやき」の途中で「ジークフリート」の作曲を中断して「トリスタン」を書いたから、音楽が格段に深くなっている。
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やっとブリュンヒルデを起こすシーン。1幕から相変わらず全く疲れの感じない美声をビンビンと響かせているシャーガーさんの歌を聴きながら、「ワタシはもう少しの間、ワーグナーが大好きでいいんだ。」とか思った。「もう、ヴィントガッセンが都市伝説とか、コロやイエルザレムをなかったことにしなくていいんだ。ワタシの生きている世界に、ヘルデンテノールが現れたんだ。もう『ヘルデンテノールもどき』の声に我慢しなくていいんだ」とか考えて、とても嬉しくなった。そんでもって、ジークフリートに起こしてもらったブリュンヒルデと一緒に「あなたを産んでくれたお母さんに幸あれ!」と思った、シャーガーに。ホントにありがとう、生まれてきてくれて。ホントにありがとう、日本に来てくれて。
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一幕ごとに聴衆みんなは盛り上がり、最後は勿論スタンディングオベーションだったんだけど、ホントにどんなに感謝しても感謝したりないくらい。歌手の皆さんもみんなよかったし、N響の皆さんももの凄くよかった(ホルン・ソロも完璧!)。実はあんまり好きじゃないヤノフスキも、今回はもう・・・いつも感じる「ワーグナー独特のうねりがない」とか「やたら早い」とかももうどっかに吹っ飛んでしまうくらい良かった。なんたって今年はバイロイトでリング振る指揮者だよっつー自信にみなぎっていた感じ。そして譜面台はあくまで低く。
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おうちに帰って、「もしかしてこれって一番好きな1953年のクレメンス・クラウスのバイロイトに比肩する名演かもしれない」と思って、ジークフリートの最後の二重唱だけ聴いた。ヴィントガッセンがバイロイトで初めてジークフリートを歌って、あまりの素晴らしさに音楽が終わる前に大拍手が始まってしまうやつね。シャーガーさんはヴィントガッセンとは違う声質だけど、このバイロイトの聴衆と同じような気持ちだったかも、この日の日本の聴衆。
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