ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」
【ジークムント】エンドリック・ヴォトリッヒ
【フンディング】クルト・リドル
【ジークリンデ】マルティーナ・セラフィン
【ヴォータン】ユッカ・ラジライネン
【ブリュンヒルデ】ユディット・ネーメット
【フリッカ】エレナ・ツィトコーワ
【ゲルヒルデ】高橋知子
【オルトリンデ】増田のり子
【ワルトラウテ】大林智子
【シュヴェルトライテ】三輪陽子
【ヘルムヴィーゲ】平井香織
【ジークルーネ】増田弥生
【グリムゲルデ】清水華澄
【ロスヴァイセ】山下牧子
ダン・エッティンガー指揮/東京フィルハーモニー交響楽団
(2009年4月9日)
過去記事:新国立劇場/ラインの黄金
病院でワルキューレごっこしてえな。
・・・
待ちに待った「ワルキューレ」。こないだの「ラインの黄金」ともども再演ではあるが私は初めて観る出し物である。だから何か起こるたびに「おや」とか「まあ」とかまるで「家政婦は見た」の市原悦子さんみたいなリアクションでワーグナーを鑑賞。
ま、演出の細かいとこはおそらくほかのブロガーさんが色々書いてることだと思うんでここではあんまり書かない。席が3階席前から3番目ということで、あまり細かいところまでは見えなかったということもあるけれど。
まあ、音的にはそんなに問題ない。オケの音はよく聴こえたし(よくも悪くも)。歌手も(ジークムント以外は)声量があるからちゃんと届いてたし。(それにしても、月曜だかに4階席の一番後ろで大騒ぎしてたってのはどこのブログにも書いてないので、アレなんだったんだろう。ロビーで声高に持論を展開するワグネリアンの方の話に耳を傾けてたがそんな話はちらともない。)
第一幕。なんかやけにでかいウッディ家具の中で暮らすフンディング夫妻。でかいテーブルの上に横たわっているジークリンデ。これからのジークリンデの行く末を考えると最初の前奏聴いただけでうるうるきてしまう。
ジークムントはやたらと評判の悪いヴォトリヒ。第一声から「ああ、いつも年末ラジオで聴いてる声だわ」とか思い、嬉しいような悲しいような。でも、一つだけ違うのは舞台姿が見れるということで。まー、外見的にはカッコイイなと思った。筋肉隆々だしなかなかワイルドな感じでよかったと思う。双眼鏡で見ながらなんか映画見てるみたいな感じがしたし。
つか、昨年の舞台写真を見て「これが・・・ジークムントだったのか」とか目でがっかりするよりはまだいいのかも。声量がないのはいかんともしがたい(半径2メートルくらいはヘルデンテナーっぽいのかもしれん)のだが、バイロイト出てるだけあってちゃんと歌ってたし。
それに比べて、ジークリンデ役のマルティーナ・セラフィンはものすごい声量であると感じた。だって3階席まで普通に聴こえるもん。どこの感想を見ても彼女が一番褒められていたし、それは私も同感するけれど・・・私も個人的な好みからすればちょっと立派すぎるかなと。少しだけクレメンス・クラウス盤のリングのレジーナ・レズニックを思い出した。立派な歌唱を前にして本当に贅沢だが(ごめんなさい)、かよわい感じが欲しい。
フンディング役のクルト・リドルは、私は海外で2度ほど舞台に接することができた歌手で(ハーゲンとオックス男爵)、いつも安定した歌唱だしなんだかとても近しい存在だ(たぶん他に日本への引っ越し公演とかでも何か見てるんじゃないかな?)。この演出ではことさら悪い役になっているけれど、リドル自身はとっても気のいいウィーンのおじさんて感じがする。
外見的にはこの3人はとっても演劇的に合っていて、このジークムントだったらフンディングに寝酒に睡眠薬入れて逃亡するだろうなあ・・・とか考える。いやあたしがジークリンデだったら間違いないわ。
(つか、第2幕でブリュンヒルデはジークムントに惚れてしまったばっかりに命を助けようとしたんだということでとてもこれは説得力がある。まあ、もしかしたらヴォータンの命令通りにさっさと死んでもらってワルハラ城に連れて行ってウフフ、ジークムントは私のものよ、って手もあるにはあるが。それでもフリッカに怒られそう。)
第二幕(とっとと進む)。なんだか「北欧の疲れたサラリーマン」みたいな風貌のラシライネン。インタビューでは「神というより人間としてのヴォータンを演じたい」などと語ってたようだが・・・頼むから神様を演じて欲しい。見事なまでに神々しさがナイ。
そして外見も声も相当立派なネーメット。あ、ほんとに素晴らしかったわ。好きな声だった。さすがハンガリー人。全然関係ないけどブリュンヒルデ(や、他のワルキューレたち)の衣装はなんで白いキルティングなのだろう。あれは太って見えるなといつも思ってるんだが(「ジークフリート」んときも)。
で、いつも怒ってるフリッカ登場。ツィトコーワたん、前回ラインの黄金よりもキュートだったわ、スリムで金髪がとってもステキ。お声も相変わらずとっても立派だし。うーん、なんかヴェーヌスとかクンドリーとか外見を生かしたエロい役柄で見てみたいのだが。
外見はフリッカよかブリュンヒルデのほうがおっかさんみたいだった。
いつもなら、フリッカの出るシーンは「退屈だからここでちょっとお休みね」とか思ってついついウトウトしてしまうんだが、今回はツィトコーワが素敵だったんでそんなことはなかった。ウトウトしてしまったのはそれに続くブリュンヒルデとヴォータンのシーンで・・・。これは歌手のせいではない。指揮者とオケのせいだ。
なんでこんなにノロいのだ。
えんえんと低音の金管が音を伸ばすこと伸ばすこと。いったいいつ先に進むのやら。
<金管奏者さんたち>
ぶお~~~ぶお~~~ぶお~~~~~・・・
『あ、そろそろ先に進んでもいいかな?・・・(指揮者を見て)え?まだ伸ばすの?わかりました』
ぶお~~~~~ぶお~~~~ぶお~~~~~
『もう終わりかな?え?まだ吹くの?』ぶお~~~~~~ぶお~~~~~~・・・
というしまりのない音がえんえんと続いていたように感じた、私は。あまりのノロさに、もしかして指揮者はとっくに気を失っていてぶっ倒れており、そのせいで先に進めないのかも、とか想像した(指揮者が私の席からは見えないので)。
で、ホールの係員のおねいさんが登場(←想像)。
「お客様の中で指揮者の方はいらっしゃいませんか~~?」と客席に呼びかける。まるで、飛行機内で病人が出たときのキャビンアテンダントさんのごとく。
多分、トーキョー・リングなんて指揮者の人が多数聴きに来ているということは考えられる。それに常日頃、家で人知れずスピーカーの前で腕を磨いてきたワグネリアンたちもたくさんいるだろう。新国立劇場でワーグナーを振れるなんて、こんなチャンス滅多にない。
みんな我先にとオケピットの中へ。何十人ものワグネリアンが指揮棒を奪い合う。「あ、ここは私が」「いえいえこの場は私が」さあ、誰がこの窮地を救うのか・・・?? さてぇ。
・・・なんて 想像をふくらましてしまうほどすごくこの場が退屈だった。
もしかして、このノロさも演出のうちかなとも思うくらい。ブリュンヒルデがジークムントに死の宣告をしている間、ジークリンデはイタコのごとくそのヘンを徘徊。何か人間と神様の時間には差があるということを音楽に表してたのかもしれん・・・といいほうに考える。
同じ演目でないので比べることはできないけれど、あんなに素晴らしかった準・メルクル(いつになったら準・メルクルは正・メルクルになれるのだ?とかどっかで読んだけどうまいと思った)とN響はもしかして幻だったのかしら、と思ふ。
さて第三幕(勝手に進む)。ワルキューレ上演史上もっとも楽しい(歌手にとっては大変そうな)ワルキューレの騎行である。第3幕は何故か突然医療現場を舞台に行われる。白い巨塔・・・というよりは「救急医療24時」である。ワルキューレたちが患者を運ぶストレッチャーを操りながら歌を歌う。たいへんだな医療現場は。ウチの姪も将来はこんなとこで働くんかな・・・とか考える。
日本のコンサートや舞台で主役級の活躍をされている若手歌手のみなさんが、普段と違い医療現場で活躍するワルキューレの娘さんたちを演じる。
ま、歌詞は普通なんだが、私にはこんなふうに聴こえた。
ジークルーネ「ホーヨートホー、あ~私は二期会の舞台のときはフリッカだったのに~~~ 」
オルトリンデ「ハイヤハー、私なんか主役級のジークリンデだったのよ~~~、なんでこんな重労働なの~~~?」
なんとかリンデ「も~~、ドアなんかけっ飛ばしちゃいましょ(えい!!)」
なんとかヒルデ「忙しいわ~~~、男の人を運びながら歌うの大変よ~~~」
なんとかラウテ「こんなことするために芸大で勉強したわけ~~~?」
なんとかゲルデ「何よこの血だらけのエプロン~~~いつもはお姫様みたいなドレスばっかりなのに~~」
・・・
いや、実際はこんなこと考えてないと思うんだが。でもとても楽しかったわ。ここだけでも世界に誇れる舞台だと思う。そして恰幅のいい外人歌手と出てくる中で、日本の歌手の方々は小さく見えてとってもキュート。
さて、舞台も大詰め。こんな変わった演出でもやっぱり「ヴォータンの別れ」はグッと来る。ポスターで有名なデカイお馬さんはここらへんで登場。いいかげん腹が減っていて「馬刺しでビールとかしたいな」とか考える不謹慎なヤツは私だ。
一回、幕がゆっくりと閉まり、幕に燃える文字で「わが槍の穂先を恐れる者はこの炎を決して越えるな!」と(ドイツ語で。日本語だったらマヌケだなきっと)映し出される。これと同じシーンが「ジークフリート」の終幕でもあって、そしてジークフリートはブリュンヒルデを得るのであるが、これで私の中のリングは繋がった!すべて!完了。
大きなベッドの上で大きな目覚まし時計とともに眠るブリュンヒルデ。ベッドの周りは本物の炎に囲まれる。まるでプリンセス・テンコー?危ない!!しかし寝てるブリュンヒルデは人形か。危険すぎるし。
幕が下り、カーテンコールに出てくる父と娘。ブリュンヒルデがヴォータンに抱きつく。なぜかここが一番私はホロリときた(何故?)。
拍手喝采のあと、トイレへ。何故か高齢の見知らぬ女性に「今日は長くてつかれちゃったわね~」と話しかけられる。昨年の飯守さんのワルキューレの時を思い出した。何このデジャヴ。でも今回は笑って「でも、素晴らしかったですね!」と返してみた。うん、終わってみるととってもいい公演でした。・・・家に着いたの11時半にもなっちゃったけど。
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