R・シュトラウス:歌劇「アラベッラ」
【ヴァルトナー伯爵】妻屋秀和
【アデライデ】竹本節子
【アラベッラ】ミヒャエラ・カウネ
【ズデンカ】アグネーテ・ムンク・ラスムッセン
【マンドリカ】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【マッテオ】オリヴァー・リンゲルハーン
【エレメル伯爵】望月哲也
【ドミニク伯爵】萩原 潤
【ラモラル伯爵】初鹿野 剛
【フィアッカミッリ】天羽明惠
【カルタ占い】与田朝子
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
ウルフ・シルマー指揮
(なお、役名等の表記は新国立劇場のプログラムに合わせました。)
えーといつもの事だけど、これから公演をご覧になる方は読まないほうがいいと思います。で・・・ご心配な方、今回の公演は大丈夫です、初心者の方でもね。
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今日は新シーズンのはじめの日。当然「アラベッラ」も初日。
初日ということで・・・なのか何だか観客の方々もちょっとハイソサエティな雰囲気。黒のスーツに蝶ネクタイ、奥様も着飾って、というご夫婦も多くみられた。「いや、そこまでせんでも」とか思うよりも、何だかとても高級な場所に来たような気がしてウレシイ。アタシはもちろん普通のカッコだけど。
さて、この「アラベッラ」というオペラ、舞台をナマで見るの2度目である。私が前に観たのがとんでもなく前(オペラの本物を観はじめた頃である)だもんで、比べるのは難しいところだが、幸いなことに映像が残っているのでご覧頂ければと思う(消されなければいいが)。
http://www.youtube.com/watch?v=ZhGnkCNqHvo&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=j6sb0F5Zc9c&feature=related
音楽的に言えば歴史に残る空前絶後の名演だが、今日家に帰って久しぶりに観て愕然とした。今日観た舞台のほうが全然いい・・・主役のヴィジュアルは。草葉の陰のポップごめん。
「アラベッラ」はベルクの「ルル」とともに主役のヴィジュアルがかなり重要な演目である。タイトルロールが美人でスマートでないとかなりキツイ演目である。「いや、『サロメ』でも『薔薇の騎士』でも、いやイゾルデだってそうじゃないか」って言われてもアレだけんども。
今日の主役のミヒャエラ・カウネという歌手は(オペラグラスでよくみるとやや老けてるけど)普通に綺麗な人である。ドイツの昔のポルノ映画・・・じゃなくて映画とかでも普通に出てそうな容姿である。しかし。
惜しいなあと思うのは、この歌手はとっても背がでっかいのである。多分マンドリカ役やマッテオ役の歌手の男性はとても身長の高い方だと思うんだけど・・・彼女はこれらの人とだいたい同じくらいの身長である。端役の日本人歌手の皆さんだってそんなに身長が低いとは思わないんだが・・・アラベッラのほうが高くなってしまっている。アラベッラは少なくともマンドリーカよりはちょっと背が低くあって欲しいと思うのは私だけだろうか。
少なくともF=Dとデラ・カーザくらいの身長差は欲しい。
http://www.youtube.com/watch?v=bMyeUkxL2b8&feature=related
影の主役であるズデンカも、なかなか可愛らしい人で第1幕なんかは結構萌える感じであった(第2幕の軍服?姿はバランスとかやっぱり女の人だなあとか思ったけど)。
ヴィジュアルの事を言えば、マンドリカ役よりもマッテオ役のリンゲルハーンという歌手のほうが普通にカッコイイ。いかにもウィーンのおにいさん的な感じでやってますみたいな。軍服姿がとっても似合っているわ。まあ、マンドリカのヨハネス・マイヤーも役柄の雰囲気(ハンガリー人)には合ってる気がしたけんどもね、ワイルドな感じで。良く知らんが。
・・・ええっと、まあ容姿のことはこのヘンで。各幕の印象をテキトーに。
第1幕。アラベッラ一家が宿泊しているウィーンのホテルの一室。この公演全体に共通するが青を基調とした舞台。高級感はないけどとっても綺麗な色。曲線的なセットは時代的にはそんなに古くない設定な気がする。部屋にはクリムトの絵がずらっと飾られている。記憶が正しければ「アデーレ・ブロッホバウアーの肖像」「ユディット」「接吻」「医学」・・・あと何だっけかな。ウィーンといえばクリムト。これはウィーンっぽさを表しているんだかな(まあ他にウィーンらしさを表してるのって特にないんだけど)。
そして(すっかり忘れていたけど)このオペラの季節は冬。ブラインドカーテンの窓の外は雪が降っている。アパートでなくホテル暮らしということで、ホテルで働いてる人が(男女ともに)ひっきりなしに出入りしている。みんな働きものである。
アラベッラは第一幕は軽快なパンツルック。まだそんなに「ひえ~綺麗だ」と思うほどではない。ズデンカは可愛い。「もう男装とかやめて女の子に戻ったら?」とおねいさんはふざけてズデンカのズボンのジッパーを下ろす(きゃ~)。
マンドリカ(と使用人)は高そうな毛皮を着ている(冬だし)。マンドリカはヴァルトナーの手紙を受け取った日には熊に襲われて肋骨を折ったらしい。だもんで手紙は血だらけでちょっと読めない(というそもそもの設定だが改めて考えると面白いね)。さほどどうでもいい役のはずのエレメールが望月さんなもので好演。好きだな望月さんの声。それにしても普段この役気にしてないけど、こんなに歌うとこあったけ。外人に合わせるために日本人歌手はいつもより濃いめの化粧だ。
第2幕。第1幕同様の青い舞台(衣裳などでところどころ赤をポイントに)。新国立の舞台機構を存分に活用・・・というか中央にでっかい階段が(このオペラは階段オペラといわれている)。舞踏会に招かれた女性客(合唱団)はほとんどおんなじデザインのドレス。これって予算がないからなのか。色は似たようなのでいいけど多少デザインは変えたほうがいいかなと(・・・とはいうものの、オートクチュールの大変さは自分が洋裁やる人間なのでとてもよくわかるんだが)。アラベッラのスパンコールがついた青い衣装が美しい。まあいかにもモリハナエっつーか。
演出が凝っていて、主役が前方で歌ってる後ろで客たちが色々と寸劇っぽくごちゃごちゃやってる。男女が追いかけっこをしたりとか。実は私の前の席の五分刈りの座高の高い男性のおかげで舞台の前方中央が良く見えず。つい舞台後方の階段上ばかり気になってしまう。
ツェルビネッタ的な役柄といえるフィアッカミッリは天羽さんで。相変わらず小柄でチャーミング。この役に合っている。高音をびんびん響かせていらした。天羽さん好きだわ。みな青か緑のお洋服の中、フィアッカミッリだけ赤い衣裳。第3幕も(歌わないけど)登場。
マッテオはアラベッラが婚約したらしいというのと、ズデンカがウソの手紙など色んなことをしかけてくるのでなんだか訳が分からずすっかり神経が衰弱している。そのへんが今日の歌手さんはとてもよく出ていたと思う。
さて、今日の公演は第2幕と第3幕は続けてじゃなくてちゃんと休憩を取った版であった。
第3幕。ズデンカとマッテオのめくるめく夢のような、ズデンカにとっては初めてなもんで半ば不安な、男女の行為が音楽によって表される(いやはや)。ズデンカの旋律とマッテオの旋律が溶け合って・・・うーんエロいという感じである。まあ幕がしまったままでオケの演奏だけ(で、勝手に想像するだけ)だが、30年後くらいには幕をあけて舞台で行われてる一部始終を客に見せる演出もあるんではないだろうか。んなアホな。
幕が開き、コトが終わったマッテオがズボンからシャツが出たまま登場。あら、なんかせくしいだわ(・・・って思うのは女性だけかもしんね)。
第3幕はホテルのロビーでやっぱり青を基調としたもの。曲の間もホテルの人たちが一生懸命働いているところが見える。そこに気を付けてみてても面白いね。
で、まあいつものようにひと悶着あって、ネグリジェ姿(というかほとんど下着であった)でお下げのカツラをかぶったズデンカが「ぱぱー!ままー!」と出てくる。あらせくしい。そんなカッコでホテルのロビーに出てきちゃいけないわ。他の部屋のお客もバスローブ姿で見に来るし。旅行のガイドブックには「外国のホテルで、部屋の外の廊下やロビーはお外と一緒だから日本の旅館みたいに寝間着姿で歩いちゃいけません」って書いてあったんだけど、おかしいなあ。
下着姿のズデンカは慌てて上着が着せられたあと、ホテルのおねいさんが白いサンダルを持ってきてはかせてあげてた。よく気がつくというか、芸が細かいなあ。
こんなめにあったのに、おねいさんのアラベッラは怒るどころか妹の一途さに感動して自分も反省し、許してあげる。そこらへんがついついホロっときてしまい危く泣きそうになった。あたしの前の列の女性は泣いてたけども。女のきょうだいがいる者のみの感覚なのかなあと思う。血を分けた妹でなかったら、張り倒すわ、こんなことされたら。
最後。マンドリカはコップをぶん投げたあと、アラベッラと階段を上り中央で抱き合って、幕。
最後はなかなかのブラヴォーであった。初日だったのでアレだが、2回目以降はいろいろと慣れてくるんじゃないだろうか、舞台上もオケも(オケ、素晴らしかったが最後の最後でちょっと乱れた、惜しい)。
演出はとくに変わったことはなく、普通。声楽的にもとくに問題はなし。いつもの事だけど日本人の歌手がかなりよいと思う。とくにアラベッラの両親(ノーマルな人間の役の妻屋さん初めてみたけど素晴らしい声)と望月さん天羽さんは外人と遜色ない。
主役カウネはバイロイトにも出てるんで実力派なんだろうが、声は実は私はあんまりタイプではない(発音とか発声とか微妙に)。でも、なかなか良かったんじゃないかな。マンドリカのヨハネス・マイヤーは「ヴォツェック」でタイトルロールだったんだけど今回の役のほうが多分歌うの楽しいんだろうな。外人の方は初日のせいか第一幕は声が馴染んでないのか「アレレ?」とか思ったけど第2幕以降は慣れた感じ。
シルマーはさすがに各地歌劇場でこの手の曲は慣れているような感じで、テンポ等何の違和感もない指揮ぶりでした。普通にそつのない指揮であったが・・・実はそれがね、一番だと思う。ヘンテコなテンポでやられるよりは。
(あんまり気にしてなかったんだけど、完全全曲公演とのことです。つか、今まであたしはカットされてた版を聴いてたわけね。)

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