グレの歌(東京フィル100周年記念復活公演)
シェーンベルク / グレの歌
テノール : 望月 哲也
ソプラノ : 佐々木 典子
アルト : 加納 悦子
テノール : 吉田 浩之
バス/語り : 妻屋 秀和
合唱 : 新国立劇場合唱団
管弦楽 : 東京フィルハーモニー交響楽団
指揮 : 尾高 忠明
(2月23日オーチャードホール)
過去記事:グレ中止(2011年3月15日)
昨日行ってきた。ご存知のとおり震災で中止になったコンサートの復活公演なので喜びもひとしおである。席に座ってプログラムの尾高さんの文章を読んだだけで涙がちょちょぎれそうになってしまった。自分の震災の時を急に思い出して胸がいっぱいになった。
プログラムの表紙(↑写真)はムジークフェラインでの初演時のものをちょちょっと変えて作ったもののようだ(かっこいい)。初演の日付は100年前の同じ2月23日だったのだが、日曜だったみたいだ。初演はあのシュレーカーが指揮したのさ。狙ったのではなく、たまたま初演100年後のこの日にみんなのスケジュールがあったのか?そういうことなら何だか神がかり的である。
で。
券をとったのがほんのちょっと前だったので、すでにずいぶん券が売れていたようだが何故か前から13番目が一個だけ残ってたのでゲット。そして行ってみると6番目だったといういつものパターン。せっかくのグレなのに管楽器奏者とか打楽器奏者が全く見えず。オケは弦楽器がワラワラと(東京マラソンのスタートのごとく)群がって弾いているのしか見えない。もし他のホール(オペラシティとか)だったら舞台を見下ろす席を取ったかもしれないが、オーチャードではそんな冒険ができない。
オーチャードのどのへんの席がベストなのかいまだに全くわからない。どこの席を取っても「?」な感じ。こけら落としの時の一番前(シノポリの真後ろ)ってのがベストだったのかなあと。
ホールのせいで、今回は前から6番目なのに耳を圧することなく少々物足りない。もっと凄いものを想像してたので。合唱もそんなに失神するほどの大音響でもなかったし(そりゃーもーシンコク合唱団だからうまかったけど)。「どっひゃー」と音量で度肝を抜かれたかったのだ私は。
まあ、そんな感じで席とオーチャードへの不満は一杯だったんだけど、演奏は素晴らしかった。昔に聴きに行った若杉さんの演奏を思い出すくらい。尾高さんはテンボをきめ細かく動かしていて、リタルダンドの強調とか何だか凝ってたなあと。
しかし、ホントに大変な曲だ。合わせるだけでも。全部人間がやっているのだからね。
歌手について。
そもそも最初は高橋淳さんが歌うはずだったワルデマール王だったんだけど、望月さんにバトンタッチ。高橋さん、「ピーター・グライムズ」でも他の歌手に代わってもらってたので体調そんなに悪いのかなあ。とても心配である。高橋さんはミーメやらカルミナ・ブラーナなんかで歌うような性格テノールなんだけど、実はヘルデンな役でもいける人である(ナクソス島とかな)。だもんで残念だった。
望月さんも好きな歌手さんなのであるが、なにぶんにもリリックな役の得意な人である。ブリテンの歌曲とか歌ったらぴったりな感じの美声なのである。この曲だったら吉田さんが歌ってた道化のクラウスのほうが合ってたんじゃないかなあと。テノールにはホントに気の毒なパートである。望月さん頑張ってたしオケがあんまりでっかくないところは美声を響かせていた。
佐々木さんのトーヴェは期待通り。美しい透明感あふれるトーヴェ。さすが日本のグンドゥラ・ヤノヴィッツ(と勝手に思っている私)。自分の最初に聴いたトーヴェがジェシー・ノーマンだったので、あんなに立派な感じだと逆にドン引きしてしまう。
期待の山鳩さんがこれまた私の好きな加納さん。アルトの憧れの役だと思う(ご本人も「四半世紀の夢だった役」とおっしゃってた)し、アリアを一曲歌うだけだが深い感情表現が必要な役なので、いつも希代の名歌手がキャスティングされるパートである。以前ナマで聴いたルンケルも物凄く素晴らしかったけど(いまだに覚えているくらい)、加納さんも素晴らしかった。他の歌手のみなさんは譜面を見ながらだったのに、加納さんは暗譜で臨まれた。ハトをイメージしたと思われるオフホワイトのドレスは「思い入れ」と「気合い」で一杯な感じに見えた。いつもいい歌を本当に有難うございますと言いたい。(この場で言うのもアレだけど藤村さんでもナマで聴いてみたいなあ。マリス・ヤンソンスのヴィデオでは歌ってるね)
吉田さんは相変わらずの美声でうっとり。
妻屋さんは新国立以外では初めて(たぶん)。さすがバス歌手だけにでっかい。相変わらず日本人離れした美声。いつもエキセントリックな役ばっかりなので、人間の役を聴くのはたったの二回目。語りは(いろんな演じ方があるんだが)何と言うかやっぱりハンス・ホッター式になるのか。
この語りに関しては一度歌手でなくて俳優さんで聴いてみたい気もするが・・・ドイツ語だから難しいよねえ。
あと・・・演奏とは関係ないけどふと思ったのだが、対訳の歌詞を読んでなんて美しい詩なんだろうと思った。中学生の時に小澤さんので対訳付きのを買って、それいらいろくに対訳なんか見ないで曲を聴いてたので詩の内容とか忘れてた(アレレ)。
・・・というわけで、破綻をきたすことなく素晴らしい演奏を繰り広げて頂いた東フィルの皆さまにありがとうを申したいです。長いおつきあいですが。
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入口で大入袋が配られた。中身は記念切手でした。なんかもったいなくて使えないわ~~~
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コメント
私は初の生グレでした。
やっぱ、録音とは全然違うわと思いました(当然ですが)。
いいもの聴けて幸せです。
(ちなみに前から27番目でした)
投稿: 蜜 | 2013年2月24日 (日曜日) 22時26分
バス歌手から「聴きに来て」コールをいただいていたのだけど、あいにくこの日は別件の即売仕事でみなとみらいに行ってました。
すごく残念。聴きたかったです。
シェーンベルクが調性に別れを告げるときの挽歌ですね。
時代が移り変わるときの「白鳥の歌」とでもいいましょうか。
投稿: yoshida | 2013年2月25日 (月曜日) 17時43分
>>蜜 さん
先日はこのコンサートの情報を頂きありがとうございました。あやうくスルーするところでした。
生グレ(って言うと生グレープフルーツサワーしか思い浮かばない)は私は3回目ですが、何度聴いてもいいものです。
投稿: naoping | 2013年2月25日 (月曜日) 20時15分
>>yoshidaさん
タキシード姿の(変装してない)妻屋さんはとってもかっこよかったです。お仕事では仕方ないですが、聴き逃されたのは残念でした・・・。
そうそう、後期ロマン派から無調音楽に移り変わる時のドキュメントですね、グレの歌は。最後のシュプレヒシュティンメは感動的です。
投稿: naoping | 2013年2月25日 (月曜日) 20時24分
こんばんは。
やっぱり行かれましたね。
金欠自粛中のなか、これは行くべき演奏会だったのですが、よりによって、マーラー10番と佐村河内に挟まれてしまい、無念の見送りとなりました。
拝読して、すごく想像力を刺激されましたよ。
望月さんのヴァルデマールとは驚きですね。
そして歌手の顔ぶれと、尾高さんの熱意は、日本の最高水準でしょうね。
そして大入り袋といい、いいなぁ、いいなぁ~。
次は、次期新国監督と目される飯守先生の指揮でやって欲しいですねぇ!
投稿: yokochan | 2013年2月27日 (水曜日) 21時50分
>>yokochanさん
佐村河内守さん(えーとどこまでが苗字かいつも不明)のコンサートに行かれたのですね。大変盛り上がったようで良かったですね。
それはさておき。グレ、素晴らしかったです。ただ、シェーンベルクはオケと独唱者のバランスをあまり考えてないなあと思います。たとえば千人の交響曲でも、ワーグナーのオペラでさえもテノールがあまり絶叫しないように気をつけて作曲している気がします。グレでは望月さん苦しそうでした。
飯守さんのグレも、実現するならば聴いてみたいですねえ。
投稿: naoping | 2013年2月28日 (木曜日) 22時27分
私も行ってきいました。たしかにホールがねぇ。2階のバルコニー席なので視覚的には良かったんですが、合唱の遠いこと。うんと奥の方でした。でも、秋山さん以来25年ぶりくらいの生グレ、楽しめました。加納さん、とてもよかったですね。
終演後、飯守さんを出口のところで見かけました。友人によれば、なんと高橋淳さんも客席にいらしたとのこと。
投稿: ガーター亭亭主 | 2013年3月 2日 (土曜日) 11時11分
>>ガーター亭亭主さん
あ、やはり行かれましたね。オーチャードの2階席は以前に取ってしまってどうも印象が良くなくて避けているのですが。合唱団、私の席でもはるか遠くに感じました。
加納さん、とても素敵でしたね。乗りに乗ってる感じが伝わります。
飯守さん、聴きにいらしてたのですか。飯守さんが指揮するグレも実現するなら聴いてみたいですが(上にも書きましたが)。高橋淳さんはいつ復帰されるのか気になります。
投稿: naoping | 2013年3月 3日 (日曜日) 11時02分
加納さんはすごい!
この場面だけが抜きん出ていて、他が霞んでしまった。
言ってみれば、他の方々のこの作品に対する思い入れ(あるいは心の鍛え方)が不足しているということだと思います。
投稿: flt_high | 2014年12月20日 (土曜日) 01時17分
>>flt_high さん
確かに、加納さんは素晴らしかったです。
ここ何年か色々と聴かせて頂きましたが、どんなパートでも思い入れがたっぷりで(死の都でも海の絵でも)素晴らしいです。これだけしょっちゅう起用されるのは指揮者から信頼を得ているからなんでしょうね。
投稿: naoping | 2014年12月20日 (土曜日) 10時24分