ブリテンのブリテン指揮による「戦争レクイエム」
ブリテン:戦争レクイエム
(カルショーの隠し取りによるリハーサルテイク付き)
ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(sop)、ピーター・ピアーズ(T)、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
ベンジャミン・ブリテン指揮/ロンドン交響楽団、合唱団、バッハ合唱団、ハイゲート学校合唱団、サイモン・プレストン(オルガン)、メロス・アンサンブル
またもや季節外れ。戦争なんてなんも関係ないも~ん。
でも、来年3月の「すみとり戦争レクイエム祭り」に備えて。一応お勉強しとかなきゃならない。今更すいません、こんな名盤で何を語ろう。
私は今まで、なんとヘルベルト・ケーゲル指揮の「戦争レクイエム」しかCD持ってなかった。えっと、余白にペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」とベルクのヴァイオリン協奏曲が入っているやつね。
まあ、2000円なんて。安さにびっくりよ。私なんか4600円も出して買ったのにぃ(怒)。
ということで、(ケーゲル様には失礼ながら)出会いがこの演奏だったので、あまり曲に対する愛情も生まれず・・・というかぶっちゃけ全然面白くなかった・・・そもそも”面白い”曲ではないけども。今聴けば、独唱者もそんなに悪くないのに、どうしてなんだろう?対訳ももちろん付いていたのに、最後までたどり着けず。ベルクばっかり聴く始末。
そのうち、2回ほど日本の団体の実演に接した。普通に感銘を受けた。でも本当の、もともとの作曲者の演奏はずっと聴かないままだった。
で、今回初めて自作自演の録音を全部聴いた。
全然違った。ふむふむ。ブリテンの考えたことが全部、この録音にこめられてる。ただもうすざまじいというか。もう何とも言えない、言葉を失うような演奏。作曲者はあくまでこの曲を「美しく歌われる」ことを目標にしていない。ここには戦争に対する激しい悲しみと怒りしか感じられない。
で。
曲の解説など今更な感じもあるが、今年3月に聴きに行った神奈川フィルの戦争レクイエムで貰ったプログラムの解説(片山杜秀さん)が素晴らしかったので、ここで少し参考にさせていただき、書きますと。
コヴェントライズ(coventrize)やコヴェントレート(coventrate)という英語があり、これは「徹底的に破壊する」という意味である。
第二次大戦時に、イギリスの都市コヴェントリーがドイツ軍によって徹底的に破壊された。そのことからこれらの単語は生まれたのだという。
そのコヴェントリーの象徴である大聖堂も、破壊された。その建物は今も廃墟のまま(原爆ドームのように)、戦争の記憶を風化されないように残されているそうである。
そのコヴェントリーの空襲の22年後の1962年に、新しい大聖堂は建てられた。そのお披露目のために作曲されたのがこの戦争レクイエムである。
そんな再建のどちらかといえば「華々しい」ハレの日に、しかも戦争に勝ってるはずのイギリスで、なんでか~、死者(戦没者)を悼むというレクイエム。いかにも戦争を心から憎み、兵役もせず、また芸術的な協力もせず自らの信念を通した「反国家的作曲家」ブリテンならでは。
しかも。
「主よあわれみたまえ~、死者よ安らかにお眠りください~、成仏しろ~」などという、現存する者が死者に対する鎮魂に終始する今までのレクイエムとは全然違う。死者(兵士たち)自ら蘇り、生前の死への恐怖や地獄の苦しみを歌い、曲に積極的に参加する。(これは、ブリテンが日本で見た能の影響もあるかもしれないと片山氏は推測)
・・・ということで、この曲は世界初演の半年ほどあと、キングズウェイホールにてジョン・カルショーとケネス・ウィルキンソンのゴールデン・コンビによって録音されたが。
そのときのリハーサル時にカルショーの得意の「隠し取り」が行われていて。
カルショーはそのときの録音を記念LPにして、ブリテンの50歳のお誕生日にプレゼントしたという。
固まるブリテン。
「そんなの聞いてねーよ。」(←といったかどうかは知らないが)
ブリテンはその録音を冷ややかに受け取ると、オールドバラの家の戸棚にしまいこんだ。その録音のことを知る者は数人しかいなかったが、それから月日が経ち、この戦争レクイエムのリマスタリング発売のときに(作曲家がどう思うかは知らないが、死人に口なし。)、CDに収録されたのである。
この録音、結構面白い。ブリテンが合唱団や独唱者を叱咤激励したりおだてたりする様も、彼がユーモアあふれる人だったこともわかるし、自分の曲の演奏に対して非常に厳しい、妥協しない人だったことも伝わってくる(当然だが)。また、これからこの曲を演奏する人はおおいに参考になるであろう。
ちょっと笑ったのがこのくだり。
ブリテン:むずかしい、むずかしいね。
ヴィシネフスカヤ:むすかしい?
ブリテン:ええ。
ヴィシネフスカヤ:じゃあ、なんでむずかしく書いたんですか?
ブリテン:自分で指揮するとは思わなかったものだから。(笑)
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コメント
今大津のスーパーホテルからです。
びわ湖ホール「こびと」見ました。サロメみたいに、結構な見ごたえがありました。良かったです。
ホールも素晴らしい。
投稿: にけ | 2007年11月25日 (日曜日) 17時21分
>>にけさん
おお、行かれたのですね。詳しいレビューを楽しみにしています。
投稿: naoping | 2007年11月25日 (日曜日) 18時51分
こんばんは。
すみトリの戦争レクイエム対決。楽しみですな。
私も一戦いきますよ。
naopingさんの購入された、CDにはそのリハーサルがついているんですか?
いいなぁ。でもそれ欲しさに同じ物2度も買うような曲でもないですしねぇ~。
すごい音楽ですが、年に1~2度聴けばいいかな、という感じです。ツライ音楽の代表といえよう(宇野風)
投稿: yokochan | 2007年11月26日 (月曜日) 23時06分
>>yokochanさん
TBありがとうございます。
リハーサル録音、以前のCDにはついてないのですね・・・。今回、多少今頃感アリでしたが遅く買って良かったかも。
「戦争レクイエム祭り」は群響かアルミンクか、どっちのに行こうかなあ・・・それともどっちも?・・・どんだけこの曲好きなんだか。私、このCD買ってから3回くらい聴きました。いやあ、なんたってヴィシネフスカヤのソロが強烈、コワくて泣きます。もう、クリスマスBGMはこれに決まりかなあと(←やみつき)。
投稿: naoping | 2007年11月26日 (月曜日) 23時35分