二つの「死の都」、どうだった?
↑草葉の陰で日本での状況にびっくりしている作曲者。
過去記事:びわ湖ホール/「死の都」(第一日目)
コルンゴルト「死の都」新国立劇場
さてさて。私の「死の都」祭は終りました。(さみしい・・・初めてウィーンに行って・・・「死の都」のCD自分土産に買って日本に帰ってきて・・・一晩明けた朝みたいなさみしさ)
こんな珍しいオペラで二種類全く違う演奏者・指揮者・演出・ホールで観るなんて、ヨーロッパでもなかなかなさそう。大きな大きな夢が二つ終わったみたい。二つとも見られて本当によかった。
で、やっぱり皆さまが知りたいのは「二つの死の都、観てみてどうだった?」ってことだよねえ。うーん。
えーと。二つ観て思ったのは、同じ曲なのにこんなに違うのか~~~ってこと。確かに耳に残ったのはあの曲なんだけど、終ったあとの気持ちがまるで違うんだよね。
どっちも好きだし、どっちも(平均すれば)同じくらい良かったと思いました。
以下、自分であとで見て楽しいので覚書。(発表しちゃうけど)
1.券のお値段。
新国立は「このクォリティで、この値段は安いよ」って言われますが、やっぱり・・高いなあと。びわ湖は(まあ、東京から行ったので電車・宿泊のお金はかかりましたが)かなり安いなあという印象。あれだけのものを見聞きして、一等席で1万3千円は安いと思ったす。関西人はオペラに2万6千円も出さないってことかしらん。(・・・考えてみると2倍なのね)
2.オケ・指揮者
席が、ぜんぜんオケからの距離が違うので、何とも言えない。びわ湖は沼尻さんの思いが恐ろしく伝わってきてダイナミックでよかったけれど、そのぶん少し滞ってた部分もあったなあと。新国の指揮者はさらさらと流し過ぎ。纏綿たるロマンティシズムはどこに。でも聴きやすかったかな。ウマイ・ヘタとかわかんないです。
3.歌手
平均すると、びわ湖のほうが良かったっていうアンビリーバボーな感想(第1日目だけですが)。
パウル役の鈴木さんが、神経質なオタッキーヒッキーな役作りで、それがマリエッタ/マリー(美しい魅力的な砂川さん)を失って現実に戻ることができない・・・というところに親近感というか、結構キタなあ。演じた人が日本人だからなのかな?なんかわかるわあって思った。(←っていうかこれ書きながら思い出して涙出るの何故)
鈴木さんは声量は少し足りない感じはしたのですが(そもそもドラマティックではない人なんで)、細かい表情付けとかがかなり考えられていたし、高音も美しかったし私はとても素敵だったと思いました。ただ、3階席とかだったら聴こえなかったかも。
新国のケールは意外と・・・体格のわりには声が小さいんだな、線が細いんだなっていう印象。歌い慣れてたって感じはすごくした(いいんだか悪いんだか)。でも世界クラスのパウルを聴けてよかった。コルンゴルト自身にも似てるしね、なんか。
マリエッタ役はもう、あちこちで大絶賛されているのでアレだけど、砂川さんの圧勝。あんなに可愛い魅力的なマリエッタを見せられたら、もう他は受け付けない。まあ、「ボエーム」のムゼッタのドラマティック拡大版って感じの役ですな。
ミーガン・ミラーさんもすごくよかった。声量もあったし、素晴らしかったです。やっぱり世界クラスかも。しかし・・・それプラス何かがなかった。あの美人のダイナミックボディから何の色気も感じなかったのは何で。
(ワグネリアン・ソプラノ並みの声量+プッチーニのヒロインの色気・可愛さってなかなか難しいですね。)
フランクはそんな重要なアリアがあるわけではないので、どちらの方も良かった、ということで・・・問題は第2幕の「ピエロの歌」を歌うフリッツだと思う。びわ湖の時のピエロの歌は・・・良かったぞう。とても心がこもってたし。観客は涙をぬぐっていたし。声楽的には新国立の外人さんが優れていたのかもしれないけど、なんか直立不動で全然このアリアをわかってない気がした。泣けなかったし。
ブリギッタは・・・びわ湖2日目の「家政婦はブリュンヒルデ」池田さんも大いに気にはなったが、1日目の加納さんはやっぱりいつものように心がこもっててよかった。わりとこの役好きなんだよね。一番自己投影できる役だ(独身だからかも)。「私は独身ですが、ここは愛が溢れています」って切々と歌う所が結構うるうるした。しかし、パウルが出てっちゃったらブリギッタはどうするんだろうか。他の家の家政婦になるのかしらん。
4.演出
演出は根本から全然正反対なのがまた、面白い点だった。
びわ湖は大胆な舞台機構を駆使してたのに、意外と歌手は何にもしてなかった。2幕で劇団が結構踊ってたかなくらいで、ほぼ直立不動。このところの現代的な演出に慣れているはずの歌手さんたちが手持ち無沙汰だったのがアレだった(そんじゃ、何年か前のWミッチー公演と変わらんじゃん)。でも、それはそれで、曲自体を楽しみ、語り過ぎるくらい雄弁なコルンゴルトの音楽を楽しむのには良かったのかもしれない。そこは好みなのかな。
新国立の演出は、それこそト書き通りのことを全部視覚的に再現しているって感じであった。たとえばブリギッタが「この家は愛に溢れています」と歌うけど、ホントに部屋中マリーさんの写真や思い出の品に溢れているし。マリエッタが窓を開けて外を見ようとすると、外の景色が見えちゃうどこの話じゃなくてグーグルアースだぜえ。外見えすぎ。全体的になんかやりすぎ感もあるんだけど、さすが映画音楽作曲家の作品、映画を見てるみたいでよかった。マリーの亡霊がずっと出てたのは(否定的な人もいるかもだけど)、やっぱり映画的でよかったと思う。
5.舞台美術
びわ湖ホールってこんなに色々できるんだって思うくらい色んなことしてました。第2幕で二つに分かれてた舞台がざーっと後ろに下がって、上からホーンテッドマンション(またはドンキーコング)的な舞台やら黒い月だか降りてきて、ダイナミックだったし、その時のコルンゴルトの音楽もダイナミックでよかった。もっと普段から使えばいいのに(って思ったけど、他のホールとの合作が多く、兼ね合いできないんだって)。パウルの家のふるーいカビ臭そうな感じはとても出てた。狭小住宅的な感じもしたけど。
新国立はとにかく美しいし、おもちゃ箱をひっくり返したような。北欧のデザイン建築に住んでるのかな?っていう金持ち感はあった。ただ、「ここは何もかも古くてオバケが出そう」ってな感じはなくてそれは台本通りじゃなかったなあ。ホントにオバケ(マリー)出てたけど。
6.観た後の感じ
びわ湖はなんだか出演者に感情移入しすぎて、パウルがホントにかわいそうだったし、ホントに立ち直れるのかなあ、自殺しちゃうんじゃないかなあと思った。で、大泣きしたくなったくらい悲しみと喪失感に見舞われた。(東京に戻ってしばらく薬局とかコンビニとかで男性の歌う「お前に逢いたい」的なバラード調の曲がかかると涙が出てしょうがなくなってしまった。今はなおったけど。)
新国立は大胆な舞台装置のお陰で、なんかとてつもなくデッカイオペラを見た感じがして終ったあとなんかすっきりした。観た!終った!良かった!っていう、いい公演を見た後の普通の感想。ケールは今回うまくいかなくてもまたヨーロッパの別の歌劇場でパウルを歌うんだもん。感情移入なんかしないよ。
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ところで、昨日の新国立ですけど、お休み時間に1階席をプラプラしてたら、怪しい手品師みたいな大きな黒い覆いをかむった人が鎮座してまして。不審に思って覗いて見たらテレビカメラだったみたいです。もしかしてテレビで放送するんすかね?私のいた2階席の前方にも黒い覆いはありました。前のびわ湖トリスタンの時はホールの横にNHKの車が止まってたので「あーやるんだ」って思いましたけど。
びわ湖版の再演を切に望みます!東京か神奈川で。
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コメント
自分もふと思い立って行こうかなと…行けばよかったかも。
関西まで来た甲斐がありましたね。
>ホーンテッドマンション(またはドンキーコング)
これがよく分からず…もしかして「またはびっくりドンキー」ですか?
投稿: ぜん | 2014年3月17日 (月曜日) 23時52分
>>ぜん さん
「ふと思い立ったら」行かれることをお薦めしたかった(もう遅いですけど)。新国立はもし今行くの迷ってる方がいましたら「迷わず行け!」っていいます。
ホーンテッドマンション&ドンキーコングはどうも舞台を見た人にしかわからないかもですね・・・。
投稿: naoping | 2014年3月18日 (火曜日) 23時23分
はじめまして。相当「死の都」にハマられましたね(笑)
私もびわ湖の初日に行って、砂川さんのマリエッタに感激しました。あと、ピエロのフリッツがとても情感たっぷりで、よかったと思います。新国のほうのプロモ映像見ても、ピエロはびわ湖のほうがよかったのではと思います。
あと、びわ湖のほうのセットは大変大がかりで凝っていましたよね。第二幕が始まって間もなく、音もなくパウルの「亡き妻の祭壇」の部屋が、後方深くまでスーっと消えて行く。見えなくなってしまうと同時に、奈落からドライアイスの霧と共に、ブリュージュの廃墟のセットがゆっくりと、せりあがってくる。不気味な雰囲気がよく出ていて、これがパウルの幻視、イリュージョンだと言うことを、わかりやすく説明しているかのようでした。
このオペラってすごくいいのに、タイトルでずいぶん損してますね(笑)
投稿: grunerwald | 2014年3月22日 (土曜日) 02時31分
>>grunerwaldさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
びわ湖一日目行かれたのですね、ラッキーですね。砂川さん、東京でもマリエッタ歌ってほしいし、せめてNHKニューイヤーオペラコンサートでマリエッタのアリア歌ってもらいたいです。
ピエロの歌はねえ・・・新国の外人さんはやっぱりキャラクターが違うんじゃないかと。ピエロのかっこしてるけど全然ピエロじゃないし。びわ湖のフリッツの方は歌に情感こもってたし、なんか踊ったりして可愛かったです。
びわ湖のセットはここぞとばかり大胆に動かしてましたよね。すごく迫力あってよかった。新国のセットも綺麗だったし色々としかけはあったものの、全部パウルの部屋で展開されていたので、このオペラをよく知らない人は混乱してるかも?とか思いました。
死の都って名前は最初ヒきますね。ホラーっぽい、わかりにくいのかと思ってしまいます。まあ、新国の演出は幽霊出るからホラーかも?
投稿: naoping | 2014年3月22日 (土曜日) 20時11分