« 青ひげ公の城 新日本フィル | トップページ | カンブルラン/読売日響  トリスタンとイゾルデ② »

2015年9月 6日 (日曜日)

カンブルラン/読売日響  トリスタンとイゾルデ①

ワーグナー: 楽劇『トリスタンとイゾルデ』
トリスタン:エリン・ケイヴス
イゾルデ:レイチェル・ニコルズ
ブランゲーネ:クラウディア・マーンケ
クルヴェナル:石野繁生
マルケ:アッティラ・ユン
メロート:アンドレ・モルシュ
牧童、舵手、若い水夫:与儀巧
指揮シルヴァン・カンブルラン
男声合唱:新国立劇場合唱団
読売日本交響楽団
(サントリーホール)
. 
<あらすじ>
みんな死ぬ、みんな。 byマルケ王
.
待ちに待った、トリスタン。これとラインとダナエのために生きてきたようなもんだ今年は。
.
しかし。しかしだな。
,
指揮者カンブルランについてはやや懐疑的だった。わたし、トゥランガリラしか聴きに行ったことないし。フランス人だし。もしかして気の抜けたビールみたいな演奏になるかもしれない。いやいや読売日響さんだって、こないだのマーラー酷かったもん(わたし的に)。
.
でも。歌手がいいので、声を聴く分には文句ないな、と思ってた。
.
クルヴェナールで既に2回聴いてる石野さんと、バイロイトで素晴らしかったマーンケ(無論、ラジオでしか聴いてないけどね)、韓国の伝統芸バスのユン、いつもいい声を聞かせて頂いてる与儀巧さんも。
.
指揮がちっとくらい気に入らなくても、1万2千いくらだったら、お買い得なくらいよ。
.
しかし、今日の演奏は予想を大きく上回るいい演奏だった、オケ。カンブルランの指揮もすごいよかった。踊ってた。読響も本気だった。新国立の飯守パルシファルの時の東フィルと張るくらい凄い演奏だった。
.
カンブルランの指揮の方向性としては、大好きな飯守さんとか何年か前に聴いたバレンボイム(そもそもはフルトヴェングラー)とは正反対。どっちかっつーとC・クライバーに近いかなと。早めのテンポ、この曲にありがちなデモーニッシュな感じやねっとり感は皆無。
.
カンブルランは本拠地シュトゥットガルトでこの曲を振ってるから、おそらく歌手とのバランスとかを非常に気を遣って、決して声をオケが覆わないようにしてるのだと思う。なので、どんなにトリスタンが調子が悪くとも(いや、そもそもあんなもんなのかもしれんが)、聴こえなくなったりはしなかった(まあ、私は一階席前から10番目だったので大体はよく聴こえたんだけど)。やや薄めのオケ、とは思いつつもこれはこれでいいなと。
.
今回は演出はぜんぜんなし。「演奏会形式」と言いながら最近はなんかしらの演技とか照明やら背景に映像とかアニメとか?を上演するのが多いんだけど、今日はそんなのなかった。でも、それが一番いい。トリスタンはオケが雄弁だから、字幕さえあればいいの。わたしなんかもう、生トリスタン10回目くらいだから、字幕さえあんまり見てないけど。
.
しかしまあ。
,
トリスタンを生で聴ける幸せは、何物にも代えがたい。「またトリスタン??もうアンタ何回目よ」とか言われるけど(おととい友人に言われました)、もうこれは一種の病気みたいなもんで、とにかく日本でやってくれるのであれば、ぶっ飛んで行くのである(新幹線で行ったことあり)。登場人物に誰ひとり共感できなくとも、そんなこと関係ないのである。
.
前奏曲から愛の死まで、とにかく幸福感でいっぱいだった。となりのおっさんのたまに聴こえる「ねちょっ」という口を開く音が気になったのと(ごめん、ワーグナーの時以外はそういうのはあんまり気にしないんだけど)、どっかのおっさんのいちいち幕切れに起こるフライングブラヴォーの奇声以外は、とても有意義な演奏会でした。来週このおっさんたちに出会わないことを祈るばかりだ。
.
歌手。(トリスタンはアメリカ人、イゾルデはイギリス人、ブランゲーネはドイツ人、クルヴェナールは日本人、マルケ王は韓国人という、第二次世界大戦?のような布陣。音楽の世界は平和で素晴らしい。)
.
イゾルデ。そもそもの人が病気とかで代役の人が歌った。そもそもの人は写真で見る限りドイツ人重量級イゾルデな印象(写真で想像するのもなんか違う気がするけど)。代役レイチェルさんはちっともイゾルデっぽくない外見(どっちかっつーと髪形からバーバラ・ボニーみたいな印象)だったし声も重量級ではない。イギリス人イゾルデというとクライバー盤のマーガレット・プライスを思い出すけど、アレとも違う。声だけだったらベーレンスに近いかも(そっくりではないけど)。「イゾルデは恋する少女」というそもそもの設定からは外れてない、しかも声量はあるしかなり良かった。好きだな。
.
トリスタン。そもそもあまり期待してないので、最後までちゃんと歌えれば「可」としている。今回は他の歌手があまりに素晴らしすぎたので、ちょっと点が厳しくなるのは仕方ないけど、いやトリスタン役は本当に大変なんですよ。全世界でも現在トリスタン歌える人って2~3人じゃないの?
.
ブランゲーネ。安定感半端ない。第一幕など初めてこの曲聴く人が「こっちがイゾルデ?」って勘違いするんじゃないかなって思うほどの存在感。C・ルードヴィヒみたいに、イゾルデ歌ってみたらどう。
.
クルヴェナール。フルトヴェングラー盤ほど若すぎず、C・クライバー盤ほどジジイ過ぎず、ちょうどいい(男の色気溢れる)クルヴェナール。もう、世界一だ。ただ・・・この役でさえ歌うとこ少ないと感じる。グンターとか聴いてみたいわ。

石野さんとユンさんの異父兄弟役!
https://youtu.be/CvjoBXpZ6X0
.
マルケ王。オペラ見たことない人にこの人の声を聞かせたい。これ、マイクなしなんですよ。オリンピックレベルのデカ声。韓国とかモンゴルとかなんでこんなに高レベルのバス歌手多いの。
.
メロートの人、ちょっとかっこよかったなあ。
.
チョイ役全部やった与儀さんはいつも素晴らしい。つか、これらの役でしか聴いたことないんだけど(すいません)。
.
男性合唱は新国立だから当然素晴らしい。合唱指揮はこないだマーラー7番で聴いた冨平さんだったよ。
.
------
.
「あー、今日はワーグナーをバケツ10杯くらい頭からかぶったような日だった~。びしょびしょ~、でも幸せ」とか思ったら、帰り道に本当にバケツ10杯くらいかぶったようなゲリラ豪雨に遭った。でも幸せ。

|

« 青ひげ公の城 新日本フィル | トップページ | カンブルラン/読売日響  トリスタンとイゾルデ② »

コメント

naoping様

こんばんは。

素晴らしいトリスタンとイゾルデだったご様子、文面から伝わって参ります。来週にもあるので、今サントリーホールをチェックしました。すると、2階席ですがS席で僅かに残っており、これは聴きに行きたいと思いました。

それにしましても・・・「口を開く音」とはビックリです。私も以前、グルベローヴァ嬢サヨナラ公演のアンナ・ボレーナの鑑賞中、30秒ごとに鼻をすする方がいらして休憩中に御話したことがあります。どうやら、鼻の穴に何か詰めて下さったようで、鼻水が垂れずにお互い仲良く集中して聴けましたが、悪気のないことについては相手も私も言い難いです。。。

投稿: michelangelo | 2015年9月 7日 (月曜日) 21時39分

>>michelangeloさん

いやあ、ほんとに素晴らしかったですよ。来週また行けるので幸せです。あんな悲劇なのに、なんて幸せな気分にさせてしまうオペラなんでしょうトリスタン。 行かれることをお勧めします。

ネットを賑わせているフラブラより、実はこの「口を開く音」のほうが(演奏中ずっとだったので)気になりました。新国立でのトリスタンでも隣人の鼻息ピーヒョロピーヒョロに悩まされました。でもこういうのって絶対本人気がついてないですよね~。「口あけないで下さい」とも言えないし。鼻すする音はまだ言えるかもです。

投稿: naoping | 2015年9月 7日 (月曜日) 22時41分

師匠さま

まずすみません、この場をお借りしてこの度の水害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。

11年前、私の住んでいるところも水害による甚大な被害がありました。犠牲者もおられました。
その際、往年の名ソプラノ中沢桂先生が「歌に生き、恋に生き」を近くのホールで歌って下さいました。それをみんなが客席で涙を流しながらお聴きしました。
なのに・・・同年10月23日に新潟県中越地震が発生。悪夢のような年になりました。
今回の水害が少しでも被害が少なくなるよう願わないわけにはいらせません。

すみませんでした。
今回の「トリスタン」も実は第3幕は涙、涙でした。「トリスタンってこんなに泣けるっけ?」って自分で思ったほど・・・

今回のキャストは代役のイゾルデを除いてはほど昨年、シュトゥットガルト歌劇場でのプレミエメンバーです。

イゾルデのレイチェル・コリンズさんはちょっと美人の美声で声量もあり、今はちょっと肥えてしまったけれどニーナ・シュテンメを思わせるべっぴんさんイゾルデぶりだった気がします。

トリスタンのケイヴスさんは「最後まで歌ってくれてありがとう!」って感じ。それはそれで十分素晴らしいことです・・・ブーって言っている人もおられたようだけれど。

他のキャストは「とにかく素晴らしかった!」だの陳腐な表現では表現できないくらい良かったです。

中でも石野クルヴェナル・・・あんなトリスタンに忠誠心を見せる表現をされたら僕泣いちゃいます(←風見慎吾じゃないよ)
なのでちょっと良い意味での反則。あれで涙腺をやられちゃました。

石野クルヴェナルを拝見しながら三枝せんせーの「忠臣蔵」を思い出した私・・・。「石野さんの中の日本人のDNAは忠誠心を表現するのにぴったりじゃないかっ!」と勝手に関連づけていました。

シュトゥットガルトでも音楽監督らしきお仕事をされているカンブルランのワーグナーは確かに心配でしたが、それは良い意味で裏切られましたね?

読売日響も3幕冒頭のホルンがちょっと外れたのと、ヴィオラかな?「ピッチちょっと低いんじゃ?」と思った以外はほとんど(?)瑕はなく、はんぱない集中力で緩急自在なワーグナーでした。
確かに新国「パルジファル」の時の東フィルのような感じかな?東フィルって指揮者によって集中度変わりますから。

休憩時間に飯森泰次郎せんせー発見!図々しく「ラインの黄金新潟から2回観に行きます!」と宣言したら、飯守せんせーったら振り付きで(!)「襷がけしなくちゃ!」と笑っておっしゃって下さったのです。
もうせんせーの前で泣いちゃいましたよ。本当はそんな涙もろくないんですよーーーー!!

投稿: えーちゃん | 2015年9月10日 (木曜日) 21時41分

>>えーちゃんさん

上京・長丁場お疲れ様でございました。
このような長い(すごい)コメントにどうお返事したらいいものか悩んだのですが、まあホントに素晴らしい演奏でしたね。日本におけるトリスタン演奏史上に残る名演だったと思います。

私は小心者なので、飯守さんになど演奏会場で話しかけることなどできず、星飛雄馬のお姉さんのごとく柱の陰でちらちらと見ているしかできません。

投稿: naoping | 2015年9月12日 (土曜日) 16時38分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: カンブルラン/読売日響  トリスタンとイゾルデ①:

« 青ひげ公の城 新日本フィル | トップページ | カンブルラン/読売日響  トリスタンとイゾルデ② »