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2015年10月 3日 (土曜日)

二期会「ダナエの愛」①

R・シュトラウス:歌劇「ダナエの愛」
ユピテル/大沼 徹
メルクール/糸賀修平
ポルクス/高田正人
ダナエ/佐々木典子
クサンテ/佐竹由美
ミダス/菅野 敦
ゼメレ/北村さおり
オイローパ/江口順子
アルクメーネ/塩崎めぐみ
レダ/石井 藍
4人の王&4人の衛兵/前川健生 鹿野浩史 杉浦隆大 松井永太郎
指揮:準・メルクル 
東京フィルハーモニー交響楽団 二期会合唱団
演出:深作健太
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<あらすじ>
触ったものが全部黄金になったら不便でしょうがないのでロバ引きに戻りましたとさ。
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Bキャスト?を鑑賞。初日は残業で無理だったので券取らず(社畜なので)。今日も午前中だけ会社に行って午後に上野へ。
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twitterで昨日この上演の様子を確認しまくってたんだけど(残業中に)、一般市民のあまりの評判の良さにひどくびっくらこいた。あたしらシュトラウス好きから言っても、このダナエはすごくマイナーなオペラである。私の一番好きな「影のない女」だって(薔薇騎士やサロメに比べると)かなりマイナーだと思うけど、それでもごくたまーに上演される(日本で3~4回見てる)。けどこんなには評判にならなかった。
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やっぱりtwitterやFBの威力の凄さを見たわけで。この評判を聞きつけて、今日だって急に出かけた人だっていただろうしさ。
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で。まあ私は(生は初めてだけど)全く初めてこの曲を聞いたわけでもないし、日本語字幕付のDVDを持っているので他の観客よりはちょっとはこの曲に近しいと思う。でも、ホントは...あんまりわかってなかったんだよね。音楽の良さは凄くよくわかってたけども。
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今回は深作Jrの演出がとてもわかりやすかったせいなのか、何の疑問もなくすうっと入ってきた。
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まあ、演出のこまかいところは他のブロガーさんが書くだろうから書かないけど(逃)。なんというか、第1幕と第2幕はヨーロッパの地下墓地とか、あとクリムトの絵画やゼセッション館なんかを想起させ、第3幕は大震災のあとの東北のガレキをイメージ。第1幕と2幕は結構普通の演出だと思う。
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印象に残ったのが、ポルクス王の姪4人(いい味出してる!)の洋服や髪形がベートーヴェンフリーズを思い出し、あのカッコができて羨ましく思った。また、クリムトの絵を思い起こされる美術や、シュトラウスの音楽もまたクリムトの絵のようで華やかで装飾的なので、自分が昔行ったベルベデーレ宮殿を思い出し、懐かしくなった。
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この映画監督の作品は全く見たことないので(バトルロワイアルなんか見ないよ、血みどろとかコワイもん)、何がこの監督の持ち味なのかは全く不明だが、映画より演劇の演出をしたものを見てみたいな、と思った。
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で。
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多分、この監督「らしさ」というのは第3幕にあると思う。美しい宮殿はユピテルの雷によって破壊され、見る影もなく廃墟のようになった。特徴的なものとして・・・遠くには破壊された原子力発電所?が見えるし、そのヘンに壊れた冷蔵庫とかビール瓶のケースとかが転がっている。ドイツの爆撃された廃墟というよりは、もう日本のガレキしか思い浮かばない。演出のポイントはやっぱり・・・第3幕なのかな。
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そう言えば、この曲唯一のDVDが出たのは震災の年で、私が観たのもこの年だったので、第3幕を見て涙が止まらなかった。ガレキっていうのがどうもダメだ。
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やはり、今日も第3幕でダナエが一人で米を研いだりしながら(!)幸せそうに歌っているところで、その歌や音楽の素晴らしさもあるけど、日本が誇るプリマドンナ、ノリコササキさんの幸せそうな表情になんかすごくやられてしまって、だめだった。涙がぼろぼろ溢れて止まらない。久しぶりにオペラで号泣。あーどうしようう。
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いやこれなんの涙?と思ったけどなんだかよくわからなかった。「金よりも愛が大事」とか「大きな愛よりも男女間の小さな愛を大事にしていこうよ」というこのオペラのテーマが全く私には関係ないので(お金・・・大事でしょ)、泣けたのはそこでない気がする。
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おそらく。
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この曲のもっと大きな愛・・・シュトラウスの後世の人々への強いメッセージのようなものを感じ取ったのかなと。この曲を作曲した頃、戦争の影響でこの曲の公的な初演は作曲者の存命中にはできなかった。シュトラウスの私的な関係者だけ集めたゲネプロだけ上演されたというのだ。そして「この次はもっとよい世界でお会いしましょう」とかウィーン・フィルの楽員に言ったとか・・・言わなかったとか。
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シュトラウス爺は、お友達のマーラーとかと比べると長生きだったから、戦争とかナチスとか、経験したくもない世界を経験しちゃった。ユダヤ人のお友達や脚本家と交流、その上息子のヨメがユダヤ人たったから、自分の家族を守るためにナチスに半ば協力(っぽいことを)しなければならなかった。表面はポーカー好きのハゲオヤジな印象しかないんだけど、色々大変な人生だったんだよね。それを思いながらこの曲を聴いていると「ああ・・・シュトラウス・・・こんなに大変だったんだあ・・・」って思っちゃうんだよね。
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(それと比べて、あまり長生きしなかったけど、あまり嫌な世界を見なくてよかったマーラーって幸せだったのかも・・・。)
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とにかくどこもかしこも美しい音楽が溢れていて、幸せな気分だった。とくに第1幕の金の雨が降ってくるシーンと、第3幕の冒頭、間奏曲、ダナエの歌、いやもう全部良かった。
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歌手の方の印象。
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佐々木典子さんは、いつも二期会でシュトラウスを演じるときに主役を歌っておられるので、とても慣れた感じだった(ダナエ日本初演も歌っておられる)。ずいぶんベテランの歌手さんなのに、今日はホントに可愛くて清純な乙女のようだった。迫りまくるユピテルの横っつら張り倒すの、好き。(彼女の発案らしいが)
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このオペラでは大好きな役メルクールを、新国立の「ピーター・グライムズ」のボブ・ボウルズ役高橋淳さんのカヴァー代役を勤めた(素晴らしかった)糸賀さんが演じた。ワグネリアンの演出家・・・という影響か?まるでローゲのような軽妙な演技だった。放射能防護服?で放射能を計測しながら登場、防護服を脱ぐとオペを始める医者のカッコだった。黒縁めがねが可愛くて、恋をしてしまいそうだった。
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ダナエに振られまくるユピテルを、カッコイイ大沼さんが演じた。まるでヴォータンのような風貌だし、高身長で正直ダナエがこっちになびいてしまうかも、という危機感はあった。ミダス役の菅野さんは若くて美しいというよりはとても誠実そうな好青年という印象だった。
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演奏。オケの鳴りが素晴らしすぎて、何だか日本のオケということを忘れてしまった。遠い昔にラジオで聴いたサヴァリッシュ&バイエルンと遜色ないのではないか(妄想)。前の「トーキョーリング」が素晴らしかったメルクルの指揮も冴えに冴えていた。こんなマイナーなオペラをこんな凄い演奏で聴けて、ほっぺたつねってしまうほど幸せだった。
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唯一残念だったのは、演奏の話ではないけれど、私の後ろの席に座っていた老夫婦の奥様?が演奏中にひっきりなしに「うふふ」「きゃはは」と劇に反応していたので、気になってしょうがなかったこと。家で見てるんじゃあるまいし、「黙って下さい」とか言ってもだんなさんに怒られそうなので黙ってたけど。明日はいないといいな、そういう人。1階席前から8番目だったよ、その人。キモイ。
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終演後、演出家のトークショー的なものがあり、参加。聴き手は大野徹也さんとゴーカ。深作Jrさんはとっても若くて普通の可愛いオニイチャンという風情。全く悪い意味でなくよい意味での七光りなのかな。よい才能。「タンホイザー」もいいけど、将来的には「影のない女」の演出もやってほしいな。歌える歌手がいるかどうかわからんけど。

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コメント

やっぱりいってましたね。
同じ日で観てました。音だけでは理解できなかった「ダナエ」の音楽、舞台で観て初めて理解できました。地味だけれど、“名作”です。「影なし女」より、余程僕的にはジンときました。
深作君の演出、詰め込みすぎかなぁとは感じましたが、変な読み替えもせず、DVDの映像より台本のテーマに沿っていてOK。Bキャストではありましたが、佐々木さん、大沼さん、菅野さんの歌唱もよし。
メルクルの指揮した東フィル、いつもの水準以上の演奏ではありましたけれど、メルクルの他のオーケストラとの演奏に比べるとなぁ・・・。読響か東響で聴きたかったシュトラウスであります。
ムッときたのは、最後の最後で、イタ・オペのごとく拍手が始まっちまった事。二期会の観客って、こんなもの?

投稿: IANIS | 2015年10月 4日 (日曜日) 09時12分

>>IANISさん

はい!行ってました。3日目も行ってたんですけどね。

ホントにわかりやすい演出で、「ぶらあぼ」なんかで「初めてオペラ見る人にもおすすめです」的なことを書いてあったり、昨日の深作監督のアフタートークで「(オペラファンじゃないのに)深作監督の映画の大ファンなので来ました」みたいな人もいるくらいだったので、今まで難解なオペラだと思ってたのに、とっても意外な感じでした。

AキャストもBキャストも素晴らしかったけれど、やっぱり個人的にはベテランの歌唱が心に残りました(福井さんと佐々木さん)。

私は東京フィル素晴らしかったと思いました。・・・というかこの曲は音楽自体が素晴らしすぎて、演奏がどうのとかつい忘れてしまうんですけどね。

3日目も最後は早くも拍手が起こりました。いや全然こんなもんでしょうね。そんなわかってるマニアばっかりじゃないと思うんで、諦めてます。ワーグナーだったら怒るけど。

投稿: naoping | 2015年10月 4日 (日曜日) 21時14分

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