アルバン・ベルク:歌劇「ヴォツェック」
【指揮】ギュンター・ノイホルト
【演出】アンドレアス・クリーゲンブルク
【美術】ハラルド・トアー
【衣裳】アンドレア・シュラート
【照明】シュテファン・ボリガー
【ヴォツェック】ゲオルク・ニグル
【鼓手長】ローマン・サドニック
【アンドレス】望月哲也
【大尉】ヴォルフガング・シュミット
【医者】妻屋秀和
【第一の徒弟職人】大澤建
【第二の徒弟職人】萩原潤
【白痴】青地英幸
【マリー】エレナ・ツィトコーワ
【マルグレート】山下牧子
【合唱指揮】三澤洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】NHK東京児童合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
[芸術監督]尾高忠明
[共同制作]バイエルン州立歌劇場
(4月5日(土)新国立劇場大ホール)
過去記事:新国立劇場・ヴォツェック(2009年11月23日)
初日に行ってきました、びちゃびちゃヴォツェック。土曜というのに、あんまり席うまってないみたい。私の居た2階席の列は、がらがらで快適でした。まあ、劇場側としては困るが。
この演出の新国初演は観たので、今回は2回目。初演のときはあんまりはまらなかった。ぶっちゃけつまんなかった。なんか演出がことさら暗いし救いがないし。合唱団や出演者の衣裳やかつらがぜんぜん美しくなくて、正直まいってしまった。
ヴォツェック大好きなのに。
だけど、もうこういうもんだと最初からわかっていれば、もうがっかりしない。大丈夫だ。
初演ではまらなかった原因のもう一つは(ファンの方読んでたらごめんなさい)、ヴォツェック役の歌手もマリー役の歌手もぜんぜん私のタイプじゃなかったからかなあと思う。あたしの中のヴォツェックとマリーは、あんなじゃない。じゃどんな?って言われるとアレだけど。
だもんで、今回はマリーは私の好きなツィトコーワたんだし、ヴォツェックの歌手も映像で予習していったので、大丈夫だなって思った。
あと、はまらなかったもう一つの理由が、指揮がゆるすぎたからだと思う。これは・・・今回もわりと心配だったんだけど。
で。
前置きはこのへんにして、今回のヴォツェック。観に行って良かった。良かった最大の理由は、ヴォツェック役の歌手がよかったから。
ゲオルク・ニグルさん。ウィーン少年合唱団の出身だという。人気ソリストだったそうな。私は少年合唱団にとくに思い入れがないのでよく知らないんだけど、ウィーン少年合唱団は日本公演でちっちゃな子供向けのオペラをやってたので、彼はそういうのに主役とかで出てたんだと思う・・・「バスティアンとバスティエンヌ」とか。
小さいときから人前で舞台で演技をしてたから、そういう道に進んだのかなあと。ただのバリトン歌手ではなしに・・・演技派として。
いや、ほんと。ニグルさんは舞台俳優だと思った。私は何回かヴォツェックを(生でも映像でも)観たけど、まあ普通のバリトン歌手が演じるわけだから、ヴォツェックを表すのは歌手の演技というよりはその台本だったり、音楽だったりするわけなんだけど、ニグルさんの場合はホント、ちゃんとヴォツェックを演じてた、そのものになってた。
(前日の予習用に見たボリショイでの映像は、現代に置き換えた演出だったのでヴォツェックはスーツ姿だったんだけど、マリーを殺したあとの狂った演技がものすごくて、もう笑っちゃったほどよ。ニグルさんはシェーンベルクの「昨日から明日まで」の映像もあるらしい。)
ということで、席が空いてるのは勿体ないので、観に行って下さい。ニコニコキャンペーンとかいうのがあるらしいし。(しかし若者が「ヴォツェック」を口実に女の子を誘って、観終わったあともしかしてイヤーな空気になったり帰っちゃったりしないかなあと心配。これがもし「死の都」だったらいいデートになりそうなのだが。)
他の歌手。マリー役のツィトコーワたんはお人形さんみたいにカワイイ。声はさすがに(ワーグナーで鍛えてるだけあって)素晴らしい。ロシア人らしい深みのあるよく通る声だし、まったく隙がない。表現も素晴らしい。ただ(こんなことを思うのは私だけかもだけど)、こないだの「死の都」のマリエッタ役のミラーさんにも感じたけど、こういったビッチな役でも、普通はちゃんとした声楽の教育を受けて海外にまでやってきて歌ってるような(育ちのよい)歌手さんがするわけなので、どうしてもちょっとお上品に見えてしまう(私は)。彼女らは私生活では絶対オトコを誘ったりしなそう。これはまあ、舞台女優ではないので仕方ないことなのかもしれん。
(そう考えると、初めて生で観たマリー役のW・マイヤーはほんとに役にハマってたなあと。不自然さなしだったわ。納得。ベーレンスもマリーと似たような境遇の人生だったはずなので説得力あり。)
その他の歌手さん。アンドレス役の望月さんはいつもながら美声。妻屋さんはあのマッド・ドクターの衣裳を着ることをどう思っているのだろう。外国の歌手とまったく遜色ない歌いぶりなのは相変わらずだけど。実験用のねずみさんは昼公演のためケースの中で動かず(ねずみ、歌わない)。
子役の男の子はほぼ出ずっぱりの重要な役。前の時の子も思ったけどあの大舞台でちゃんと役目を果たしてて素晴らしいなと。カワイイし。
ちょっと注文があるとしたら、最後の少年合唱がちょっと元気良すぎるかなあ・・・もっと元気なくてヘタなほうが現実味(そこらへんの子供感)があってあたしは好きだ。ベーム盤の少年合唱ヘタだったもん。まあどっちでもいいけど。
オケは良かったです、間延びした感じは前回よりはなかったし。ボリショイのキレキレの指揮と演奏を聞いたあとだったのでちょっとアレでしたが。もうちょっとキレキレでもいいかもとは思いますが、これは指揮者のせいなのかもしれません。
前回の指揮者はカーテンコールのとき長いゴム長履いてたので期待してたんだけど、今回は普通の長靴だったので残念。
あと・・・あのびちゃびちゃ舞台で濡れたおふとんを布団乾燥機で乾燥させているところを見学してみたい、とか思った。