E・クライバー/神々の黄昏
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」
セット・スヴァンホルム(ジークフリート)、アストリッド・ヴァルナイ(ブリュンヒルデ)、エマヌエル・リスト(ハーゲン)、ヘルベルト・ヤンセン(グンター)、ローゼ・バンプトン(グートルーネ)
フレッド・デスタル(アルベリヒ)、リディア・キンダーマン(ワルトラウテ)
指揮:エーリヒ・クライバー
管弦楽:テアトロ・コロン管弦楽団
(1947年、テアトロ・コロン、ブエノスアイレス)
みんな、落ち着いて!!
これはカルロスじゃなくて、オヤジのほうだから!エーリヒだってば!
・・・わかってるって?
先日、クナッパーツブッシュのバイロイト音楽祭・再開年の「神々の黄昏」のCDのレビュー(っつーか、聴いて書いただけ)のときに、ヴァルナイが1951年ヨーロッパに渡る前に、テアトロ・コロンにおいてのリング全曲初演のときに歌った、というのを「歌劇大辞典」で読んだ。(南米初演てことか?)
どうもこれはその時の録音らしい。ヴァルナイは1918年生まれだから、29歳のときの録音である。
が。
全然、声が高い。カン高いと言ってもいいくらいだ。4年しか違わないのに、こんなに声って変わるもんなんだろうか? 1951年の時の声みたいに包容力のある深い声ではないのである。でも確かにヴァルナイの声なんだけど。
ハテ?
不審に思い、クナッパーツブッシュ盤とちょっとだけ聞き比べてみた。・・・どうもこのエーリヒ盤は少々回転数が早いのではないだろうか。全体に若干音が高い気がするのである。
まあ、そんなこともあってか、白熱の演奏を繰り広げる。オヤジ・クライバーはこんな演奏をする人だったのか(他の演奏をあまり聴いた覚えがないのでわからない、ごめん)。というわけで、第1幕最後のブリュンヒルデとジークフリートの格闘シーンはトリハダものだ。(ヴァルナイの「キャー」という悲鳴もまだ若いオネイサンという感じでカワイイ。) 第2幕のハーゲンとグンターとブリュンヒルデの3重唱も迫力。やっぱりヴァルナイはすごい。大ベテランとの共演もひるむことなく。強心臓だったのかも。わりと長生きだったし。
セット・スヴァンホルムもまだ40代で乗りに乗った歌唱が素敵だ。大変に元気がいい。飄々とした感じが少々お調子者のジークフリート役にぴったり。
その他、ヘルベルト・ヤンセン、エマヌエル・リストとバス系が揃っているのがスゴイ。ハーゲンはとくにド迫力の歌唱。いくら私でもこのへんの歌手が大歌手だったってことは知っている。
ワルトラウテ役の人とグートルーネ役の人は知らない名前だけれど、この高水準の歌唱をブチこわすものではない(グートルーネ役のバンプトンはメトで活躍した人らしい)。っつーか、昔の録音て端役はミョーに古臭い歌唱だったり「マジ?」と思うほど非力だったりするけど、このCDはそんなことない。きっと、このコロン座の上演のレベルは相当高かったに違いない。
まあ、テアトロ・コロンて・・・・南米なので。オケの実力というのはどうだったんだろうか。ひっきりなしに音を外すジークフリートのホルンとか。ことに第3幕の冒頭でコケるのはどうか。
ま、聴いていると色々と気が付くこともある。
ギービヒ家の家臣たちはどうも他の国から連れてこられたらしく、ドイツ語でないのである。聞き取れないけど、まったく普段聴いている歌詞と違う。アルゼンチンだからスペイン語かも。しかし、ハーゲンはドイツ語で命令しているから、彼らはドイツ語も解するらしい。以心伝心ということか。これは第2幕だけで、家臣らは第3幕ではドイツ語を使用。バイリンガルか。
ああ、そうそう。録音状態ね。
ご想像通り、芳しくない。オケの音はちゃんと入ってはいるのだが、なんだか蓄音機時代のような貧相な音がする。なんというかピーヒョロピーヒョロとした。そして音量がひっきりなしに変るので、音が小さいと思って大きめの音量にしておくとあとで急に大きくなりビックリする。かと思ったら、ところどころ音が切れてしまったりもする。そして後ろのほう?でしじゅうちゃらちゃらちらちらした雑音がする。ラジオの音波か。たまにピッピッピという音がするときもある。
そんな感じなので、本来CD4枚組にもなってしまう「黄昏」が、あちこちのカットによってギリギリ3枚に収まっているが、逆にカットが有難いと思ったりもする。コレまるまる4枚も聴くのはちょっとしんどいかも。
ま、こんな障害にも耐えてみようかい、というチャレンジャーなワグネリアン、そしてヴァルナイやE・クライバーのファンにはお薦めしまする。
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コメント
こんにちは。
すごいの聴きましたね。親父の黄昏なんてあるんですね。
若きヴァルナイもイキがよさそうで。
コロンは、ブエノスアイレスですね。
当時はキラ星のような、指揮者や歌手を集めた大オペラハウスです。なぜかはわかりませんが、まさかナチスの残党が多かったとか・・・。詳しい方にお聞きしたいもんです。
いまでもある立派なハウスのようです。
以前いた会社の役員さんが、ブエノスアイレスに海外転勤してたらしく、「あそこのオペラハウスは素晴らしい、世界の3大オペラハウスなんだ。そして肉がウマイ」なんて何度も言ってましたっけ。その役員は糖尿病になってましたが・・・・。
投稿: yokochan | 2007年10月 7日 (日曜日) 00時36分
>ナチスの残党が多かったとか・・・。詳しい方にお聞きしたいもんです。
アルゼンチンを始めとする南米は、亡命ナチの受け皿だったんですよ。当時、経済、軍事的な自立を目指していた南米諸国としては、最先端の技術を知るナチの科学者や軍人はお客様だったんです。アドルフ・アイヒマン、ヨーゼフ・メンゲレなどがそういった連中です。ナチに反感をつのらせて南米に行ったエーリッヒとしては、戦後、アルゼンチンが親ナチとなっていった展開は複雑だったでしょうね。
投稿: Ervin | 2007年10月 7日 (日曜日) 02時06分
>>yokochanさん
親父の黄昏・・・・。何か哀しい題名ですね。ブエノスアイレスといえば、かのバレンボイムの生まれたとこですね。すぐにイスラエルに移住したらしいすけど、それもナチスに何か関係が?
コロン座、HP見るとそんなに毎日公演してるわけでもないみたいですが、結構なプログラムです。今年はヴォツェックやらメフィストーフェレやらツウな演目をやったのですね。因みに今月はデ・ヴォルでエレクトラだそうです。ウィーン国立ばりの豪華な建物で、行ってみたいですね。糖尿はヤですが。
>>Ervinさん
おお、そうなんですか・・・。しかしなんではるばるエーリヒは南米まで行ってしまったのかしら~というのは私には疑問です。やっぱりコロン座があったせい?もしかして日本に亡命してたら、また日本の楽壇は変ってたかもしれませんね。カルロスも「軽太郎」なんて名前になってたかもしれません(ウソ)。
投稿: naoping | 2007年10月 7日 (日曜日) 16時43分