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2007年10月 9日 (火曜日)

ベルリン国立歌劇場日本公演/トリスタンとイゾルデ

P1000836ワーグナー:歌劇「トリスタンとイゾルデ」
クリスティアン・フランツ(トリスタン)、ワルトラウト・マイヤー(イゾルデ)、ルネ・パペ(マルケ王)、ロマン・トレケル(クルヴェナル)、ライナー・ゴールドベルク(メロート)、ミシェル・デ・ヤング(ブランゲーネ)、フロリアン・ホフマン(牧童)、アルットゥ・ホフマン(舵手)、パヴォル・ブレリスク(船乗り)
ダニエル・バレンボイム指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団

(2007年10月8日、神奈川県民ホール)



P1000835 私が神奈川県民ホールに行くときに、いつも楽しみにしているのは横浜周辺のお散歩。中華街のランチも楽しみだ。

だが。

この日は小雨。ちょっと悲しくなる。一年間楽しみにしてきたこの日。


それに。

3時から8時半までの長丁場。横浜中華街で美味しいランチを沢山食べたいのはやまやまだが、途中でお腹が痛くなったり、キモチワルクなったら困る、と考え。

食べたのは850円の海鮮おかゆだけ。

千円も出せば、セットメニューで山ほど食べられるのに、どうしておかゆだけなの?中華街まで来て。(って、注文した店員さんの顔が言ってた。)

とにかく、体調は万全に。あとは席の周りの人が、困った人(前奏曲は休み時間と思って喋ってる人、自分が指揮者だとカンチガイしている人、自分の前の席におすもうさん、隣のおじさんが謎の匂い、隣の女性のシャネルの5番が5万番くらいに感じる・・・等々)でないことを祈る。切に祈る。

しかし。

それは・・・大丈夫だった。私のいた2階席の右側のせり出した部分の前から6番目。周辺は一人でいらしてた女性や、金持ちそうな老夫婦で囲まれていた。

あのね、この日きてた人はパーフェクトだったと思うよ。はっきり言うとこないだの「薔薇の騎士」よりも、観客はパーフェクトに素晴らしかった。「何かよくわかんないけど誘われたから来ちゃった」のではなくそれぞれ気合も入ってたし。男が女にまたは女が男に当日に筋書きを説明してるバカップルもいなかったし。

(まあ・・・残念なこともあったけど。昨日の記事参照)


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さて、(前置きなげーよ)公演の感想というか気が付いたこと。何も情報がなくて本番見たいわ、という方は読まないでね!あとで読んで。

第1幕。船の上、ではない。舞台の中央に大きな「♪翼の折れたエンジェル~~」(by 中村あゆみ)の銅像がうずくまっている。または、ベルリン・天使の詩?とか思い出した。この天使の像の上や、羽の上または周りで登場人物が歌ったり演技したりする。後方には墓石のようなものが何個か並んでいる。

(実際のところ、全体に暗く、あまり舞台上に大きな変化は起こらない。あのクプファーだから絶対何かあるんじゃないかとずっと思っていたのだが。もしかして、音楽を聴いてほしくて、音楽中心の演出になったのかなあとも思った。・・・おひるまの3時始まりということで、実は月曜の3時って会社員が一番眠い時間だと思うんだけど、第1幕実はこんなあたしでも結構辛かったす。)

ほれ薬をブランゲーネに飲まされ(っつーかなんというか)、マルケ王の待つ陸地に到着。そのとき黒い服を着た紳士淑女の一団が何人か舞台後方に並ぶ。合唱団じゃなく、歌は歌わなくて無表情な人々。男性はシルク帽を被り、女性は黒いドレス。

それで何か、思い出した。それは前日に見た「ムンク展」の「不安」って絵。道を歩く無表情な紳士淑女は、社会一般の大多数の人の、道を誤った人に対する白い目や、言いようもない不安感のようなものを感じさせる。クプファーがムンクの絵を意識してたとは思えない(だって・・・偶然すぎるもの)けれど、あの不気味な圧迫感は凄く似ていた。クプファーの演出について語ったのをプログラム本で読んだけど、あながち私が舞台から読み取ったものも間違いではないなあとは思った。

第2幕。やはり翼の折れたエンジェル?が鎮座。しかしこの像はコマ劇場のごとく、くるくる回るようになっている。出だしはエンジェルはお尻を向けている。
それこそ、第2幕も大変当たり前のような演出。別になんてことない。
しかし、クプファーが語っているように。この演出の中心は実は、タイトルロールの二人の許されぬ愛ではなく、同性愛である。マルケ王とトリスタン、クルヴェナルとトリスタン、そしてブランゲーネとイゾルデのカッポーである。

実は、(どこにも書かなかったけど)私はどれもアヤシイと思っていた。とくに、カルロス・クライバー指揮のグラモフォン盤を聴くとよくわかる。少なくとも、ブランゲーネ役のファスベンダーはベルクの「ルル」に出てくるゲシュビッツを思わせるし(第3幕の最後のほうの歌唱を聴いて御覧なさい。)、フルトヴェングラー盤とともにクルヴェナルを歌っているF=Dは新旧ともに怪しい歌唱。間違いなくトリスタンに惚れているぜ、あいつも。

マルケ王とトリスタンの関係を怪しむような全曲盤は今のところ思いつかないけれど、なんでわざわざ自分の好きな人をお世話になってる伯父さんと結婚させようと思うだろうか。その辺がアヤシイと思ってた。男ばっかりに惚れられる自分の将来を案じたトリスタンの苦肉の策だったのだわ、きっと。

そんなこんなで、ここらへんのカッポーはこの舞台ではなんとなくイチャイチャしている。

そしてまた!マルケ王が踏み込んできたときにムンクな人々登場。

第3幕。やっぱり翼の折れたエンジェル。しかし、苦しむトリスタンとともに、照明の具合か翼のあちこちから出血しているように見える。いずれはほとんど血の色で真っ赤に。しかしイゾルデが到着し、トリスタンが死ぬと、この色は消える。

イゾルデが最後に歌う「愛の死」は、死ではなく彼女の恍惚の表情で終わっている。最近の演出のイゾルデは死なないの。いや、死なない演出の椿姫だって見たことあるしな、私。女と靴下は強くなったの、昔よりも。

さて歌手。
どう考えても、マイヤーの歌うイゾルデは素晴らしい。私が以前彼女の舞台を見てから10年経っているはずだが、相変わらずの美しさ。いや、イゾルデは少女だったはずでは、こんなエロカッコイイ女ではないはず・・・というギモンなどぶっ飛ばす。メゾであることがここではかえってプラスに。高音が少し苦しそうだが、そんなの関係ない。

そんな神の域まで達しているイゾルデに比べて、やや楽天的な印象の残るトリスタン役のフランツ(トーキョー・リングのジークフリートをさんざ見たせいか)だが、現時点で彼以上のトリスタンやジークフルートを見出すのは・・・うううんムリ? 第3幕の熱演が心に残る。または本当に疲れちゃってたのか?そんなことないよね。

ロマン・トレケルとルネ・パペと揃ったバリトン&バス陣はやっぱり声楽的に優れていたと思う。とくにパペの声は最初に聴いた10年前とちっとも印象は変ってない。声量もあり本当に彼が出てくると悪役だろうが良い役だろうが惚れてしまう。 く~。

ブランゲーネ役のミシェル・デ・ヤングはすごく大きな人のように感じた(南海キャンディーズのしずちゃんくらいありそう)が、この役を得意にしているようで、安心な歌唱。しかし、この演出でのレズビアンなブランゲーネはあまり感じなかった・・・きっと真面目な歌手なのだろう。

あと、思いがけなくライナー・ゴールドベルクのメロートも頑張ってた。お元気そうで何よりです。

最後に、バレンボイムとオケ。
10年前に聴いた「ワルキューレ」や「パルシファル」のときはことさらデモーニッシュな指揮ぶりにちょっとヒイてしまった私だったんだけれど、今回は演目のせいかそれはそれと受け入れられた。実はナマでこの曲聴くのはそんなになくて3回目なのだけれど(アマオケはぬかして)、今回の演奏が一番オケの細部まで聴こえて新しく気づくことが多かった。オケがとても雄弁で、まるでもう一人稀代の名歌手が加わったような感じ。「どんなふうに指揮しているのだろう」と、演奏中こんなに指揮者が気になったのはカルロス・クライバーの振るオペラ以来だった。

終了後、観客の拍手は熱狂的で、バレンボイムもチョー感じ悪かった10年前と比べて、上機嫌な笑顔を見せるなど、さすがにヤツもずいぶん人間的に丸くなった感じだった。

カーテンコールで私はこんな素晴らしい公演を見れたことにとても嬉しくなって、2階席の端っこのぎりぎりまで行って、引っ込む寸前のマイヤーに思いっきり手を振った。 「マイヤーさああああん!! (←心の声)」

彼女は私に気が付いたような気がした。笑ってくれたような気がした。・・・気のせい?



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コメント

遅コメ失礼します。
拝見してて、確かにクプファーらしくない。
でも同性愛ですかぁ。たしかに、そう読める5人組ですね。
メロートもほんとは仲間に入りたかったのかもしれませんね。そのメロート、ゴールドベルクですか!
かつての本番に弱いヘルデンテナーが・・・・。
時代ですね。
もう楽しみでしょうがありません。
願わくは、私の周りに変な人がいませんように・・・。

投稿: yokochan | 2007年10月11日 (木曜日) 17時22分

初めまして。
今回のクプファーの「トリスタン」観に行けないのですが、
私も前々からこの作品の登場人物に同性愛的な傾向を感じていました。
私の場合、メロートとマルケ王、メロートとトリスタンも然りだと思っています。
「主従関係」という名の愛、「友情」という名の愛。
トリスタンの愛はマルケ王に対しても「敬愛」という形で向けられていて、
決して同性愛から逃れたくてイゾルデを連れて行ったのではないと自分では思っています。
まぁ、所詮素人考えなので、ちゃんと説明はできませんが。
しかし、今回のクプファー演出。同性愛といい、衆人の「目」を意識した演出といい、
私が脳内で演出していたコンセプトと合致する部分が多く(←何様目線だ?)
改めて観に行けないことが悔やまれます。

投稿: フィディ | 2007年10月12日 (金曜日) 12時03分

>>yokochanさん
こんばんは。本番はこれからご覧になると思いますが、ネットではどこもかしこも大絶賛なのはすごいですね。もーちっと毒舌な評論もあってもいいかと思うんだけど・・・。日本におけるワーグナー上演史に残る大名演だと思います(ホント!)。「マトリックス・モーゼとアロン」も楽しみですね、私は行かないのですが。みんなどんな感想を書くのでしょうかね。楽しみです。

この上演は比較的、ヘンな人はいないと・・・思いますよ(多分)。だって高いお金払ってるわけですから。みんな真剣。しかし、私の隣の席のおねいさんは2幕までで帰ってしまいました。ドウシテ?

>>フィディさん
はじめまして!コメントありがとうございます。
ワーグナーのオペラって、色々な解釈の仕方があっていつも観にいくのが楽しみなのですが、今回の主題がナント同性愛!我が意を得たりといった感じでした。そうですね、メロートもその中に入っててもアリですね。「男心に男が惚れて~息が溶け合う赤城山~~(by東海林太郎)」っていうか(←古い)。
色々と考えさせられ耳も目も楽しんだ、まるで世界最高のシェフのフルコースの料理の如く贅沢な時間でありました。


投稿: naoping | 2007年10月12日 (金曜日) 20時51分

はじめまして。
mixiのワーグナー・コミュから来ました。
楽しく感想を拝見させていただきました。
なるほど、深く鑑賞されていると、感心しました。
私はまだまだ素人で、直球的な見方しかできません。(^^;;

死なない椿姫の演出もあるとのこと、大変驚きました!

詳しい方の感想を読むと色々勉強になります。
ありがとうございました。(^^)
また遊びに来たいと思います。よろしくお願いします。

投稿: Lamsy | 2007年10月12日 (金曜日) 23時09分

>>Lamsyさん
mixiからおいでいただき、ありがとうございます。私なんかワーグナーの知識はまだまだで、ワーグナー・コミュの方々はバイロイト行ったりみんなハンパなくお詳しいのであんまり参加してないのですが・・・。ここはいつでも遊びにいらして下さいね、っつーか、ここのお客さんもかなりハードコア・マニアなお兄様ばっかりですけど。よろしくおねがいします。

「死なない椿姫」は、幕間に友人と「ヴィオレッタが最後に死なないで立ったまま終わったら笑うよね~」とか話してたら、本当に両腕を高く上げて終わったので(「ご臨終です」とかの医者の歌はナシ)かなりびっくりしました。ま、死なないというよりは天国へ飛翔したって意味だったのかもしれません。

投稿: naoping | 2007年10月13日 (土曜日) 09時29分

久しぶりです。コメント、いっぱいですね^^!

>私の隣の席のおねいさんは2幕までで帰ってしまいました。ドウシテ?

木曜日にNHKホールに行きましたが、2幕までで帰っちゃった人、かなりいました。私の前方とかちょっと斜め後方とかにぽつ、ぽつ&ざざ〜〜と空席ができてました。3幕開始がすでに9時15分なので遠い人が焦って帰ったのか、それとも、全然変化なしの舞台に飽きちゃったのか・・2度目だったので、時間的理由もあって3幕ははしょったのか・・;;

ちょっと文句言いで感じ悪いかな〜〜の記事ですが、TBしますので、よろしくお願いします。

投稿: edc | 2007年10月15日 (月曜日) 18時06分

>>edcさん
遅いレスポンスごめんなさい。
確かにそーですねえ・・・トリスタン役の人は外見も声もちょっと悲しい感じでしたね。そりゃペーター・ホフマンさまがいらっしゃったら、外見・声ともに完璧だったかもしれないけど・・・それは言わないで(涙)。

本当に、どういうわけかわかりませんが、県民ホールとNHKの観客の温度差は凄かったです。県民ホールでは2幕までで帰っちゃった人は私の隣の女の人と、第2幕で奇声を発したおじさんだけかも・・・(←ウソ?)。そうそう帰り道の東横線の中まで、観客の皆様は熱く語り合っていましたから。ここはバイロイトか!とか思いました、行った事ないですが。

投稿: naoping | 2007年10月18日 (木曜日) 19時45分

こんにちは。
昨晩行ってきました。
いいなぁ、県民ホール。神奈川県人、渋谷に負けたりの感です。

naopingさんの記事が頭にあったもんだから、ずっとブリテン的な目で観てましたよ!
それにしてもマイヤーはいい。そして相変わらずキツめの美しさ。そんでもって、一番小さいんですね。
ヤングのジャイ子ぶりといい対比でした。

今回のほぼ5連荘での実感ですが、横浜はレヴェル高いっす。
くそっ!いまだに口惜しいですよ。
感激の涙が、無念の涙に・・・・。

投稿: yokochan | 2007年10月18日 (木曜日) 23時22分

>>yokochanさん
途方もない遅レス、大変申し訳ありません。(というか、最近自分のblogの構造が訳がわかんないことになっています。めちゃめちゃですいません)

横浜は空前絶後?に良かったです。渋谷も良かったですが、なんだか横浜のほうが観客の気合が違いました。というか、私の予想なのですが、東京公演はもしかしたら「会社で得意先からもらった券」でこられる方もまま多いかもしれない・・・かなと。

昔、ミラノスカラ座の東京公演のトゥーランドットで、大枚何万も払って見に行ったところ、一階席の一番前に偶然「パパの会社でもらったのでよくわかんないけど来たの。」という私の連れの友人に出っくわしました。そんなこともあるので、渋谷だったらワーグナーはじめてかもみたいな方もいたんじゃないかなあと考えます。

投稿: naoping | 2007年10月24日 (水曜日) 14時10分

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