ちょっと昔のレビュー(3)*1992年・バイエルン歌劇場・影のない女*
一部の方には好評の、ちょっと昔のレビュー。懐かしいですな。猿之助さん演出のDVD持ってる方はまた面白いかと。
過去記事:影の無い女/市川猿之助演出
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1992年11月15日
バイエルン国立歌劇場来日公演
R・シュトラウス:歌劇「影の無い女」
市川猿之助/演出
ペーター・ザイフェルト(皇帝)、ルアナ・デヴォル(皇后)、マリアーナ・リポヴシェク(うば)、アラン・タイトス(バラック)、ジャニス・マルティン(バラックの妻)、ヤン=ヘンドリック・ロータリング(伝令師)、ヘルベルト・リッペルト(若い男の声)その他
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮/バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
ついにこの日が来た。来てしまったのだ。
「影のない女」を観ること。これは今年の私の一番重要なことなのです。
私の一番好きなオペラを3つ挙げるとすると、ワーグナーは全く別にするとベルクの「ルル」、オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」、そしてこの「影のない女」ということになります(当時)。この「影のない女」をここ3~4年ばかり愛し続けた私にとって、この公演は期待と不安のいりまじるものでした。オペラの中でも難解極まりないことNo.1?このオペラを、「オペラがお経に聴こえる」(謙遜でしょ~~?)という猿之助氏が演出するという、世にも恐ろしい大プロジェクトなのだからです。
でも、結果は素晴らしいものでした。逆に何故か嫉妬のようなものを覚えました。私はこんなにこのオペラを愛しているのに、オペラがお経に聴こえる人がこんなにすごい演出をしてしまうなんて、悔しいじゃないですか(ど、どうして?)。
それにしてもなんて素晴らしいオペラなんでしょう?聴き進むにつれ、胸がつまってきて何かとても悲しい辛い気分になってしまって泣きっぱなしでした。ことにバラックがかわいそう。そして皇后も。
とにかく台本が素晴らしくて、そしてシュトラウスもとびきりの音楽をつけていてもりだくさんでその上演出も素晴らしくて、もう耳と目の安まるヒマがなくてあっというまに終わってしまった。
出演者について。まず皇后のルアナ・デヴォルは初めて聴く人だが、かなり実力があり声もある人だ(少し前までスチューダーが出たらいいのにと思ったが、とんでもない、あの体型ではあの衣装は無理だ)。背が高く頭が小さくて私の思い描いていた通りの皇后です。演技もよく、1~2幕の表情のないお人形みたいな演技から第3幕になって人間的な迫力ある演技への変貌が素晴らしい。
皇帝のザイフェルトは期待以上でした。ルネ・コロよりも若々しくてよいと思う。それと衣装が抜群であった。
リポヴシェクはさすがにうまい。ほんっとに凄い人だ。この役のために生まれてきたような気がする。衣装はバットマンの模様だったけれど。
バラクの妻のマルティンは好きな歌手だったので二重マル。この役と合っていて可愛い声の持ち主である(外見は・・・)。アラン・タイトスのバラクは実直な性格を表していて涙をさそう。
あと、何より感動的だったのは出演者が皆さん楽しそうにやっているところでした。キモノも板についてる。
演出のことは細かく書いているときりがないので、あんまりしない。でも、影の処理のうまさ(バラクの妻の影はあるのに、皇后の影はどこ?とか)や、天上の人と地上の人とのはっきりとした区別など、うなるものがあった。
この「影のない女」の上演を作曲者に見せたいものである。シュトラウスの生きた時代のヨーロッパは日本へのあこがれが多くあったのでした。なのでシュトラウスと歌舞伎、あわなそうであってしまうのです。
←初めて見たグラスハーモニカ。ガラスのおわんを重ねて横にしたような感じで足踏みミシンみたいなので踏んで回す。手に水をつけてこする。しかし、初めて見た人は楽器とは思えないだろう。しかし演奏したレッケルト氏、美形だった。
まあ、そんなことより2回目が楽しみです。(他の演目の)「オランダ人」を見るくらいだったら「影のない女」2回観るほうがいいと思ったのでしたが、正解でした。
2回目の座席は舞台から右寄りなので(今回は左だった)楽しみだわ。レッケルトさんも楽しみ。しかし3幕の命の水は絶対オカシイ。「黒子」ならぬ「金子」??
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<後注>当時、私はこの公演によっぽどリキ入れてたらしく、この公演のことが載ったアサヒグラフやら週刊誌やら雑誌の切り抜きが実家にたくさん残されていた。公演当日に配られた出演者の猿之助さんに対する感謝の気持ちを表した寄せ書きのコピーも残っているが、全く関係ない一聴衆の私でもすごくうれしかったのを覚えている。
この公演は画期的なことだったから、NHKでもメイキングを放送したりしてた。でも、かんじんの公演のほうは教育テレビでは放送コードに引っかかったらしく、バラクの3人の兄弟の出てくるところは放送しなかったな~。
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