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2007年7月 1日 (日曜日)

ショルティ/影の無い女


R・シュトラウス:歌劇「影の無い女」
プラシド・ドミンゴ(皇帝)、ユリア・ヴァラディ(皇后)、ラインハルト・ルンケル(乳母)、ホセ・ヴァン・ダム(バラック)、ヒルデガルト・ベーレンス(その妻)、アルベルト・ドーメン(伝令師)、スミ・ヨー(鷹の声)、エヴァ・リント(しきいの護衛者)、その他
ゲオルグ・ショルティ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン少年合唱団

うあ~、昨日のベームのトリスタンに続き、今日も重い曲であります。ショルティの影の無い女、しかも映像のほうじゃなくて完全全曲盤のCDのほうである。

(因みに、私は初出で買ったので、ジャケットは全然違う。)

あの、サヴァリッシュ指揮の完全全曲盤が1987年録音。
このショルティ盤は1989年録音。
比べると音がかなりいい気がする。デッカの録音技術の素晴らしさ。

しかも、ウィーン・フィルとその合唱団、オマケにウィーン少年合唱団。

これは悪いはずはない。それだけでもう大満足。ラーメンでいえば、最高のおだしで、最高の醤油と油。

あとは麺と具である。

ところが。

何か違うものが混じっている。ラーメンに何か(トマトとか、オリーブオイルとか)イタリアンなものが混じっている。

ドミンゴ。

いや、ドミンゴがドイツものを歌ってはいけないという法律はどこの国にもない。
しかも、これはワーグナーではない。

(ドミンゴの歌うワーグナーは私の中では全くありえない。タンホイザーもパルシファルも。)

R・シュトラウスならまだ。ちょっとは大丈夫。大丈夫よ、だって薔薇の騎士だって出てたじゃない(歌手役で)。

大変心の準備をして臨めば、なんてことない。あら、美声でなかなかいいじゃないの。あんまり他の歌手とのからみはないし。

しかし。これは最後の壮麗な4重唱でぶち破られる。
例えはヘンだが、歌舞伎の世話物に突然セリで紅白の衣装の小林幸子が登場したようなビックリ感。心の準備が必要。

とはいうものの、他の歌手は素晴らしい。とくに女声。
サヴァリッシュの「リング」でジークリンデとブリュンヒルデを歌っているヴァラディとベーレンスが歌っている。

(これは、ベームのリングでジークリンデとブリュンヒルデを歌っている歌手がそのまま「影の無い女」で歌っているのと同じ。)

とくにヴァラディのキメ細やかな歌唱はとても素晴らしい。アラベラも歌え、皇后も歌える。なんて素敵なシュトラウス歌手であろう。

ベーレンスも・・・こんなこと言っちゃアレだが、可愛らしいとさえ思うほど魅力的。

ヴァン・ダムは、F=ディースカウやベリーみたいな「おとうさん、まだまだ頑張っちゃうから~」みたいなかっこ悪いが愛すべき感じに欠けている。ぶっちゃけ無愛想である。まあ、本来はこういう役なのかもしれない。

さて、演奏全体の話だが。
前半非常に疲れる。なぜかとても遅いのである。サヴァリッシュの、精妙というか絶妙なテンポ(いかにも劇場でシュトラウスを振りなれている感)に慣れているとダレる。

しかし、後半俄然素晴らしくなる。ウィーン・フィルならではの壮麗な音色を楽しむには十分。なので、第1幕でリタイヤしてはいけない。ドミンゴかよ~と思ってはいけない。

それにしてもまえまえから不思議に思っていたのだが、(完全全曲盤から入ったからそうなのかもしれないが)実際に上演されていてカットされてるところが、この曲では一番素晴らしい部分である(と私は思う)。

他のシュトラウスの曲にはないかもと思うほど、中身の濃ゆい音楽が隠されているのである。

重要なカットはたとえば。
皇后がうばに別れを告げ、うばが自暴自棄になる場面、そしてバラック夫妻が互いの名を呼び合っているところ。

また、皇后が水を飲むのを諦めるまでの長いセリフの場面。(セリフの部分はサヴァリッシュ盤のスチューダーのほうが絶妙なタイミングであると思う)

および、最終場面の皇后と皇帝の二重唱。

ここらへんは、聴いたことないでシュトラウス・ファンは一生を終わるのは惜しい。
ま、現実的には上演時間とか歌手への配慮もあったのかもしれないが。

残念なことに、どうもサヴァリッシュ盤は廃盤らしいので、現在はここらへんの部分を聴くならショルティ盤を聴くしかないのかも。(実はシノポリ盤は未聴なのですが、カットはあるそうなので)

しかし、ここまで頑張って揃えておきながら、最後の子供たちの出てくるところで、グラス・ハーモニカが響かないのはどういうことだ。(グロッケンシュピールで代用?)

サヴァリッシュは日本での実演でもグラス・ハーモニカを使っていた。大変メルヘンチックで好きな部分だ。(そもそもどっちが正しいのかは知らないけど。)
ついでに言えば、好みの問題もあるが私はウィーン少年合唱団よりもテルツ少年合唱団の歌唱のほうがここではあっていると思う。やんちゃな子供らしさが。

ということで、サヴァリッシュ盤の再発を強く望む次第である。(アレレ?)

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コメント

こんばんは。まずは、すげぇ~!
トリスタンに影なし女を連チャンで!
かくいう私も、ブリテンとトリスタンを土曜に、シュトラウスを日曜に、同じようなことを行なってますので、あまり人さまのことは言えませんです。

CDのショルテイ盤は、私はドミンゴゆえに未聴です。はははっ。
ドミンゴのイタオペでさえ、ちょっと鼻につく場合があるのに、ドイツ物はどうもいけません。ショルティが積極的にドミンゴをドイツ系でも起用したのに、カラヤンは一切起用しなかった。このあたりが面白いですねぇ。
でもヴァラディとベーレンスは実に魅力的です。そしてウィーンフィルも。

なんだかんだ、サヴァリッシュ盤が一番ということになりますでしょうか。
そして、完全版を気にしなければベームかシノーポリで。
TBさせていただきます。

投稿: yokochan | 2007年7月 2日 (月曜日) 23時20分

こんばんは。
ショルティは好きです。彼のリヒャルト・シュトラウスは英雄の生涯くらいしか聴いていませんが、オペラでもオケをガシガシ言わせているんでしょうか。
「影のない女」、、、名前しか知らないので、楽しく読ませていただきました。
いろいろ教えてくださりありがとうございます。稼げるようになったらぜひ東京までオペラを観に行きたいです。
またその時はご教示ください。

投稿: ピースうさぎ | 2007年7月 3日 (火曜日) 20時26分

「影なし女」はCD、LD、DVDともショルティ。当然最初から全曲を聴いていたわけなのですが、シノーポリのCDを聴くまではこれが完全全曲とはつゆ知らず・・・。
余りに演奏時間が違うので、気になりだしたら止らない。アマゾンでスコアを入手してシノーポリを聴いたところ、本当にお説のとおり、大事な場面がざっくり切られているんだなぁ。特に皇后の長いモノローグ!これは大事ですよ。シュトラウスが泣いている!―といいつつ、シノーポリとドレスデンの「ウィーン・フィルなんて目じゃないぜ」的超絶美音にはくらくらしてしまうのですが。
そう考えるとサヴァリッシュは可哀想。バイエルンが悪いわけじゃないけれど、ウィーン(「影のない女」、「ナクソス島のアリアドネ」初演)とドレスデン(シュトラウス9作品初演)相手では生誕の地かつ「平和の日」初演の地でもあるバイエルンのオーケストラの響きは魅力が失せます。

投稿: IANIS | 2007年7月 3日 (火曜日) 21時59分

>>yokochanさん
私もドイツオペラのドミンゴはちょっと・・・の人なので、メトの「ワルキューレ」は他のキャストが好きな歌手ばかりなのに、ジークムントがドミンゴだというだけで行かなかったことがあります。イタオペのドミンゴは嫌いではないのですが、やっぱりドミンゴはラモン・ヴィナイにはなれなかったのかなあと。

サヴァリッシュ盤は一番自分では違和感なしで受け入れられるのですが、ショルティ盤はショルティ盤で発見がいろいろありますのよ。聴いてみてソンはないです。今回久しぶりにヘッドフォンで聴いてたら、迫力で最後の方など腰が抜けてしまう感じでした。

>>ピースうさぎさん
ショルティはやっぱりガンガンオケを鳴らしています。さすがショルティといいますか。しかしショルティも日本では最近は評価が下がっているような気がしてなりません・・・。

「影の無い女」はR・シュトラウスのオペラの中ではかなり上級者向けな感じで、なかなか内容を理解するのは難しいです。(いまだに何が言いたいのかわからない)でも、はまるともう抜けられない魅力があり、ウチには6~7種類の全曲盤があります。これはワーグナーのリング並みです。

>>IANISさん
サヴァリッシュ盤の解説によると、作曲者自身は「影の無い女」のカットをある程度承認していたようです。まあ、全曲盤によって微妙にカット部分が違うのは、聴いていてそのたびにガックリしたりビックリしたりなので、せめて一定に決めてほしいものですね。ベーム盤もかなりカットが多いですが、あの素晴らしいカイルベルト盤はかなりガッカリ度が高い最後の場面のカットがあります。惜しいです。

シノポリ盤は指揮者&オケから素晴らしい感じは想像がつくのですが、やっぱりカットでがっかりしてしまうのでは・・・と買うのを躊躇しています。いずれは聴いてみたいと思いますが。サヴァリッシュ盤は放送用オケだしあの大御所ウィーン・フィルと比べてしまうと、うーん?・・・と思いますが、指揮ぶりはショルティよりキリリと引き締まっていて好きですよ。

投稿: naoping | 2007年7月 4日 (水曜日) 21時04分

ご教示ありがとうございました。
サヴァリッシュの「影のない女」というと、市川猿之助演出による舞台があったわけですが、〇芸の海外視聴記でDVDが発売されたので、注文したら届きました。
実演のほうではどうなのかなぁ・・・。

投稿: IANIS | 2007年7月 4日 (水曜日) 22時36分

>>IANISさん
おお、これは名古屋でのライブ収録ですね。私はコレの東京公演を観た(2回)わけです。テレビでも放送されましたが、バラックの弟たちのシーンは(放送上よろしくない?)カットされた覚えがあります。
この公演をきっかけに、歌舞伎を自発的に観にいくようになりました。キャストはみな平均的に良かったです。とくにルアナ・デヴォルが初めて聴く声だったのですが美しい声でその後数少ないCDを買ったりしました。私も懐かしいのでこのDVDぜひ欲しいです。

投稿: naoping | 2007年7月 5日 (木曜日) 21時07分

はじめまして。ショルティの影のない女に魅かれてお邪魔してます。

私もショルティ盤持ってます。同じ初出盤です。まだこれしか持ってないのでカットがどんな感じなのかわからないのです。ベーム盤やシノポリ盤も気になってますがそれ以上にカットが気になってしまって。

ジークリンデとブリュンヒルデとの関係、確かにそうですね。ちょうどベームのリング聴いたばかりです。

サヴァリッシュは東京公演見に行きました。特に第2幕の幕切れは圧巻でしたね。私も是非DVD買って、当時の舞台を思い出したいです。

またお邪魔します。

投稿: HIROPON | 2007年7月 5日 (木曜日) 23時11分

>>HIROPONさん
はじめまして!よろしくお願いします。ベームのリング聴かれているようですね。

「影の無い女」はツェムリンスキー「人魚姫」と並んでここのblogでは人気のある楽曲なのです。ほんと、この2曲はマニア心をふつふつとくすぐるものがあります。

「完全全曲盤」と称してサヴァリッシュが録音したとき、初めてこの曲を聴く人って多かったんじゃないかなあと(私もそうだったし)。それに慣れてから他の全曲盤(カットあり)を聴くと「ない!ない!」と叫んだりするわけです。

サヴァリッシュの実演は2回も観にいったのにもかかわらず、覚えているのは皇后の白塗りと第3幕の黄金の水の「黒子(クロコ)」ならぬ「金子」とグラスハーモニカ(オケピまでみにいった)くらいです。是非もう一回映像を観て思い出したいものです。

投稿: naoping | 2007年7月 6日 (金曜日) 20時44分

第3幕の後半だけとりあえず観ました(長いので・・・)。
ご安心を皆さん、リージョン・フリーで裏には4:3となっておりましたが、もとがNHKのソースでので、しっかりハイビジョンでした。
皇后のルアナ・デ・ヴォル(?)以外は皇帝のザイフェルト、乳母のリポヴシェク(おそらくこの頃がピークだったか)、バラクの若き日のタイタス、妻のジャニス・マーティン、伝令のロータリング・・・。
キャストが揃っていたんですねぇ。
素晴らしい舞台でした。実際にご覧になられた方々が羨ましいです。
なお、2枚組、5480円で地元新潟の小さなCDショップで入手できましたので、輸入CDを取り扱っているところならOKみたいです。

投稿: IANIS | 2007年7月 7日 (土曜日) 09時27分

>>IANISさん
ご報告どうも。キャストは意外とそろっております。ヘンに違和感のない人はいませんな。ルアナ・デヴォルは観に行くまで全く情報がなく、「どうして主役が知らない歌手なの?もしかして猿之助さんの細かい指導を受けるためにヒマな歌手を頼んだのかしら~」とかなりギモンに思いましたが、CD録音が少ないだけで、実力のある歌手でした。(このblogでもドイツ・オペラ・アリア集で以前取り上げました。)ヨーロッパにはきっとこんな歌手がいっぱいいるのかなあと思いました。

(それでも手に入らない方は、↑↑ネットで注文しましょう!!)

投稿: naoping | 2007年7月 8日 (日曜日) 09時11分

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