びわ湖ホール「トリスタンとイゾルデ」
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」
ジョン・チャールズ・ピアーズ(トリスタン)
小山由美(イゾルデ)
松位浩(マルケ王)
石野繁生(クルヴェナール)
加納悦子(ブランゲーネ)
迎肇聡(メロート)
清水徹太郎(牧童)
松森治(舵手)
二塚直紀(若い水夫の声)
びわ湖ホール声楽アンサンブル
東京オペラシンガーズ、その他
沼尻竜典指揮/大阪センチュリー交響楽団
(10月10日 びわ湖ホール)
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はるばる滋賀県の琵琶湖まで、新幹線に乗って石野さんのクルヴェナールを目当てに(←えええ~~~?)。
開演前にホールの隣の「なぎさのカフェ」でランチをしていると、これから同じオペラを見に行くであろう女性二人がお話をしていた。別にきいてもないのについつい会話が耳に入っちゃう。お二人ともこのオペラをご覧になるのは初めてということで、片方の方が予習をしてきたらしくお友達に一生懸命説明している。
「昔な、イギリスのあたりのお姫様がおってん、婚約者がいたんやけど戦争で殺されてしもうたんやて。そいでな、ある日戦いで怪我をしはった男の人がやってきてな、怪我を治してあげたんやて。でな、その男の人がなんとそのお姫様の婚約者を殺しはった人なんやったんやけど、看病をしてるうちに好きになってしまいよってん・・・(中略)・・・そのお姫様のお付きの人がな、二人に薬を飲ますんやけどちょっとここで悪戯ちゅうか、それが死の薬のはずがほれ薬やったんやて。」
・・・とまあそんな感じで(関西弁著しく間違ってるかもしれないごめんなさいい)。私は何だかこれから「なんば花月」でトリスタンが上演される感じがしたのであった。
さて。
この日はNHKのバス?というか車が二台ほどホールの前に止まってたんで、「もしかして・・・」と思ったんだけど、やっぱりだった。TVカメラが入って収録されたのである。いつだかわかんないけど東京の皆さんもテレビで見られるかもしれませんね(あ、他の地方の方も)。
全然びわ湖ホールって初めてなんだけど(実は滋賀県自体初めて。鳥人間コンテストで琵琶湖を見るくらい)、新しいんだかすっごく綺麗ですね。目の前が湖ってのもなかなか素敵だし。お天気がよくて休み時間とかに外へ出てもとっても気持ちがいい(暑いくらいだったが)。
ホールは、何と言うか「変形馬蹄形」。オペラっぽくてよい。私は2階席だったのだが、ぶっちゃけ2階というよりは1階席の後ろの一段上がった位の感じだったんで、「え、2階席はどこなの?」とか探し回ってしまったくらい(まあ、係員に聞けばいいのだが)。大変見やすい席でした。
(二日目を見に行く方は、ここから読まないほうが身のためです。)
第1幕。幕が上がると、ドイツ風の建造物が。「あれえええこれ見たことある(写真で)。すっごくある。」ってよく考えたらヴァーンフリート館。「ええええ、じゃあもしかしてこれから行われることはワーグナーんちで起こったことです、みたいな感じなの?ヴェーゼンドンク夫人とか出てきちゃうの? 海の上じゃないの? せっかくのびわ湖なのに?」と一瞬焦る。ヴァーンフリート館のセットがぱかああっと開いてもなんだか普通の室内。ピアノがあってイゾルデとブランゲーネがいる。やっぱり海でやってほしいよ~~~と思ったけど、舞台がぐるぐる回ってカーテンとガラス戸の向こうにはトリスタンとクルヴェナールが立ってる。やっぱり舞台はお舟のようである(ホッ)。ヴァーンフリート館はその後の幕でも出てくる。
イゾルデ役の小山由美さん。メゾでイゾルデを歌う人はまあまあいるのだが(W・マイヤーやC・ルードヴィヒなど)その流れをくんで、今回チャレンジ? 何かニュース記事のインタビューで「今まで、イゾルデを歌ってて途中で声が出なくなった歌手を何人も見てきた」とのことだったので、へええと思った。で、そんなところを見てきて「こんな怖い役やりたくないわ。メゾでよかった」と思うか「いずれ私もチャンスがあればやってみたいわ」と思うかどっちかなんだろうけど、小山さんは後者だったんだな。
小山さんはメゾらしい、気品にあふれたイゾルデ(ソプラノが気品がないというわけではないが)。やはりメゾの音域の部分が滅法美しい(第2幕の最後のほう「イゾルデを連れてって下さい」とか歌うとこなど)。が、やっぱり高いところになるとやや苦しそう(『やや』である)。まあかのW・マイヤーもナマで見たときはそんな感じであったんだけども。第2幕とか段々辛そうな感じになってた(気がするんだけど気のせいかも)。舞台姿はスタイルがよくてとっても素敵ですわ由美様。ブランゲーネ役の加納さんも素晴らしい声。彼女もとてもスタイリッシュで素敵。でもなんか元ブランゲーネの小山さんとかぶるなあ。途中「どっちがブランゲーネだっけ」って一瞬思うわ。声でわかるけど(ならよいではないか)。
目当ての石野さんはなんだか・・・演出のせいか妙にヘラヘラした軽薄な「ヤなやつ」みたいな感じになってた。軽いステップが妙な感じだった。誠実なクルヴェナールのはずが、何故。声は相変わらず素晴らしい。ドイツの歌劇場で活躍されているようだが(だからあんまり日本にこないのでわざわざびわ湖まで行っちゃったんである、アタシ)、きっとドイツの歌手と互角に渡り合える(いやそれ以上)んだろうなと思う。声量が凄い。日本人のバリトンではあたしの中ではダントツである。
第2幕も最初はヴァーンフリート館。二人の逢瀬になるとヴィーラント・ワーグナーばりの「なんにもない舞台」。舞台上に湾曲した板?があるくらい。これがセリになって上がったり下がったり。まあ、何か色々ごちゃごちゃやられるよりこれくらいのほうがいいかと。しかしこの湾曲した舞台のようなものはたてつけが悪いんだか歌手が歩くとぎーこぎーこと妙な音を立てるのである。なんとかならんか。結構気になった。
そしてマルケ王の素晴らしさ。松位さんはザルツブルグでもこの役を歌われたということでさすがに素晴らしい。深い声で声量もある。日本人でもこんな凄い声の人がいて、海外のメジャーで活躍されてるのは本当に素晴らしい(その点バスの長谷川顯さんは外国では歌わないので日本で聴けてウレシイけどちょっと惜しいな)。聴けて良かった。
第3幕。何でか書庫みたいな部屋にピアノとトリスタンの寝てるベッド。階段(はしご?)を昇った屋根の上?で牧童がシャルマイを吹いてる。トリスタンは白い寝間着に腹巻をしていて(怪我してるからのう)、まるでバカボンのパパのようである。クルヴェナールは心を入れ替えたんだか?一幕とは打って変わってとってもいい人、誠実な下僕になってた(まあトリスタンに対してはずっとそうなんだが)。待ちわびるイゾルデが到着すると、なんだか喜びの余り飛び上がってちょっと踊っちゃったりして凄く可愛かった(余計ファンになってしもうた、うう)。第3幕、結構クルヴェナール歌うとこ多いんで、死にそうなトリスタンを圧倒してて素晴らしかった。もうね、楽劇「クルヴェナール」って言ってもいいかも(なわけない)。
最後は、毎度おなじみの「愛の死」を由美様が立派に歌いあげて、幕。間髪いれずブラヴォー(もうちょっと待ってくれ)。
で。
トリスタン。チラシや何かでは「欧米ではこのところ大評判のトリスタン」みたいな感じで書いてあった気がするんだが・・・。実のところあたしは最近のヘルデンテノールの評判に関しては、マギー司郎さんの言うところの「気仙沼界隈ではこの手品とっても評判なのよね」くらいな感じでしか受け取らない。今回、「日本人ではトリスタン役無理」ということ(でしょ?)で、びわ湖では異例の西洋人の出演となったが・・・最後までちゃんと歌ったことには拍手を贈りたい。っていうか、日本人の中では体はメルヒオールばり?のでっかさだったが、声は男子で一番小さかった気がするんだけど。イゾルデと声量合わせてたのかなもしかして。
指揮について、演奏について書くのをすっかり忘れた。忘れちゃダメだ。
沼尻さんの指揮は相変わらず熱のこもった素晴らしいものだ。テンポは早めで、C・クライバーくらいの速さ(テンポがだよあくまで)。すい~すい~と快適な曲運びである。意味不明のテンポの動かし方とか、微塵もない。でも早い早いだけで、曲がさらさらと緩急なく流れて行ってしまうというわけでもない。(私の好みからいうともーちょっと遅くてもいいかもとは思う部分もあったが)少し歌手と合わなかったりしたとこもちょこっとあったけど、二回目では改善されるものと思う。
それにしても、センチュリーさんの素晴らしさにはビックリした。最後まで緊張感が途切れずに長いこの曲を(しかも難曲だ)よくぞ演奏されたと思った。ホールもよかった。S席でもまあまあ後ろのほうだったので音が溶け合っていて美しかった。前のほうで聴いたらもっと印象が違うのかもしれんけど。
ブラヴォーはマルケ王の松位さんが一番多かった。次に石野さんと加納さん、小山さんもブラヴォーを受けていました。トリスタンは・・・そんなでもなかったかも。最後にオケの人々も楽器持って全員舞台に乗って挨拶していました。いい舞台でした。わざわざ行って良かったでした、たぶん。
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この公演はNHK教育にて放送予定です。
12月3日(金) 放送時間:23時00分~(番組終了時刻未定)
・情報コーナー 「びわ湖ホールの『トリスタンとイゾルデ』見どころ」
・公演コーナー「びわ湖ホール公演 楽劇『トリスタンとイゾルデ』全3幕」
http://www.nhk.or.jp/art/current/music.html#music1203
BSじゃなくて良かった~(涙)。
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コメント
こんばんは〜
おっ、出ましたね!
わたしは、去年のルルがびわ湖ホールデビューでしたが、その時も暑かった!
さえぎるものなく、日差しの眩しいホールですが、ほんと、美しいですよね。
途中からスルーしましたが、楽しい楽旅となりましたようでなによりです。
次のレポートを楽しみにしております。
で、今週、日帰りで行ってまいりま〜す。
投稿: yokochan | 2010年10月11日 (月曜日) 23時32分
びわ湖はいきたいんですよ。あそこも「劇場」ですから。しかし新潟からは遠いのでありまして、急行乗継+片道半日強行軍=1泊2日の覚悟は必要なのです。よっぽど気合と休暇がとれなければ無理無理。関西は遠い・・・。
「トリスタン」は特別の一作です。思い入れも半端じゃないつもりです。しかし、数年前の「ばら戦争」のように連続した上演も考え物ですね。体力と気力が持ちませんので。「トリスタン」は年明けの初台だけにしておきます。
投稿: IANIS | 2010年10月12日 (火曜日) 01時25分
遠征お疲れ様でした。
関西弁で歌われるトリイゾ、聴いてみたいです(笑)
ほんとに景色のいいホールですね。スイス辺りのなんとか湖ちっく(笑) スイス行ったことないですが。
投稿: TM | 2010年10月13日 (水曜日) 01時31分
>>yokochanさん
こんばんは。本当に楽しい旅行でしたよ。午前中の大津祭も良かったのですが。滋賀県は一日弱しかいなかったのですが、琵琶湖、いい所だなあと思いました。また何かいい演目があったら是非行きたいです。yokochanさんの感想も楽しみにしています。つか・・・私ちょっとオケ褒めすぎかも。
投稿: naoping | 2010年10月13日 (水曜日) 20時12分
>>IANISさん
さすがに新潟から琵琶湖は遠いですね・・・。私も行きの新幹線はのぞみで行ったので結構早く着いたんですが、帰りはこだまで3時間以上かかり「やっぱり関西は遠いな・・・」と思いましたよ。でもまあ、オペラの他にも色々面白い事もあったので行って良かったなあと思いました。遊びすぎて疲れましたけど。
初台といえば、ホールのロビーでテオリン様の「トリスタンとイゾルデ」のDVDを売っていて、「へへ~ん、あたしは観に行くんだよね、テオリン様のイゾルデ」とかちょっと鼻高々でした。まあ心の中で思っただけで黙ってましたけど。
投稿: naoping | 2010年10月13日 (水曜日) 20時14分
>>TMさん
関西弁で歌ったらどうなるんでしょう。「イゾルデはんはワテのもんでっか?」「あんさんをつかまえてええんでっか?」「はんまでっか?」等々(よくわかりませんが)。 写真、家に帰ってみたら琵琶湖というよりアッター湖みたい(行ったことないけど)。日差しが明るくて、トリスタンよりもマーラーの3番とか似合いそうです。
投稿: naoping | 2010年10月13日 (水曜日) 20時16分
行ってきました。
日帰り、深酒、疲れました。
意味不明のヴァンフリート荘が気になりましたが、変な読み替えがなかったのが救いの演出でした。
小山さんのイゾルデは今後熟するのを期待ですね。
さしあたり荒川あたりでどうでしょうか。
で、へぼいトリスタンを圧倒してしまった石野さんと松位さんの素晴らしい声。加納さんも素敵なブランゲーネでしたね。
オケに辛い選択をさせた知事さんもいましたよ。
あと2回目もNHKが入ってまして、編集するんでしょうか。トリスタンがちゃんとするかもしれないと思っての2度目のカメラですかねぇ・・・。
投稿: yokochan | 2010年10月18日 (月曜日) 00時48分
>>yokochanさん
おおお疲れ様でございました。ワーグナーで日帰りは辛いですね~。
感想読ませていただきましたが、殆ど一緒な印象ですね。二回目で少しはトリスタンは良くなったかと思いきや、あんまり状況は変わってないようですね。何だろう、あれよりはマシなトリスタンが日本にいそうな気がするんですが。
テレビカメラ、二回目も入ってたんですね・・・よっぽどトリスタンがひどかったんだか・・・。一回目は、トリスタンは第3幕だけはまだましだった時もあったんですよ。たまに声を張り上げてたし。まあ、たまにですが。
荒川は予算的に由美様は呼べない気がしますです・・・。
投稿: naoping | 2010年10月18日 (月曜日) 21時03分