新国立劇場/トリスタンとイゾルデ
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」(ノーカット上演)
【トリスタン】ステファン・グールド
【マルケ王】ギド・イェンティンス
【イゾルデ】イレーネ・テオリン
【クルヴェナール】ユッカ・ラジライネン
【メロート】星野 淳
【ブランゲーネ】エレナ・ツィトコーワ
【牧童】望月哲也
【舵取り】成田博之
【若い船乗りの声】吉田浩之
【指 揮】大野和士
【演 出】デイヴィッド・マクヴィカー
【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ
【照 明】ポール・コンスタブル
【振 付】アンドリュー・ジョージ
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
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今日は(日が変わってしまったので昨日になるのだが)仕事納めの日だった。例年通り「餅つき大会」があり、餅はつかなかったものの(非力なので)大根をおろしたりあんこをお餅で包んだりと大活躍だった。屋外で行われ立ちっぱなしだったので寒くて大層疲れた。つきたてのお餅と焼き芋は大層美味しかったが・・・食べ過ぎてお腹いっぱい。で、早退して初台へ向かう。(昭和な会社だなあ・・・)
へとへとだったが、さすがにマイフェイバリットオペラのトリスタン、そんなの関係ない。しかも、今回は初台では珍しく一階席。S席だが一番後ろ。しかし神様仏様テオリン様の大音声を聴くのにはちょうど良い気がする。
が。
こんなとこに書くのは大変気が引けるが・・・ご本人がこれを読まれてないことを切に祈る・・・隣の席の人が、ちくのうなのかお鼻がお悪いようで、始終鼻息が「ぴ~ひょろぴ~ひょろ」と聴こえてくるのであった。これはまいった。これは病気というか体質なので仕方がないし注意もできない。「naopingったら全くこのアホアホワグネリアン、鼻息くらいで神経質なんだから!!」と怒られるかもしれないが、一回気になると止まらないのである。
それともうひとつ。
開演前に自分の席を確認して荷物を置いたあと、お手洗いに行ってきたのであるが、席に戻ると何故か私の荷物がない。ふと見ると隣の隣のちょっとご高齢の女性が後生大事に私の手提げ袋を持っていたので、犯罪性はなさそうながら恐る恐る「あの・・・そのかばんあたしのなんですけど・・・」と言ったら「あら!!これあなたのだったの??」と謝りもせず。お友達の荷物かと思ったらしい。何か怖い。夕食のパンが入ってるのでとられると困る。
ということを踏まえて。
(何公演か残ってますが、これから行かれる方は読まないほうが身のためです。)
<第一幕>
前奏曲から幕に月が映っている。月は色々昇ったり沈んだり色を変えながら姿を表している。船乗りの歌(吉田さん)が美しい。舟が現れ(立派ではなくまるであばら家のようである)それに乗るイゾルデとブランゲーネ登場。テオリン様最初からとばしまくっているが・・・彼女の喉はどうなっているのやら。まるで檻の中でたけり狂う猛獣のよう。ブランゲーネ役のツィトコーワたんは相変わらずカワユス。容姿だけから言ったら彼女がイゾルデだったらどんなに素敵か・・・なんて言ってはいけない。ここでは「お料理上手な北欧の主婦(←私の印象)」ってな感じのテオリン様がドロドロ恋愛悲劇の主人公である。
トリスタン役のステファン(スティーブン)・グールドは古式ゆかしいトリスタンってな容貌である。初演の時のトリスタン、こんな感じだったっけ・・・みたいな。トリスタン役(またはジークフリート役)に現在あまり希望を持ってない私であったが、今回はかなりよかった。自分でも意外なくらい。ぶっちゃけ昔観たルネ・コロのトリスタン以来だ、こんなまともに聴けるトリスタンは(生のちゃんとした舞台上演で)。こんなにこの歌手は素晴らしかったのだろうか。
全幕とも、何故か上半身裸の青年たち(10名くらい?)が登場する。合唱団というわけでなく、ダンサーらしい。容貌はカリブの海賊のような感じ。第一幕では苦情を言いに来たブランゲーネの服を引っ張ったり触ろうとしたりちょっかいを出す。いやあ、しかし男ばっかりの舟の上、あのブランゲーネくらいの容姿の女の子が乗ってたら、ちょっかい出すわな。嫌がってるツィトコーワたんカワイイ。しかしあの海賊さんは必要なんだろうか。(ハレの舞台の方々には申し訳ないが)なんかいらない気がする。そんでまあ、色々あっていつも通り媚薬を飲んで、二人は恋に落ちる。舞台上にはお水(海だからねえ)が張ってある。舞台に水張ってるの見るの私としてはヴォツェック以来だ。勘三郎さんの平成中村座の舞台ではよく見るがな。
<第二幕>
舞台は塔のようなものにぐるぐる蛍光灯(丸型)みたいなのがぶっちゃちゃってる。これは男女の愛の象徴か(まあそこまで想像しなくてもなあ)。演出上はまあ・・・普通なんじゃないかな。あまり色々やられるよりは主役の二人の歌を堪能したいもの。今回(普通ならそれが当然なのだが)タイトルロールの二人が素晴らしいおかげで、ノーカット上演の二人の愛のシーンが本当に素晴らしかった。愛の二重唱が本当に・・・聴いていて一緒に気分が高揚するような、麻薬的な何かを感じることができた(ホントの麻薬は知りませんけどね的な)。トンでもなく長いはずだが全然退屈せず。・・・他の観客は知らんがね。
二人の逢瀬が露見し、メロートその他カリブの海賊さんたち登場。メロートは何故かドレッドヘア(パイレーツオブカリビアンかよ)。マルケ王は白髪で杖をついているジジイ。ヨロヨロ。イゾルデじゃなくたってこんな結婚いやだわ~。
<第三幕>
第二幕まであんなに苦しんでいた(←私が)隣の方の鼻息が第三幕ではピタッと止んだ。お薬でも飲んだのだろうか。第二幕までなるべく鼻息が聴こえないように体をそらしたり前屈みになったりほとんど挙動不審な客になってた、私。一番後ろじゃなかったら注意されたたかも。とにかく有り難い。自分でもウルサイはずだあの鼻息は。
冒頭の絶望的な前奏が素晴らしい。牧童なんてチョイ役が望月さんなんて新国立らしいキャスティング。望みうる最も素晴らしい牧童を聴くことができた。ああ、何と言う美声・・・なのに歌うとこすくねえ。関係ないが望月さんは声から言って英国歌曲(もしくはブリテンのオペラ)を歌うべきだと思うわ。
舞台は海が前方にあり、月が出ている。岩でごつごつした陸地にトリスタンとクルベナールが配置。トリスタンは苦しそうに寝ているが歌い始めると歩き回ったりして結構元気じゃん!と思う。ラジライネンのクルヴェナールは結構空気というかあまり存在感なし・・・と思ったのは私だけか。舞台上でもかなりトリスタンは苦しそうな感じであったが、オケのほうが何倍もトリスタンの苦しみ(傷の痛みと恋愛の激しい心の痛み)を表していて、心の中で「もうやめてあげて!早くトリスタンを死なせてあげて!!」と叫ぶくらいこのシーンは見ていて辛かった。それくらい指揮とオケが凄かった。まあ、金管の音がひっくり返ったりとかはたまーにあったものの・・・。
イゾルデの到着。ちょいと休んだだけなのに、テオリンはまたパワーアップしてる。とても人間とは思えない。彼女の素晴らしいところはでっかい声も素晴らしいけれどちゃんと弱音での細やかな表現ができるってこと。好き嫌いはほっといて(私は好きだが)、彼女の凄い声の前では誰もがひれ伏してしまいそうよ。ブランゲーネやマルケ王、メロートとカリブの海賊さんたち登場。ちゃんちゃんばらばらの殺しあいのあと、カリブの海賊さんたちは海の中に入ってヘンなダンスを踊りながら退場。みんな死ぬのかえ??
イゾルデはそれは素晴らしく「愛の死」を歌いあげたあと、やっぱり水の中に入って行き、まさかの入水自殺??な感じの終わり方。
最後、終わってすぐにパラパラと拍手・・・もうちょっと待って欲しかったが、やはり演奏が素晴らしすぎて待てなかったのかも(早く帰りたかったのか?終電がなくなる?)。終演は10時45分だった。やはり時間的にばたばたとおうちに帰る方が見受けられた。が、かなりの人が居残りをして拍手を送っていて(私も勿論拍手が終わるまで居ました)、何分も続いた。大ブラヴォー。オーバーかもしれんが日本のワーグナー上演史にも残るような、素晴らしい公演だったと思う。しかも日本の指揮者で。
演奏について。
ほんの二か月か前、沼尻さんのびわ湖トリスタンを見てきたばっかりなので、比べちゃいかんと思いつつやっぱり比べてしまう。今回の大野さんとこないだの沼尻さんとは、かなり方向性の違う指揮だった。軽快な早テンポで進みカットありで誰が聴いても面白く聴ける(と思う)沼尻トリスタンはそれはそれで素晴らしかったが、大野さんの指揮はゆっくりとしたテンポでこのオペラの本来のテーマである「夜の国」を歌いあげていたと思う。舞台はほとんど暗い中で行われたが、オケも漆黒の闇を思わせる演奏を繰り広げる。ここまで表現できるんだな、日本のオケ。こないだのセンチュリーも素晴らしかったが。
歌手は。
タイトルロールの二人の圧倒的な素晴らしさは今まで書いたとおり。日本にいてこれだけのトリスタンとイゾルデが見聴きできるなんて、日本も捨てたもんじゃないねえと思った(貧乏でドイツになんか行けないもん私)。
「びわ湖トリスタン」のタイトルロール以外の歌手三人を今回は超えられなかった(私が思うに)。クルヴェナールはどう考えても石野さんのほうがうまかった。マルケ王も松位さんのほうが深い声で良かったかも・・・うーん。贔屓かもしれんがここらへんは日本人のほうがうまいんではとか思ってしまう。大好きなツィトコーワたんでさえ、こないだの加納さんのほうがもっと細やかな表現であったのでは、と思うほど。深い声はよかったけども。
とはいうものの、今回のクルヴェナールもマルケ王もブランゲーネも新国立のいつものレベル(以上?)、素晴らしかったと思う・・・おそらくびわ湖を見ずにこの公演だけを見ればね。(石野さんは来年また日本でクルヴェナールを歌うそうだから、楽しみだねえ。)
・・・帰宅は11時半。いやあ5時間45分の公演時間(休み時間含む)は見てるほうも演奏するほうも大変。これからの方(掟を破って見る前に読んでしまった方)は体調に気を付けて是非ベストコンディションで行かれるよう。鼻炎の薬は開演前に飲んでおくよう強くおすすめする。
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コメント
「読むなっ!」と禁じられても、読んでしまいました!
またまたnaopingさん、初日ですか?
いやあ、年明けの1/7が楽しみです。
ところで、所沢でダンちゃんと東フィルの第9を聴いてきましたが、素晴しい演奏でした。それと、東フィルの音色が各段に向上していましたので、「トリスタン」も「もしや?!」と思っておりましたが、-そうですか。
来年の尾高指揮の「グレの歌」、聴かにゃあなるめーか?
投稿: IANIS | 2010年12月29日 (水曜日) 02時43分
グールド、良かったですよねぇ。生でのトリスタン、ワタクシとしては今までで一番良かったです。
投稿: ガーター亭亭主 | 2010年12月29日 (水曜日) 09時19分
>>IANISさん
あら・・・読んじまいましたね(笑)。まあ、さほど演出は意外な展開はないので影響はないかもです。私は28日のに行ったのですが、東京フィルさんは何年か前の二期会ワルキューレとは同じオケかなあと思うくらい頑張ってました・・・けどやっぱりミスはちょこちょこ見受けられました(あちゃ~)。でも全体的には良かったなと思いました。
グレ、やるんですか。グレ好きなので気になりますね。
投稿: naoping | 2010年12月29日 (水曜日) 19時59分
>>ガーター亭亭主さん
TBありがとうございます。初日に行かれたのですね。確かにグールドは素晴らしいと思いました。声だけでなく表現とか歌い回しとか「なるほど~」と思う箇所も多かったです。私もコロを除けば今回は一番!です。
投稿: naoping | 2010年12月29日 (水曜日) 20時05分
こんばんは。
忙しい年の瀬なのに、あんなスゴイの観ちゃってどうしようって感じです。
そして例によって、トリスタン熱に浮かされたままです。
びわ湖と私も比べちゃいますが、あの時は疲労困憊もたたって、それとトリスタン役がヘボで、どうも全体の印象が薄まってしまったようです。
ところで、アルミンクのトリスタン、どうします?
投稿: yokochan | 2010年12月31日 (金曜日) 00時15分
>>yokochanさん
はいこんにちは。いい舞台でしたねえ。私は新国立で観た演目の中で一番良かったです(あんまり観てませんけど)。しかしびわ湖はびわ湖で良かったなと思います。オケも良かったし。
アルミンクは行きたいです。ミホさんのブランゲーネも聴きたいし。しかしいまだにイゾルデ役が不明ですけど・・・・。
投稿: naoping | 2011年1月 3日 (月曜日) 07時19分
初めて訪問させていただきます。
興味ある内容の記事を多く書かれているのに心ひかれて書き込みさせて頂きました。詳しいご説明、大変勉強になりました。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」は、ずっと新国立劇場での上演を待っていたので、記事を読みながらなるほどと思いながら舞台を思い出していました。私もブログに「トリスタンとイゾルデ」の感想やワーグナーの音楽について書きましたので、ぜひ読んでみてください。
http://desireart.exblog.jp/11874692/
見識ある貴方様にご意見などをブログにコメントを書き込んでくださると感謝致します。
投稿: dezire | 2011年1月10日 (月曜日) 11時38分
>>dezireさん
3回目?のコメントありがとうございます(2回目も「初めて訪問させていただき・・・」でした)。申し訳ありません、とくに見識とかありませんので前回同様貴ブログのコメントはいたしませんが、読んで頂いてありがとうございました。
投稿: naoping | 2011年1月10日 (月曜日) 12時05分
師匠。
こんばんは、10日、月曜日行ってきました。最初の前奏曲聴いて。いきなり悲しくなりました。大野、一昨年のウェルテルと同じ人とは思えませんでした。カーテンコールでも、よろよろ、体調悪そうでした。また、白髪が増えました。当方は大野のファンです。また、頑張って欲しいものです。声は、みんな素晴らしいレベルでした。ツィトコーワのブランゲーネの仕草、声聴けただけでも、幸せです。
投稿: Mie | 2011年1月12日 (水曜日) 20時20分
>>Mieさん
おお、最終日ですね。大野さんはあの短い期間にカットなしトリスタンを5回も振ったのですから(中休みはあったものの)相当お疲れでしょう。東京は年末急に冷え込んだし体調崩しちゃったのかも・・・。歌手は相変わらず素晴らしかったのですね(やはりあの主役二人はスタミナありますな)。
ツィトコーワたんのブランゲーネ、可愛かったですよね。
投稿: naoping | 2011年1月12日 (水曜日) 22時14分
こんにちは、「オペラの夜」です。
ホント、主役の二人の馬力には圧倒されました。年の瀬に良いものを聴けたと思います。
クルヴェナールとマルケのイマイチなのも、石野さんと松位さんの良過ぎたと云う事でしょう。
七月のアルミンクですが…兵庫芸文の「こうもり」と被ったので、見送る積もりで居ります。
投稿: Pilgrim | 2011年1月30日 (日曜日) 12時50分
>>Pilgrimさん
こんにちは。おお、関西からはるばる東京トリスタンに来られたのですね。びわ湖の時と逆ですね。
びわ湖、私もちょっと贔屓してしまうけど石野さんと松位さんは出色の出来だったと思います。初台のほうのクルヴェナールとマルケもそんなに悪くはなかったでしょうけどね。
アルミンクは楽しみですが、またしてもタイトルロール以外が凄い演奏になってしまいそうな悪い?予感がしております。
投稿: naoping | 2011年1月31日 (月曜日) 21時00分