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2012年9月15日 (土曜日)

二期会/飯守さんのパルシファル 初日 

Kc460051_2舞台神聖祭典劇「パルシファル」全3幕
字幕付原語(ドイツ語)上演
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー

指揮:飯守泰次郎
読売日本交響楽団
二期会合唱団
演出:クラウス・グート

アムフォルタス  黒田 博
ティトゥレル  小田川哲也
グルネマンツ  小鉄和広
パルジファル  福井 敬
クリングゾル  泉 良平
クンドリ  橋爪ゆか

2人の聖杯守護の騎士 加茂下 稔
北川辰彦

4人の小姓 渡海千津子
遠藤千寿子
森田有生
伊藤 潤

6人の花の乙女たち 青木雪子
坂井田真実子
岩田真奈
鈴木麻里子
磯地美樹
小林紗季子

会場:東京文化会館 大ホール(9月13日)


(ネタバレあり)

初日に行ってきました。初日には記念品として?昭和42年の日本初演時に配られた対訳の復刻版をもらいました。まあ・・・普通に対訳です。当時は貴重だったんでしょうね。キャストを見ますと、私がクラシックに触れる前の人々のお名前が並んでいます。驚いたことにあの安田祥子さんもいらっしゃった。花の乙女役だったのかな?
表紙より裏表紙のフィリップスレコードの広告がいい。「クナッペルツブッシュ」って書いてある。あたしが中学生のときに一番最初に買ったワーグナーのレコードはこれよ。ジャケットが違うけど。

Kc460052

当時がどんな演奏だったのか、想像するしかないんだけどきっと今回のほうがずっとずっと高い水準だったんじゃないかなと思う。日本人だけで演じられ、演奏された最高水準のワーグナー。

開演前にロビーをうろうろしていたら、なんだか騒然としていたので「ははーん」と気がついた。皇太子殿下入場。拍手で迎えられた。ナマ皇太子さまは私は3回目。前はラトル/VPOの時だからずいぶん久しぶり。

第1幕。前奏曲。なんと滋味深い音楽。飯守さんの指揮は素晴らしい。舞台は草原を歩くはだしの足の映像が映される。これは全幕にわたって象徴的に形を変えつつ使われる。幕が上がると三人の紳士たち。(たぶん)ティトゥレルとアムフォルタスとクリングゾル。クリングゾルが仲間はずれになって部屋を飛び出す。(このオペラの始まる前の話の象徴である)

3幕とも同じセットなので(ちょっと塗りの落ちた白い建物)、しっかり組んである。ぐるぐる回り舞台でドリフのようである。4部屋くらいあるのかな。2階にショーケースが2つあり、片方に聖杯が飾ってある。

前奏曲が終わると病院の待合室のようなところに傷ついた兵士たちが座ったまま眠っている。頭に包帯とか松葉づえとか色々。中に長髪の男性がいて何だかけいれんを起こして倒れたりたりしている(ダンサーさんで、1幕と3幕に大活躍するけどあたし的には結構気になる)。グルネマンツ登場、みんなを起す。小鉄さんは相変わらず素晴らしい。いつも綱をもっていてそこらへんをぱしぱしする。

演出的に今回は病院の中ということらしい。ということで聖杯の騎士は白衣のお医者さんだし、小姓は看護婦だったり兵士だったりするわけだが。でもナルホド的だね。時代設定的には第2次大戦中か終わってすぐ?みたいな感じ。(後注: 演出家によると「物語の始まりを、1914年に設定し、第2幕では第一次世界大戦後の復興期へ、終幕でナチによるいわゆる「権力獲得」へとつなげる展開にした。」とある。)

クンドリ登場。髪型のせいか終始「椿鬼奴」さんに見えてしまう(あたしだけ?)。この演出だとクンドリはとってもいい人のように感じる。

パルシファルが白鳥を殺してみんなに怒られる。CDで聴いてると「なんで白鳥くらいでこんなに血相変えて怒るねん」とか思うけど、そうだよねえ、怪我の治療中にそんなもん見たらヘコむがな。

クンドリー、何故かパルシファルの出生のことまでよくご存じ。クンドリはホントに奉仕がしたいらしく、色々かいがいしく働いている。病人の世話とか。白いエプロン姿でバケツ持って雑巾がけしているクンドリには萌えた。

例の聖杯の儀式。病人たちが蓄音器を前に歌っている。2階ではアムフォルタスが聖杯を前に苦悩している。おとうさんのティトレル王が「早く儀式をやれ」とせかすんだけど、アムフォルタスはすごく嫌がっている。だってお腹の傷が治らないんだもーん。血が流れっぱなしってどうなの。血は大事だ(貧血症の今、実感)。アムフォルタスの今のヘモグロビン値は4か5hbというところか。

聖杯の儀式をみてもやってる意味がさっぱりわからないパルシファル(そりゃそうさ、あたしだってわからないもん)、グルネマンツに追い出される。幕

拍手はするべきかどうか迷ったけど、会場で拍手は起こった。あたしはしなかったけど。トイレは男性用は外まで列が。女性用はすぐはいれた。

第2幕。ズボンをはいて歩くはだしの足の映像。そしてクリングゾルのお城・・・でも第1幕と同じセット。でも丸いライトがあちこち設置されてる。クリングゾル、クンドリを起こし、「やれ!やれ!」とせかす。

パルシファルが登場。花の乙女たちはコスチューム的には昔のドイツのポスター広告のレビューの人みたいである。頭には羽飾りをして。ワンピースが色々なデザインでとっても可愛い。ぶら下げられた赤い提灯も昔のドイツの居酒屋みたいで可愛い。

「コーム♪コーム♪」と歌いながらパルシファルを誘う踊りも二期会の女性たちは一生懸命練習したんだろうなと感じ。なんかこの振り付け覚えたいなあと思ったわ。そしてクンドリが「ぱーるしふぁ~~る」と歌いながら着飾ってタバコを片手に登場。スパンコールきらきらの上着に素敵なロングドレス。第1幕とは全然違うしっかりメイク。これから青年を誘うのよん。

何故か舞台の上からブランコが降りてくる。「おや、宙乗りでもするのかえ?スギちゃんやソメちゃんの二の舞はごめんだわ」と思ったが、別にただちょっと乗って漕いだだけ。何のために??

クンドリはパルシファルを誘惑してちゅう。結構くんずほぐれずで熱狂的なちゅうをしていると、はたと気がつくパルシファル。クンドリは熱演のあまり裾がまくれあがってせくしいなお姿。サービス。パルシファルは急に賢くなる。あらもったいないわ。親分のクリングゾルを呼ぶクンドリ。パルシファルに槍を投げようとするがそこでストップ。パルシファルは槍を受け取ってその場を去る。急激に幕。それにしても飯守さんの指揮は入神といえよう。テンポに疑問が生じるところは一つもない。まるでバイロイトにいるかのような気になってしまう。行ったことないけど。ブラヴォー。

第3幕。また、歩く足の映像だけど、今度はちゃんと靴をはいている。パルシファルの成長を表している・・・のかな。この映像は、全幕同じセットでちょっと閉鎖的になってしまう感じを緩和しているのかもしれない。

同じ建物ながら、第1幕とは時の流れを感じさせるよう、あちこち朽ちている。手すりとかボロボロである。グルネマンツ他、登場人物も年老いている。クンドリも長髪のカーリーが白髪になっている。クンドリ、部屋を片づけている。何だか普通に会社で使っているようなファイルが散らばっている。けいれんするダンサーまだ生きてる。ひくひく。

覆面をした、槍をもった人登場。もちろんパルシファル。グルネマンツはとっとと態度が変貌。クンドリが、いつのまにか舞台上に登場した泉で足を洗ってあげ、髪の毛で足をふきふき。クンドリは許され、泣けるようになる。

(ここらへんの素晴らしい「聖金曜日の奇跡」の音楽の間中、兵隊さんやらパレスチナゲリラ?みたいな戦時の映像をえんえんと流していた。飯守さんの指揮する音楽を純粋に楽しみたかった私はちょっと気が散った。ちょっと説明しすぎ。ワーグナーの音楽だけで十分だと思うが。)

さあ最後の聖杯儀式だ。

別室。タキシードにシルク帽をかむった紳士たちが歌っている。ティトゥレル王の棺をあけて「ああ!!」と叫ぶ紳士たち。アムフォルタスに「最後の務めを!」と迫る。まだ生きてたのかアムフォルタス。彼のヘモグロビン値はもうほとんどないだろう。もうやぶれかぶれで衣服を開けて傷を見せる。「おれをいっそ殺してくれ~~」と。そこでパルシファル登場・・・といつものパターン。

その間、パルシファルに許されたクンドリは(誘惑するときに)今まで着ていた、スパンコールの上着を庭にぶんなげてそのへんの薪をのっけて油をかけてライターで燃やそうとしたりする(ああ、何かわかるわあ)。
そして皆が歓喜に包まれて歌う後ろで、茶色いスーツケースを持って旅に出るクンドリ。次回、「女もつらいの クンドリ心の旅路」をお楽しみに!!

そして最後の最後、別室でちょっといじけていたクリングゾル(生きてたのか!)が、元気になったアムフォルタスと和解して幕。いやそこまでせんでもいいのに。

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・夕方5時から始まり、終わったのは10時過ぎ。でも何故か全く眠くならず完璧に全部観た。音楽が素晴らしかったからだろうな、きっと。

・指揮は勿論素晴らしく、読響もめいっぱいがんばってた。アマオケの方々に飯守さんの練習の怖さを聞いていたので、プロ相手だったらもっと怖いんじゃないかな(?)。人に聴かせるならば、ハンパなものは聴かせられない、という意気込みが感じられる。どこまでも音楽に厳しい飯守さんのワーグナーをこれからもたくさん聴けますように!

・歌唱は勿論素晴らしかった。みんな。プッチーニとかでよく聴く福井さんだけど、パルシファルも素晴らしい。こんなマイルドな美声のパルシファルもいいな。そして小鉄さんのワーグナーは世界レベルだと思う。

・演出は良くも悪くも・・・説明しすぎ。でも目が飽きることがないので、うとうとせずにすんだ。
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・・・という感じで、全体的にとても素晴らしい公演でした。生きててよかったって何故か思った。これから行かれる方、楽しまれますよう。

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コメント

ご無沙汰しております。

お疲れさまでした。
素晴らしい体験をされたこと、目に浮かびます。

「トイレ女性用はすぐはいれた」
これですよね・・・。ほんと。
日本に於いて、ワーグナーの聴衆は
オトコ世界。これはきっと永遠に変わらず。

投稿: yoshida | 2012年9月15日 (土曜日) 04時41分

>>yoshidaさん

お久しぶりです。

素晴らしい公演でした。しかし平日の夕方なのに殿方が多いってのも不思議ですね。

最近はトリスタンとかワルキューレだと結構女子トイレも並びますが、パルシファルは恋愛ものじゃないので女にはキツイのかもです。

投稿: naoping | 2012年9月15日 (土曜日) 08時41分

2日目に行ってきました。飯守さんのワーグナーというと気魄のこもった熱い音楽という印象が強いのですが、昨日は深い祈りを感じさせる、繊細かつ精妙な「パルジファル」で素晴らしかったです。第一幕での舞台裏のコーラスの神秘的な美しさやパルジファルが覚醒するあたりからの荘厳な響き感動的でした。
歌手陣も、オール日本人キャストでよくぞここまでと嬉しい感慨に浸ることができて感無量でした。
叶うことなら残りの公演全て観たいものですが、そうもいかないのが残念です。

投稿: 白夜 | 2012年9月16日 (日曜日) 12時16分

naopingさん

 そうですか!。なかなか観られないものでしたね。日本でやる場合、衣装や背景は時代考証に沿ったものだったんでしょうか。現代ドイツでの上演みたいに、出演者はみんなスーツにネクタイや事務服、あるいはみんなジャージだったり、往々にして縦長の芋袋の、頭と手の部分、穴を開けて着ている、という衣装だったり、そして背景は現代のオフィス、あるいはのっぺりとしたただのスクリーンだったり、というものですと、ガッカリですが。
 私がハンブルグでパルシファルを観た時は、まあ、何と言いますか、最低限のセッティングではあったので、ずっと目をつぶって(舞台を見ないようにして)聴く必要はありませんでしたが。yokochanさんも書いておられましたが、バイロイトさえも、今やちょっと「イってしまっている」らしいですからね。残念です。

投稿: 安倍禮爾 | 2012年9月16日 (日曜日) 13時01分

>>白夜さん

二日目だったのですね~。では別キャストですね。そちらも素晴らしかったのですね。

そうそう、こないだのオランダ人の時は圧倒的な演奏だったので全然違う一面という気がします。神秘的で静謐な感じでしたね。飯守さんはこのホールで音響的に色々と試されたのでは?と。プログラムの対談に書いてあったような。あのホールでは珍しい、奥行きのある響きでした。

実は、今日も私行ってきました。同じキャストなんですけど(笑)。

投稿: naoping | 2012年9月16日 (日曜日) 22時08分

>>安倍さん

>日本でやる場合、衣装や背景は時代考証に沿ったものだったんでしょうか。

いえいえ、今時のワーグナーは日本でも時代考証に沿った演出のものはあまりないです(あったら見たいくらいです)。それに今回は、リセウ劇場とチューリヒ劇場との共同制作なので、演出家、美術、照明その他ほぼ外人です。まったくヨーロッパのものです。

投稿: naoping | 2012年9月16日 (日曜日) 22時14分

二回も行ってしまいました。飯守さんと読響 福井さん橋爪さんほかの歌も素晴らしかった。一回目は舞台を見てしまい音楽を阻害する演出にうんざりしたので二回目はアイマスクをして聴きました。
舞台を見て聴くより数倍の感動が得られました。
演出家の自己満足に音楽が犠牲になるのはもう勘弁願いたいです。
やりたければスコアも読み替えてパロディーとしてやってほしいものです。

投稿: | 2012年9月26日 (水曜日) 22時45分

>> さん

二回行かれたのですね。
あれだけのワーグナー演奏、そう滅多に聴けるものではないですから、二回行って正解でしたね。
しかし、アイマスクまでする勇気は私にはありませんでした。
聖金曜日の奇跡の音楽のときはあまり舞台を見ないようにはしてましたが、あとはばっちり見てました。まあ好きな部分もあったので。

今となっては初日の演奏だけを、もう一度聴きたいなと思う日々であります。

投稿: naoping | 2012年9月27日 (木曜日) 22時20分

>> さん

『一回目は舞台を見てしまい音楽を阻害する演出にうんざりしたので二回目はアイマスクをして聴きました。
舞台を見て聴くより数倍の感動が得られました。
演出家の自己満足に音楽が犠牲になるのはもう勘弁願いたいです。
やりたければスコアも読み替えてパロディーとしてやってほしいものです。』

 全面的に賛成ですね。演出家の中には、カワッタコトさえやればそれで満足、なんて考えてる人もいるのか、と私などは考えてしまいます。

投稿: 安倍禮爾 | 2012年9月27日 (木曜日) 23時51分

前回名無しでコメントしてしまい失礼いたしました。
演出家がなにか新しいことをやりたくなるのは理解はできますし同じ演出をただ繰り返すべきではないですが音楽をただの添え物かせいぜい映画音楽くらいの位置づけで演出しているように思えてなりません。それなら録音を流してやれば良いし、ロックバンドやコンピュータミュージックにして別のジャンルとしてやれば良いと思います。
ト書きや時代設定などいくら変えてもかまわないから、音楽から受ける陶酔や絶望や怒りや悲しみを視覚や設定によりさらに増幅するような演出はもう望めないのかと思ってしまいます。

投稿: ワーグナー音楽好き | 2012年9月29日 (土曜日) 13時20分

>>ワーグナー音楽好きさん

ほんとに、わたしものごころついた頃から(?)ワーグナーの舞台はヘンテコ演出しか知らないので、演奏会形式のほうが最近はいいのでは、って思ってしまいます。すくなくとも飯守さんのワーグナーは演奏会形式のほうがいいと思います。音楽だけで十分です。

演出家は「ワーグナーは変わった演出しなきゃならない」っていう何かブレッシャーがあるのでしょうかね。普通の演出でも時代錯誤か?ってまた叩かれそうだし・・・難しい所ですね。

投稿: naoping | 2012年9月29日 (土曜日) 18時37分

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