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2007年8月14日 (火曜日)

影の無い女/市川猿之助演出

51srmejkpjl_3 R・シュトラウス:歌劇「影の無い女」
市川猿之助/演出

ペーター・ザイフェルト(皇帝)、ルアナ・デヴォル(皇后)、マリアーナ・リポヴシェク(うば)、アラン・タイトス(バラック)、ジャニス・マルティン(バラックの妻)、ヤン=ヘンドリック・ロータリング(伝令師)、ヘルベルト・リッペルト(若い男の声)その他
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮/バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団



ああ、懐かしいわね。ついに手に入れたわよ。エンノスケさんのフラウをね。1992年、名古屋芸術劇場のこけら落とし公演。

前にも書いたけど、私はこの演出の公演を実際観にいった。ただし東京公演だったけど。S席で2回も行った。どんだけ~、お金持ちだったわけでもなく。当時本当にこの曲が大好きだったし、「多分、この曲を実演で見られるのは私の一生のうちでそうはないだろう」と思ったから。

あんまり懐かしくて、昨日タワレコで買って帰って一回全部見て、今日またもう一回見ているわけなんだわ。

このDVD、以下の方には是非ご覧頂きたい。

・もちろん、この公演を実際に見た人
・「影の無い女」が好きで好きでしょうがない人
・歌舞伎が好きで、しかも「影の無い女」も好きな人

私は全部当てはまる。因みに「歌舞伎が好きで、オペラも好き」というだけの方はどうかなあという気がする。日本語字幕スーパーがナイし。この曲は他のシュトラウスのオペラに比べて、かなり内容が理解し辛い。象徴的な表現が多いし、実は対訳を読みながらでも「ハテェ?」と思うところが多々ある。

しかし、実演では観客の皆さんはかなり楽しんでいた(ようである)。実際、ある日の公演では私の前の列のウルサイおばはんたち5人くらい(ここは演芸場じゃないよ!オケだけの部分は休み時間じゃないよ!)は、この曲を聴くのは初めてだったらしく、どんな反応をするんだろうとちょっと危惧していたんだが、一幕が終わったとたん、

「アラア、面白いじゃないの!!」

と口々に発言していて、「ほほう、そうかそうか」と思った。

いや、この演出は面白いのである。爆睡なんか許さない、色々趣向が凝らされていて、観客をあきさせない。長年「スーパー歌舞伎」を手がけた猿之助さんの力量である。しかし、(去年見たトゥーランドットのような)懲りすぎた演出ばっかりに目が行ったばかりに肝心の音楽はどっかいってしまったということはナイ、少なくとも私はナイと思った。猿之助さんはオペラの脚本を随分読み込んだのだろう(当たり前だが)。よくこの曲を知っているつもりでも、「ははあ、なるほど」と感心することしきり。

演出はよい意味で歌舞伎のけれん味がたっぷりで本当に見てて楽しい。この曲の実際の舞台ではちょっと難しいと思われる一瞬の場面転換(ぼろ屋が一瞬にして宮殿になったりとか)などは、別に歌舞伎では珍しいことはない(勘三郎さんの平成中村座とか)。布を多用した、そんな豪華な舞台装置でもないのだが。

演出だけでなく、衣装も舞台も照明も日本人で「猿之助ファミリー」っぽい面々が担当している。しかし、「メイキング・オブ影の無い女」の番組を見たときは確か、衣装を作ったのは現地バイエルン歌劇場の係の方だったと思う。着物、というよりはドレスみたいな雰囲気だし(とくにバラクの妻)、素材なども日本のものとはやや違う感じがする。それもまた面白い。

衣装デザインは、スーパー歌舞伎などでも担当している毛利臣男さん。皇帝の衣装は着ているザイフェルトが恰幅がよくて超豪華な横綱土俵入りみたいな感じ(化粧まわし?)だが、普段はオクトバー・フェストでビール飲んでるヒゲのおにいさんみたいな風貌のザイフェルトがとってもかっこよく見える。結構白塗り似合うわ。刀の扱いは難しそうだったけど。

ザイフェルトのリリックな声はどっちかっつーとヘルデン・テナーなこの役とはどうかなあと舞台を見る前は思ったけど、これはこれでありかなと。そうそう、魔笛のタミーノみたいな美声。

ルアナ・デヴォルの皇后は、個人的には一番好きな皇后かも。どこまでも伸びる高音はライブとは思えないくらいぴたっと決めている。登場のとき着物のすそを引きずるとスパンコールの飾りがシャラシャラ音を立てるのがなんだか不思議で、それをすごく覚えている。素顔は全く美しいとはいえない(失礼!)が、白塗りであの衣装だと客席から見るとなかなか可愛らしく見えたもんである(ホントですってば!)。

歌舞伎的な立ち振る舞いとかも、ずいぶん練習したのだろう(猿之助さんとともに市川右近さんがドイツに行って指導していた)。影を得る前の人間っぽくない雰囲気(もともとはカモシカという設定なので)が出ていると思う。第3幕の皇后一人の寝室の場面で、肘掛?を色々と動かしながら彼女の不安な気持ちをしぐさで表現していて印象的だった。・・・っつかこれは欧米人には理解できるもんなのだろうか?

さて、この舞台の真の主役は実はうば役のリポヴシェクであると思う。本当にこの役を彼女は楽しんでやっているようだった。当時色々この舞台に関する雑誌は買って読んだが、彼女はインタビューでもとってもこの舞台が楽しそうだった。魔法をかけるときト音記号を指で描いているが、これは彼女自身が考えたものらしい。まるで細木○子さんのような演技で「ずばり言うわよ!アンタは若い男と浮気をしたいんでしょ!」とバラック夫婦を落としいれようとする。んなアホな。

ジャニス・マルティンは、風貌とかなりギャップがあり(これまた失礼?)ドラマティック・ソプラノにしては可憐な感じもする声。これはサヴァリッシュのCDのほうのヴィンツィングよりかなりよい。

タイトスのバラックはいかにもバラックらしい風貌だし、この役の人の良さが出ている。乞食の子供たちを呼んで食べ物を振舞う場面はなんだかカワイソウで涙をさそう。いい人なんだけどなあ・・・的な。

演奏は、放送交響楽団を用いたCD録音よりライブ録音の迫力が加わっている(サヴァリッシュのナマ・シュトラウスはほんに最高なんですわ!)。
大盛り上がりの終幕はかなりクルものがある。カットは通常公演の感じだが、歌手の負担を思うとこれは仕方ない。(なお、金の水の場面は黒子ならぬ金子が出てきて面白い。)

NHKが社運をかけて?収録したので当然音も画質もよい(うちのテレビは小さいので影があろうがなかろうがよくわからん。ちでじとやらを機会に大きいのを買いたい)。ホーム・シアター(って今言うのかな?)をお持ちの方は耳も目もさぞ楽しめると思う。

・・・とまあ、細かく書けばきりがないのでここら辺でやめておくが、このDVDは輸入にしてはお値段はややはるけど、よい再生装置さえあれば実演を見るのに近い感激は得られるものと思う。 

     

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コメント

こんにちは。
naopingさんの、この作品と演出に対する思い入れと愛情が感じられますねぇ!
当時はテレビ観劇だけでしたが、リポヴシェクのすごさはいまだに覚えてます。ショルティのDVDでも彼女は光ってました。
ビデオの貧弱音では我慢できないので、購入しますかねえ・・・・。
お買い物リストがもう大変なことになってます。

投稿: yokochan | 2007年8月14日 (火曜日) 22時42分

>>yokochanさん
こんにちは。
このblogはますます影の無い女だらけになってきました。まだレビュー書いてないのあるんだけど(爆)。
むかーしテレビで放送されたのは確かカットありだったような気がするので、全部観られて嬉しかったです。音も画質もよいので奨められると思います。それと、カーテンコールで元気な猿之助さんが見れるのが歌舞伎ファンにはうれしかったです。

投稿: naoping | 2007年8月15日 (水曜日) 14時04分

このオペラの舞台を実際にご覧になられたブログ主幹の説得力に満ちた鑑賞の印象にはにんまりさせられました。やはりオペラは実際に観るものだよなぁ・・・。
初めてこのオペラのDVDを買うのだったら、僕もこの演奏を薦めますよ。面白いもの。
[追記]
TDKのアチラ盤がかかることが分かったので、味をしめて「バラの騎士」と「エレクトラ」を注文してしまった!シュトラウスの魔力であります。

投稿: IANIS | 2007年8月15日 (水曜日) 21時41分

こんばんは。

このDVD、購入されたんですね。私も実演見ているのでこの演奏の素晴らしさをもう一度体験したいなと思います。

ところで、アマゾンのサイト見たら、この商品リージョンコード1ということで日本製のプレーヤーでは見れないようなのですが、やはり無理なのですかね。実は映ったりするんですかね。

投稿: HIROPON | 2007年8月16日 (木曜日) 02時30分

>>IANISさん
毎度どうも。このDVDはやっぱり面白いと思いますよ。初心者にもわかりやすい演出だし。(対訳さえあれば)
日本人が外国の有名オペラハウスで「蝶々夫人」以外のオペラを演出したというのは、当時は大ニュースでありました。そのときの朝日新聞まだとってあります。

>>HIROPONさん
この実演、ご覧になったのですね。これはかなり良かったですよね!それならば、DVDをご覧になれば懐かしく思い出されるに違いありません。

・・・ということなのですが、アマゾンで売っているアメリカ・カナダ版の方式が日本のと違うらしいので、心配なので少々値段の高いタワレコのリンクを貼り直しました。どうしても不安な方はタワレコでお求めになったらと思います。ウチの東芝DVDプレイヤーは、タワレコで買ったのは再生できるので(←当たり前ですが)。

投稿: naoping | 2007年8月16日 (木曜日) 10時46分

こんばんは。

naoping様は非常にオペラに詳しいので、以前、7月5日のブログの「蟹の思い出」も、タイトルを見た瞬間にこれはオペラの表題かと思い、「ああ、またとんでもなく変わった作品を鑑賞しているなあ、前衛作品か?」などと思った次第です。

それはさておき、この「影の無い女」の紹介を読んでいると、舞台上の進展や有様が面白そうですね。買おうかな・・・TDKレーベルは良いものが多いようなので。

市川猿之助さんは演出であって、身内も含め舞台には一切登場しないわけですね・・・歌舞伎ファンの中には登場を期待して掛け声の用意をしていた人もいたかも知れないですね・・・「おい、未だかいや?」とか(~おもだかや)・・・(書くまいと思いつつも、つまらぬダジャレを書いてしまうオヤジになってしまい、わたくしは自分が悲しい。)

投稿: クラシカルな某 | 2007年8月17日 (金曜日) 19時52分

>>クラシカルな某さん
こんにちは。
蟹を主人公にしたオペラは、確認できるのは子供オペラ「猿蟹合戦」があるのみですが、残念ながら第2次大戦で楽譜は消失されてしまったようです。(←大ウソ)

「影の無い女」は、シュトラウスの中でも難解なオペラですがこの猿之助さんの演出だと何故かとても解り易いです。作曲者に見せたらびっくりするでしょうね。
そうそう、猿之助さんは東京公演ではカーテンコールのときに観客に「おもだか屋!」って掛け声をかけられていましたっけ。オペラも「ブラーボ、ブラービ、ブラーバ」だけじゃなくて、所属オペラハウスの名前で掛け声をしたらいいのに。「スカラ座!」とか。

投稿: naoping | 2007年8月18日 (土曜日) 11時08分

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