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2013年4月 4日 (木曜日)

東京・春・音楽祭 ニュルンベルクのマイスタージンガー

ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
(全3幕/ドイツ語上演・字幕付/演奏会形式)

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
ハンス・ザックス:アラン・ヘルド
ポークナー:ギュンター・グロイスベック
フォーゲルゲザング:木下紀章
ナハティガル:山下浩司
ベックメッサー:アドリアン・エレート
コートナー:甲斐栄次郎
ツォルン:大槻孝志
アイスリンガー:土崎 譲
モーザー:片寄純也
オルテル:大井哲也
シュヴァルツ:畠山 茂
フォルツ:狩野賢一
ヴァルター:クラウス・フロリアン・フォークト
ダフィト:ヨルグ・シュナイダー
エファ:アンナ・ガブラー
マグダレーネ:ステラ・グリゴリアン
夜警:ギュンター・グロイスベック
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ

東京文化会館大ホール

さっき行ってきました。ホントは日曜日行きたかったのですが売り切れてたので(もっと券探せばあったのかもしれんが)、半休取って行ってきました。

Kc460151上野はとっても混んでた。普通の日の昼間なのに。もう葉桜なのに。みんな花見してた・・・んだか何だかわかんないけど人がいっぱいいた。せっかく上野公園でお弁当食べようと思ったのに。

で。文化会館の前の謎の銅像の前で人がシャメを構えていたので何だろうと思ったら、開演前のファンファーレが始まるとこだった。うう、否が応でも気分は盛り上がるぜ(まあ、シャメの人の半分以上はこの上演とは関係ない人だったような気がするが)。

で、演奏会。
.

<あらすじ>
ヴァルター「マイスターなんかいやだああ。」
ハンス・ザックス「マイスターなめんな。」
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えーと、この音楽祭自体初めて行ったのだ。なので、このワーグナーシリーズが今までどんなのだったのか、実は知らない(前に一度、券は取ったことあるんだけど震災で中止)。そういったことも踏まえて書かせて頂くと。

今日の上演は本当に全くもって「演奏会形式」だった。オペラじゃないなって思った。普段はオケピットにいるはずのオケを利用して、もっと曲自体の表現力とかをきめ細やかに再現したような演奏で。

まるで、オペラじゃなくて大きな大きな声楽付の交響曲を聴いたような感じだった。例えて言えば、マーラーの3番とかの。

(まあ、指揮者はどう思って指揮したんだか知らんけどね。)

大体、最初の有名な前奏曲だって普段と違ってて。

いつもは「新装大開店!!」みたいに盛大に盛り上がるこの前奏曲も、何だかいつもよりややおしとやかな感じなので最初からあたしは頭にハテナマークを乗っけてたくらいで。(まあ、この前奏曲って普段は演奏会で単発で聴くことが多いし、それだけで完結してしまう演奏がほとんどだからなあ・・・)

幕が上がって(いや、幕はないけど)、オペラが始まってからもこの曲のいつものダイナミックさにイマイチ欠けてて、そして普段は会社で働いてるはずの普通の日の3時からの演奏会だったので、ワーグナーでは珍しく、少しウトウト。

で、なんだかなあ。どうもやっぱりあたしはオールドスタイルなワーグナー演奏に慣れているんだなあ。だもんでついつい「飯守さんだったらこんなじゃないよなあ」とか、なつかしんでいたわけだ。

そんで一幕目が終わって、ロビーでパンダマドレーヌ(オッジの。さくら味で大変おいしゅうございました)とブラックコーヒーを頂いて席に戻ろうと思ったら、何か見なれた、完璧にセットしてある白髪のマッシュルームカットの男性がホール入口で客席を神々しく見降ろしていらっしゃって。

ああ、あたしのネ申が降臨したなと。

しかし、引っ込み思案なのもので「私、先生のワーグナーの大ファンなんです!」とか言っても何か怒られそう(おっかないイメージしかない)な感じがしたので、星飛雄馬のおねえちゃんのように陰からちらちら見守るしかなかったでした。

さて、演奏会の事にもどろう。

この演奏会の舞台構造?について。一番前にせり出した舞台が半円に作ってあってそこに独唱者が並び、その後ろに指揮者、オケ。指揮者と歌手はお尻を向け合っているので、どうやって指揮を見ているのだろうか不思議に思った。鏡とかあるのかな。

で、合唱団の後ろに大スクリーン。そこに全幕に渡って鉄拳のパラパラ漫画が上映された・・・わけではなく、その幕にふさわしい風景画(ダヴィンチのデッサン画のような色合いである)が映し出された。そしてそのスクリーンの中央に横書きで字幕が映されるというしくみ。

その字幕も、普通オペラの字幕って一行か二行くらいなんだけど、結構何行でもイケルぜくらいな感じ。例えば。二幕の最後のカオスな場面では色んな役の人のそれぞれの歌詞が同時に映し出される。革命的な?しくみである。まあ、最初は係の人が慣れてなかったのかちょっと演奏と合ってなかった気がするが(気のせい?)、あとのほうは(第3幕の五重唱の所など)効果抜群であった。ただ、少々字が小さく、私は一階席の前から11番目だったのでまあ見えたけど、後ろの方の人はあまり見えなかったかも。

歌手について。

この演奏会の主役は(まあ普通に考えて)何と言ってもヴァルター役のフォークトであろう。私は新国のローエングリンをパスしたので、今回彼の声をナマで聴くのは初めてである。何でパスしたかっていうと・・・金を節約した事の他に、バイロイトのラジオ放送で彼の声を聴いて、どうもワーグナーに異質のカン高い声に馴染めなかったもんでな。

で、今回見聴きしたけど、まああまり声の印象は変わらなかったんだけど。

何と言うか、不思議な歌手である。外見は・・・たくましい肉体に長髪、何か・・・スーパーマンとか、ヨーロッパからやってきた謎のプロレスラーといった雰囲気で・・・いずれにしても短パンと黒タイツ、編みあげブーツが似合いそうな感じ。

なのに、声は凄いリリックで、少年合唱団の団員がそのまま(あまり変声期を迎えずに)大きくなっちゃったようなナイーブな声なんだわ。この音楽祭では他に彼のリサイタルもある(あった?)みたいだが、そこではシューベルトのリートを歌うんだな、そっちの方が声的には合ってる感じ。でも外見は格闘家なのな。

まあ、そこらへんが受けているのか(?)、最後は勿論一番のブラヴォーと拍手を貰ってた。女性客がキャーキャー言ってたりした。彼が歌う時のみ、女性客はオペラグラス構えてた。え・・・カッコイイのか?? 最後のアリアを披露する前に、観客もホントに固唾をのんで見守ってたっつーか、しーんとしたのが印象的だった。

女声二人はどっちも綺麗だったし、まあうまかった(けど、どっちがエファでもよかったなって感じ)。ガブラーは来年新国立でアラベラを歌う予定だよ、容姿は合ってるかと。

ダフィトはびっくりするくらい太ってて(ウチのブチョーくらい太ってる人、久しぶりに見た)、膝とかかかととか凄い負担がかかってそうだなあと心配になった。「体が楽器です」って言葉がぴったりの美声。

ロンドンのリングでも見たヘルドがザックスを歌った。あいかわらずの頭・・・じゃなくていい声である。外見はとてもザックスじゃないんだけども。演奏会だからいいのか。とてもよいザックスで感動した。

ポーグナー役の人(夜警も)が深くて素晴らしい声で、良かった。いい声を聴かせてくれてありがとうを言いたい位。

ベックメッサーの人は、何か遠目に見てテノール歌手のヴィラゾンみたいとか思ったけど、写真見るとそんなに似てないか。芸達者で良かったけどこの役ってなんか可哀相だわ。

東京オペラシンガースは相変わらずうまいわ。小澤征爾さん創立の時から聴いているのだが(どんだけ昔だよ)、日本の今あるオペラ合唱団が高いレベルになったのはこの団体のおかげかなと思っている。でもって、あまり舞台上演では聴かれないようなピアニッシモの美しさが印象に残る。(芝居という意味での)オペラではなくて演奏だけで質の高い「コンサート」になったのはこの合唱団のお陰もあったんじゃないかな、と思う。もちろんN響の高い演奏力もだけども。

第3幕は第1幕、2幕とは変わって迫力のある演奏になったので、ああ、これは指揮者の計画通りなんだなあと思った。最後は予想通りのブラヴォー大喝采で終わり。半休取ってまで行った甲斐はあったわ。

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コメント

naopingさん

 いやあ、これを全曲聴かれて!!。これ、すごく長いですよね!!、スタミナも必要な作品ですからね。
 演奏会形式というのは、抜粋なら私も聴いたことありますが、ステージでの演技(?)を前提に考えていると、これはかなり感じが違うんでしょうね。
 naopingさんのコメントを読むと、演奏会形式を聴く時の難しさとともに、こういうオペラを聴く(観る?)時の「字幕」の難しさも感じます。

投稿: 安倍禮爾 | 2013年4月 5日 (金曜日) 12時22分

ああ、ヴァイグレ。行きたかったなぁ。

即売用の品物だけ出して
もう気持ちは終わってました・・・。
リングのDVDが出たんですぜ。ダンナ。
会場先行発売しました。

そうそう。帯を作るの苦労しました。少しは売れたのだろうか・・・。

投稿: yoshida | 2013年4月 5日 (金曜日) 21時58分

>>安倍さん


長いって・・・だってワーグナーだもの(みつを)。
いえ、別に字幕、難しくないですよ。今回はとてもわかりやすかったです。

投稿: naoping | 2013年4月 5日 (金曜日) 22時07分

>>yoshidaさん

そう、ヴァイグレのリング、出たんですよね。
どんなだろう・・・。
マイスタージンガーの印象からいうと何かすごく弱音にこだわるきめ細やかな指揮をする人って感じでした。が、マイスタージンガーにありがちの?重厚さはなかったです。合唱の処理は気に入りましたが、リングはあんまり合唱出ないですもんね。

DVD色々売ってましたねえ会場で。みんな寄ってたかって見てましたが、売れてたかどうかは不明です・・・。何か私が立ち入れない程売り場が混んでました。日曜日はもっと混むかもです。

フォークトのCDやらDVDが(会場でのみ)特別ポートレイト付でしたよ。女性に凄い人気なんですねえ・・・。「王子」って感じでしょうか。
カーテンコールで投げキッスしてキャーキャー言われてましたわ。まあ、ワーグナーで人気歌手が出てくるのはいいことですね。

投稿: naoping | 2013年4月 5日 (金曜日) 22時36分

いかれましたか。
ワーグナーを全部N響でやるというシリーズですよね。
「トリスタン」は次回なのでしょうか?

いずれにしても、マイスタージンガーとなると、やはり舞台がないと映えないと思ったり、歌手がいまひとつだったりで、そしてなによりも金欠なもので、欠席しました。

フォークトは、生で一度聴いてみたいのですが、DVDやライブ放送などで聴く甘ったるい声にもかかわらず、かなりの声量があると思ってましたが、どうでしたか?

あと、クロイスベルクがいい歌手だと思ってました。
やはりですね。この人は、これからすごくなると思います。
レヴューありがとうございました。
いずれあるヤノフスキのリングは行ってみたいなと思ってます。

投稿: yokochan | 2013年4月 7日 (日曜日) 23時40分

>>yokochanさん

こんばんは。yokochan さんは何だか行かれないような気がしてましたが・・・・。
確かにこの演奏会って(舞台ないわりに)券お高いですねえ。私はB席だったんですけどそれでも12000円ですから。でもかなり運がよく良い席でしたけど。

まあ私もフォークトが(ラジオで聴いた限り)イマイチ「え?」だったので一回お試しで聴いてみるつもりで行ったのです。でも、全体的に歌手はなかなか良かったです。現在の本場はあんな感じなんだなあって感じで。歌手の声量がどうのというよりも、指揮者のせいなのかオケの音量がかなり抑え気味だったのでみんなよく聴こえました。これっていいことなのか悪い事なのかわかりませんけど。

正直、これが飯守さんだったらとか、シモーネお姉さまだったら凄く良い公演になったかもなあとか思ってしまいましたです(まあ、私が古いタイプの聴き手なもので)。

歌手の中ではやっぱりグロイスベックが良かったです。

投稿: naoping | 2013年4月 8日 (月曜日) 21時08分

naoping様

はじめまして、こんにちは。マイスタージンガーとフォークト氏について検索しておりましたら、貴ブログに辿り着きました。ブルーの文字で書かれた<あらすじ>には、大笑いしてしまいました。これ程、簡潔なあらすじを読んだのは初めてですが、大変良く伝わって参ります。

フォークト氏の声は、友人曰くCDでは感じ難いよと伺っていたので興味がありました。確かに、帰宅してからCDで聴き直すと別物に聴こえます(グルベローヴァ氏も実演の方がCDより10倍素晴らしい)。声量については、ドミンゴ氏級ではありませんが、聴衆を感動の渦に巻き込む類稀な声をフォークト氏も備えていらっしゃる印象を受けました。結構、大柄に見えますが、身長は恐らくティーレマン氏やドミンゴ氏と、そう変らないと思います。

オーケストラは、ワーグナーと言うよりバッハを意識したかの様な気品漂う演奏でしたね。濃厚というより、バターの入っていないクッキー風と言いましょうか。金管が幾らか初日はミスしていましたが、十分頑張っていた範囲。手抜きのN響と言われ、可哀想に思っていましたが、今回は名誉挽回でしょうか。音楽家も、大変すね(笑)

長々と、大変失礼致しました。お邪魔致しました。

投稿: michelangelo | 2013年4月13日 (土曜日) 12時55分

>>michelangelo様

はじめまして。コメントを頂きありがとうございました。
マイスタージンガー2回、水車小屋にも行かれたのですね。
私はそこまではお金は回らなかったのですが、
マイスタージンガー一回でかなりお腹いっぱいな感じでした。なかなか上演されないですから、貴重な経験でした。

<あらすじ>について
最近は、(長い)オペラの筋をいかに短くまとめるかに心血を注いでおります。

http://naoping.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-2b27.html

http://naoping.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-7c1b.html

など、過去記事にございます。


グルベローヴァは遠い昔に聴きましたが、実演で聴いた時はこの世のものとは思えませんでした。そう言えば、フォークトも今まで聴いたことないようなタイプの声だなあとか思いました。

投稿: naoping | 2013年4月13日 (土曜日) 22時55分

7日に行ってきたんですが、たぶん初日よりもまとまっていたのではないでしょうか、かなり良かったです。
とくに歌手とコーラスが高い水準で安定して良かったと思います。N響は過去2回と比べてちょっとおとなしかったというか、すっきりしすぎていた気がしましたが、ことによるとヴァイグレの音楽性によるものかもしれませんね。ロットのCDにもそんな感じはあらわれていた気がします。

次回からはいよいよ「リング」チクルス。ヤノフスキはかなり期待して良いのではないでしょうか。ドレスデンとのCDは賛否割れているうようですが、わたしはわりと好きなほうです。ただヤノスフスキの近年の充実ぶりは当時の比ではないように感じています。

ところで来月奏楽堂でシュレーカーの室内交響曲があるってご存知でしたか。まさか生きているうちに実演に巡り会えるとは期待していなかったので密かに感涙中であります(笑)

投稿: 白夜 | 2013年4月14日 (日曜日) 23時37分

>>白夜 さん

日曜に行かれたのですね。日本でするオペラの上演は(何でもそうなのかも?)一回目より二回目のほうが慣れるのでいい感じになる感じはしますね。
ネット上でも言われているように、上演は高い水準にあったと思います。(券高かっただけある・・・)

ヴァイグレの指揮は何と言うか、デモーニッシュな感じは皆無な気がしますね。そういえば、ロットのCDも(この指揮者が実はロット振った指揮者だたなーって家かえってから気づいたのですが)同じような印象だった気がします。

ヤノフスキのリングは持ってないんですけど(どこかで聴いたかもしれません)、今はヤノフスキも年を取ってずいぶん円熟をしたかもしれないとか思います。何にしろリングは大好きですから聴けたらいいなあと思います。

シュレーカーやるんですか。なんと、歌舞伎に行く日とかぶっているようで聴きに行けません。興味深い催しのようで残念です。

投稿: naoping | 2013年4月16日 (火曜日) 21時10分

>指揮者と歌手はお尻を向け合っているので、どうやって指揮を見ているのだろうか不思議に思った。
1階席後方にモニターらしきものが2台ありました。多分これを見ていたのではないでしょうか。また、正面最上階の左右数席が真っ黒な仕切りで小屋のように囲まれていました。何だったんでしょう、係の人に確認をしそこないましたが。
>白髪のマッシュルームカットの男性
私の席からオペラグラスで覗かせていただきました。(もちろん休憩時間だけです)
>他に彼のリサイタルもある(あった?)
後からBSで視聴しました。なかなかよかったです。
>今日の上演は本当に全くもって「演奏会形式」だった。オペラじゃないなって思った。
私もこの音楽祭は初めてでしたが、N響ではオペラの雰囲気はむずかしいかも。もっとも私は頑迷な「読み替え演出くたばれ!」派なので、これでも久しぶりのマイスタージンガーを堪能しました。
これからも貴サイトを楽しみにしたいと思います。

投稿: TG | 2013年7月10日 (水曜日) 17時59分

>>TGさん

はじめまして?コメントありがとうございます。

当日のモニターらしきもの?は私の席からは見えなかったのですが、どなたかのブログで見まして「はあ、なるほどなあ」と思いました。そういえば昔ロイヤルアルバートで見たリングもそうでした。

私も、ヘンテコ演出に辟易しておりますので演奏会形式支持派です。でも、ヴァイグレの指揮が結構平坦な感じだったので(DVDでのリングの演奏は結構良いのに)どうしてかなあと思いました。

つまんないこんなブログですが、読んで頂いて恐縮です。宜しくお願いします。

投稿: naoping | 2013年7月13日 (土曜日) 08時41分

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