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2012年2月29日 (水曜日)

マタイ受難曲/聖トーマス教会合唱団&ゲヴァントハウス管弦楽団

120229_1955011_2 J.S.バッハ:マタイ受難曲

聖トーマス教会合唱団
ゲオルグ・クリストフ・ビラー(指揮 / トーマス・カントール)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

<ソリスト>
ウーテ・ゼルビッヒ(ソプラノ) 
シュテファン・カーレ(アルト) 
マルティン・ペッツォルト(テノール/ 福音史家) 
マティアス・ヴァイヒェルト(バス) 
ゴットホルト・シュヴァルツ(バス) 

2012年2月28日(火)東京オペラシティ コンサートホール

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昨日、行ってきた。実は風邪をひいてしまい会社帰りに行くつもりがどう考えても無理だったので、会社はサボった。それにしても何で自分ちから遠いオペラシティにしたのか、謎。うちからすごく近いサントリーだって券残ってたのに。ううう。

と、過去の自分に文句言ったりするけど、ホントにこれは行ってよかった。どのくらいよかったかっつーと。

まだ2月だけど、多分これが今年のナンバーワン・ライヴだと思う。 優勝。

今年中にどんな演奏があろうと、これにはかなわないと思う。もうこれは、生きてる世界が我々とは違うっていうか。

バッハ、たぶん一緒に来日してるわ。あたし見かけたもん、オペラシティで。もこもこのかつらかぶってたよ、たぶん。・・・ってそのくらい思っちゃうくらいこれはバッハそのもの。バッハの偉大さを今さらながら知る。さすが音楽の父。そういえば、私は子供の頃バッハとヘンデルは夫婦だと思ってたなあ。

実のところ、風邪のせいにするのもどうかと思うけど、ほとんど予習なんかできなかった。体調悪くて。それと、多分風邪薬のせいで演奏会の後半はほぼ夢の中なんじゃないかな、お金もったいないな、って思ってた。

でも、それは杞憂だった。

正直いうと、第一部の途中はちょっとうとうとしてしまった。それがちょうどイエス様が弟子に「おめえらこんなちょっとの間に眠るな」とか説教してるとこだったのでちょっと面白かった。

第2部は全く眠くなかった。眠るどころか耳が釘付け。たとえば・・・何かヨーロッパの大きな美術館に行って、次から次へと有名な絵画を目の当たりにして圧倒されてるみたいな感じ。ブリューゲルとか、ルーベンスとかねえ。ああ、これもあれも、知ってる知ってる、本では見たことあるけど、さすがに本物は迫力が違うねえ、的な。

さて。

この聖トーマス教会合唱団というのは創立800年なんだそうである。何時代だよ。で、過去にいろんなカントール(教会の音楽監督)の人がいたけど、この中にはかのヨハン・セバスチャン・バッハもいたっていう。そしてマタイもこの合唱団が初演したという。もう、これ以上の本家本元はないのだ。

あまりよく知らないで行ったので、この合唱団にはいくばくか大人の人も交じってるのかと思ったら、全部子供だった。もちろんテノールやバスの子たちは(セーラー服のソプラノ・アルトパートの子供たちと比べたら)ちょっとは大人でスーツを着ているけど、それでも(あたしからしたら)子供である。こ、こいつらだけでマタイの合唱を全部歌うのか、大丈夫だろうか。とか変な心配。

しかも、舞台上でちょっと喋ったり、お友達同士でふざけてたりして。大丈夫なのおおお??

しかも、かの名門ゲヴァントハウス管弦楽団の人々も何だかフツーっていうか。「これから偉大なるマタイを演奏する」って緊張感もあんまりなく、舞台上でへらへらとお話してたりとか。キリスト歌う歌手の人でさえ、コンマスの譜面台をなおしてやったり、譜面をめくってやったりとか。

何か、この人達にとっては超レギュラーなんだなあ、きっと。マタイ。

でも、演奏が始まると、全然心配ない。というか、恐ろしい。こんな凄い演奏・歌唱が目の前で繰り広げられるのを口をあんぐりとあけて見ているだけであった。

マタイ受難曲って合唱団の中からたまーに「村人A」的なソロの人が歌ったりするでしょう。アレも子供たちなの。何かごく普通に歌ってるんだよね。緊張しないのかしら。

で、結構マタイって残酷な(子供がこんなこと歌っていいの?みたいな)歌詞が出てくるんだけど、そんなんでもちゃんと・・・大人みたいに気持ちを込めて歌ってるんだわ。はあ・・・凄いねえ。

って・・・「すごいすごいばっかりで何の感想にもなってないじゃないか」って思うかもしんないけど、本当にこんなんであっというまに終わってしまったのであった。

えーとオケ。名門ゲヴァントハウスなもんで、やっぱりうまいねえ。ソロとかいちいち「はー」とか「ほー」とか思いながら聞いていましたわ。マタイってバスのソロのアリアのとこがとくにいい曲が多いなって思うんだけど、その伴奏がまた・・・ねえ。何と言うか、バッハしか感じないのね。そのものなの。ヴァイオリンとか。それとビオラ・ダ・ガンバっていうんですか?アレは。バッハの時代のドイツに連れて行かれました、あたし。これ弾いてる人も何だか長髪で(昔の布施明みたい)で、バロックっぽかったし。

演奏自体は、マタイってシンフォニック&ドラマティック路線とバロック路線とあるんだと思うんだけど、今回はバロック路線。だからもしかしてメンゲルベルクのマタイしか聴いたことなかったりしたら、ちょっと拍子抜けするかもしれない。出だしとか正直言ってもっと壮大なものを想像してたかもしれない。でも。聴き進んで行くうちに「これはカントールのトリックで、最初にバロックっぽくしておいて、あとのほうでガンガン盛り上げるって魂胆かな」って思った。それはとても効果的だった。

歌手について。
エヴァンゲリストを歌ったペッツォルトは、私のような退廃スト?にはお馴染みの名前である。退廃音楽シリーズの解説書の写真からは・・・ずいぶん老けてた。あんなに外見と声に差がある人は珍しい。大変美しい声で聴き惚れた。

ソプラノのゼルビッヒはとても透明な声であたしは好きだなあと思った。ヨー・ヴィンセントとか、ああいうヴィブラートの少ない声がいいよね。

アルトは驚きのハタチの青年である。最初ちょっと違和感があったけど、慣れるといかにもそれっぽい感じがしてよかった。

イエス役の人は何だかキリストというよりは優しそうな学校の先生みたいな感じだった(まあ、実際先生なんだろうけど)。歌は・・・どうなんだろう。

その他、メモ的に。

・演奏が始まるまえ、元ゲヴァントハウスのコンマスのゲルハルト・ボッセ氏の追悼のためにマタイの第62曲が演奏された。聴衆まで起立させられた。贅沢だけど、別の曲やってほしかったな。

・ロビーでCDを販売してたのは、一緒に来日したドイツ人スタッフだったのかしら。元団員とか? 何か見とれてしまった。

・最後の拍手は、やや早い感じ。もうちょっと間が欲しかったなあと。でもそれ以外は熱心そうな聴衆の方々だったので(バカップルとかいないわ、さすがに)、良かった。老夫婦が多かった。

・・・ということで、また日本ではマタイやヨハネをいろんな団体がやるみたいなので、色々聞いてみようかなあとか思ったけど・・・でも何だか今回聞いたせっかくのマタイが耳から出ちゃいそうで、もったいないのでやめとこうかなとも思った。

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コメント

マタイ実況解説、おおきにっ!
本家の方々には確かにごくごく日常なんでしょうね。
良いもの聴かれたようで、何よりでした♪
にしても、風邪早く治るといいですね…。

投稿: よこよこ | 2012年2月29日 (水曜日) 23時45分

お疲れ様でした。
実のところ、今回の公演が本当に実現するのか昨年から不安でした。
12月になって、「来日する」との知らせを受けた時は
(関係者のはしくれとして)涙が出るほど嬉しかったです。
私は聴きには行けませんでしたが、
この日本に少年たちを送りだしてくれた皆様に感謝です。良い演奏会になって良かった・・・。

投稿: yoshida | 2012年3月 1日 (木曜日) 14時37分

naopingさん
いやあ、そうでしたか。素晴らしい演奏だったようですね。あの長大な作品を、ひとつひとつ聴き分けながら過ごせただけでも、私には、「凄いことだなあ」と思えます。
しかもあの聖トーマス教会のカントールの人が指揮をしていたとは。ライプチヒの聖トーマス教会のある、だだっ広い広場は、観光名所ですね。あそこから大挙日本に来ているわけですか。
私は、いろいろあって、この曲は苦手なんですが、これだけちゃんと聴けたなら、予習なしとは言わないですよ。要するに、聴くべきポイントが沢山あって、そこをおさえながら聴いて行くということですね。
家でこの曲を聴こうとしても、おそらく1枚聴いただけでやめちゃいそうだなあ。
余談ですが、カントールが指揮しているということは、日本中をマタイを指揮してまわるんでしょうか。せっかくだからメンデルスゾーンとかの他の作品も聴ければ良いでしょうに!

投稿: 安倍禮爾 | 2012年3月 2日 (金曜日) 12時40分

はじめまして。
昨日のサントリーを聴いて、同じような感想を持って、自分のブログにアップしました。
バッハが日常になってる環境…最初の合唱からおったまげました。全然リラックスしてたのにアレですから。文化の違いかと思いますが、ちと恐ろしいかなあと思いましたです。

投稿: KOKONA | 2012年3月 2日 (金曜日) 15時59分

>>よこよこさん

マタイ、良かったです。そして日に日に感動が増してくる感じですね。今さらですが、バッハに出会えてよかったです。よこよこさんにもお聴かせしたい!って感じです。

風邪、会社で蔓延してまして事務所のほとんどの人がマスク姿という恐ろしい事になってます。土日ゆっくりして治します。

投稿: naoping | 2012年3月 2日 (金曜日) 21時21分

>>yoshidaさん

え、関係者でらっしゃったのですか。そうですか~。
考えてみると、自分は普通に東京で暮らしてますけど。(ヨーロッパでもとくに)ドイツの人々から見たらニッポンは今や世界一デンジャラスな所なんでしょうね。ホント、よくいたいけな子供たちを送り出してくれたなって思いました。いい演奏をありがとうって言いたいです。心の底から感謝の念でいっぱいです。

投稿: naoping | 2012年3月 2日 (金曜日) 21時23分

>>安倍禮爾さん

マタイ、パルシファルとかよりは全然短いので長さ的には恐れることはないと思います・・・ってそんなもんじゃないですね。

私も、この曲はイエスがとっ捕まるまでは結構退屈なんですけど、捕まってからは(非常にヘンな例えですけど)自分のなかの隠れた「ドS」が蘇ってくるような・・・「ええ?こんな残酷な責め苦を??やめて!やめて!・・・・・・もっとやれ」的な。それを汚れなき少年達が歌うんですよ。どうして寝てられましょう! 意外とライブのほうが(字幕付だし)恐れることはないんじゃないかと思いました。

投稿: naoping | 2012年3月 2日 (金曜日) 21時24分

>>KOKONAさん

初めまして、コメントありがとうございました。
アドレスなくてブログを見に行くことができないのですが、同じような感想を持たれたのですね。ライプツィヒの彼らにとってはバッハは超日常なんですよね、きっと。ご飯を食べるように、息をするように、バッハを演奏してる感じがします。

投稿: naoping | 2012年3月 2日 (金曜日) 21時25分

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