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2006年9月25日 (月曜日)

バレンボイム・ヴォツェック(97年)

Wozzeck おととい、昨日に引き続き9年前のベルリン国立歌劇場引越し公演の感想文をお送りいたします。
「わぐねりあん」のみなさまにはちょっと退屈な内容かも?と思われるアルバン・ベルクの「ヴォツェック」です。

この文章を読むと、懐かしさとともに不思議な感動が蘇ってきます。ワーグナーとはまた違う・・・戦慄とも似た。

1997年11月24日(月)ベルク:歌劇「ヴォツェック」(神奈川県民ホール)
ファルク・シュトルックマン(ヴォツェック)、ジョン・ヴィラーズ(鼓手長)、エンドリック・ヴォットリヒ(アンドレス)、グレアム・クラーク(大尉)、ギュンター・フォン・カンネン(医者)、ワルトラウト・マイヤー(マリー)、その他
アウレリウス少年合唱団員、東京横浜ドイツ学園の子供達
ダニエル・バレンボイム指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団(パトリス・シェロー演出)

今回のベルリン国立歌劇場の引越し公演では3演目もとってしまい、ワルトラウト・マイヤーの出る演目は全部観てしまったということになります。いまや彼女はワーグナーにおいて最高のプリマドンナであるということはいうまでもありません。

でも。

今日のベルクはいままで観た2つの演目などどうでもよくなってしまいそうなほど、すべてにおいて素晴らしいものでした。

本当いうと、この日もベストメンバーではなく、鼓手長役のはずのライナー・ゴールトベルクはインフルエンザにて交代を余儀なくされたのです。が、代わりの歌手はゴールトベルクより鼓手長に適していると思われる容姿であり、歌もなかなかでした。演奏の傷ではまったくありませんでした。

何が一番よかったかというと、当然のことながら曲が良かった。私はベルクのオペラを観るのは初めて(生でもヴィデオでも)だったので、今まで「ルル」の方は親しんで聴いていたけれど、ヴォツェックはそんなでもなかった(CDを聴いても退屈だった)ので当日まで退屈しちゃうんじゃないかと心配だったのだけれど、そんなこともうとんでもない。始まったらずんずんと引き込まれていった。

次によかったのは演出。あの、シェローですから。そして指揮、歌手のすばらしさといったら。(席もA席ながら一階の前のほうでかなり良かった)

全体約100分、3幕ぶっ続け途中休憩・拍手なし(始まる前もだぜ)。いつのまにかバレンボイムがオケピットに入ってて拍手する間もなく前奏が始まると、私のすぐ横の通路から大尉が急に歩いてきて「ラングザム、ヴォツェック」と歌いだし驚く。舞台装置は非常に簡素で、大きな積み木が並べられてる感じ。ピットから舞台に橋がかかっていて、そこから歌手は舞台へ。 (曲が始まるまえにその橋を渡ろうとしたバカな観客の女がいて、ヴォツェック上演史上最もはずかしかった)

ベルクの劇音楽で最も美しいのは場面から場面への移り変わりだと思うのだが(「ルル」もしかり)今日も本当に美しかった。

・・・
本当は(ワルキューレの時みたいに)一つ一つの場面にいちいち触れていきたいのだけれど、うまく表現できそうにない。

Meier_1 歌手についても、本当はすべてが素晴らしかったのに、いったい何がよかったのかよくわかんない。曲そのものにあまりに感動しすぎて、歌手はこの曲のしもべとなりこの演出の俳優となりきっていたので、なんとも感想はいいづらい。

マイヤーだってシュトルックマンだってこの歌唱のベストに違いないのに、どうしたわけかもう・・・大体オペラを観に行ったという感じがどうもしないのだ。前衛演劇か、ドイツの芸術映画か。やはりベルクの原作選びの感性の鋭さなのか。

とはいうもののやはりマイヤーのことには触れないと。彼女は歌手というより女優であったと思う。どんな役でもぴったりと自分のものにしてしまう才能、そして「これはオペラなのだからしかたないのだ」という妥協を視覚的にまったくする必要のない美貌、もう本当にいうことのないマリー(そしてジークリンデとクンドリーも)を見せてくれた。

まさしくこの年のベストの演奏だったと思う。

かわいいかわいいマリーの子供も熱演であった。マリーがヴォツェックに殺されて、マリーの子供の友達たちが「おまえのかーさん死んだよ!」といって立ち去り、その意味のわからないマリーの子供がおうまさんの玩具にのって「ホップホップ、ホップホップ」といっておいかけていく場面も、そもそもベルクが仕組んだこととはいえ、オペラの終結とは思えぬ衝撃であった。

それにしても、なんと美しいオペラなのだろう・・・。





(感想終わり)

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こんな感じで、呆然自失となって横浜から帰宅した。

このあと、オペラはしばらく何年か観にいくのをやめてしまった(びんぼーだったわけではないよん)。翌年たまたまロンドンで観たハイティンクのリング以外、オペラはほとんど観に行ってませんでした。多分、トーキョー・リングの「ジークフリート」と「ルル」日本人初演くらいでそれは破られたのだと思う。

今は全然そんなことはありませんが、他のオペラの存在そのものがばかばかしく思えてしまったのでした。

そして、ベルクの伝記にあったブーレーズの言葉が本当であると心より思いました。

・・・『ヴォツェック』はオペラそのものの総括であり、おそらく『ヴォツェック』をもってこのジャンルの歴史が最終的に幕を閉じたのである。このような作品のあとでは、劇音楽は全く新しい表現形式を探さなければならないように思われる。

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さて、次回はハイティンクの「ロンドン・リング」(with時差ぼけ)の感想をUPする予定です。
次回もまた見てくださいね~~~~んがふふ。

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コメント

「ヴォツェック」。あまり得意でないオペラの中では、好きな演目のひとつです。劇的な臨場感と、暗さがたまりません。私はアバドに行ったクチです。あそこではグルントヘーバーがタイトルロールでしたが、とても良かった。外来のオペラハウスを観たのは、後にも先にもそれっきりになっている次第です。んがふふ。

投稿: 吉田 | 2006年9月25日 (月曜日) 23時15分

>>吉田さん
えー?意外です。あ、そうなんですか。ほほ~
私も、わかりにくそーなこの曲も何か演劇みたいに思ったら意外と見やすいものなんだなあと思いました。
アバド&ヴィーン国立歌劇場引越し公演のときはワーグナーしか頭になかったので「パルシファル」しか行かなかった記憶があります。今考えると「ヴォツェック」のほうに行けばよかったです。ううう。

投稿: naoping | 2006年9月25日 (月曜日) 23時31分

naopingさん、こんばんは。
アバド&ウィーン国立歌劇場の「パルジファル」のご感想もぜひお聞かせくださいm(_ _)m

投稿: Niklaus Vogel | 2006年9月26日 (火曜日) 00時22分

>>Niklaus Vogelさん
大変もーしわけありません。残念なことにその引越し公演の感想文が残っていないのです。(大体、「パルシファル」の指揮は誰だったのかしら~、プログラムが実家にあるのですいません)
覚えているのは、ルネ・コロがパルシファルだったってことと、(ここ一番重要→)私の隣の隣の席の人が副指揮者(観客)だったので、気になって気になって全く舞台に集中できなかったってこと。(燕尾服きて、スコアめくりながら、最初から最後までバリバリ指揮してました。歌手の登場にはキュー出してね。カーテンコールのときに前に出て行こうとしたので足ひっかけてやりました)

投稿: naoping | 2006年9月26日 (火曜日) 00時37分

職場よりコメントなり。
「ヴォツェック」、いいですね~。ベルクのこの世ならぬ音楽に魅せられてしまいます。今拝見すると、あと1演目無理して行けばよかった。残念きわまりないです。グラハム・クラークが良さげ。
ウィーンの時も、私も「パルシファル」一本釣りでしたので、大好きなアバドなのに何故行かなかったのか不思議でなりませぬ。しかし観客席に副指揮者とは許せませんね。何者ですか。
正指揮は、亡き「ホルライザー」でしたよ。「コロ」と「グルントヘーパー」が素晴らしすぎでしたね。今でも舞台のすべてを覚えてますわ。

私の「ヴォツエック」体験は、二期会の日本語バージョンで、若杉弘の上演でした。これは衝撃でした。
ヴォツエックが沼?に沈んでしまうと、あたりは夕日のような赤に染まり、そこで素晴らしい甘味なベルク音楽が滔々と鳴りました。最高の思い出です。

あっと、すいません私のことばかり。いずれ私も「ヴォツエック」取り上げますね。

投稿: yokochan | 2006年9月26日 (火曜日) 12時26分

>>yokochanさん
職場よりありがとうございます。
ほんと、副指揮者ゆるすまじですよ。メガネかけた細身の若者でしたよ(当時)。もしこのブログを読んでたら白状してくださいね、その人。(するわけない~)
「ヴォツェック」二期会で、しかも日本語だったんですか!すごいですね、なんだか想像つかないんですが。若杉さんだったらよい演奏に違いないですね。
ほんと、私も「ヴォツェック」大好きです。いずれ「ルル」日本人初演の感想も取り上げる予定です。

投稿: naoping | 2006年9月26日 (火曜日) 22時41分

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